4-2:ノウレッジⅡ
4-2:ノウレッジⅡ
次にモニターに現れたのはおそらく年表であろう文字の羅列であった。
凹太郎は字は読めないものの、その表のカタチは元の世界とほぼ変わらぬ形式であった。
この世界、いや、この国の字の並び方向は日本と同じで、縦文章なら右上から、横文章なら左上からだ。
ミゴが話し出す。
「これからは私の説明で行いますね。
この国の文字は読めないでしょう」
「はい、お願いします」
「およそ900年前。
この国は元々、一血統の王族支配の国でした。
ベルレウン王国。
その頃のこの国の名前です。
種族でいえば竜人。
モン王子、モンディ・ベルレウンはその子孫にあたります」
元々この国を統べていた王家の子孫が今、王子としてこの国にいるのか。
物語とかなら復権のために暗躍していてもおかしくはないが。
ミゴが続ける。
「王族解体となったのは正にその900年前。
例の魔女……。
伝説の魔女はいくつも通り名がありますが、この国の通り名である名前を私たちの共通の名前にしましょう。
その名を【リリン・シャトワーズ】。
リリンが大活躍して世界を平定してまわっていたのが1000年前の頃。
この国もまた領地拡大、種族繁栄のために他の国と争っていました。
もちろん、相対する関係にあるこの2つがぶつかり合うのも当然の流れでした」
「ん?」と、凹太郎。
「ちょっとすみません。
確か、私が見た【王と伝説の魔女】の絵本の表紙の王は人間というか……黒い影みたいな絵で表現されていたけど。
少なくともモンディさんのような竜人……ではなかったような」
「オータロ、待ってください。
まだ話の途中ですよ……っと」
ミゴはそこで気づいた。
今、凹太郎とミゴのいる広間のほうへ向かってくる姿を視認したのだ。
ガラスのパーテーション越しにポワポがやってくるのが凹太郎にも見えた。
来るなり、ポワポは笑顔で凹太郎の横に腰かけた。
そして、
「ねね、今……あ、魔女のお話!?
手あいたので!
私もまーぜて!!」
元気に、屈託のない様子でポワポはそう言った。
ミゴはふむと、
「いいでしょう。
私も少し疲れました。
ポワポ、【王と伝説の魔女】のこの国の記録についての説明を今していました。
900年前、リリンとこの国が衝突したところからお願いします」
「はーい!!」
実年齢は凹太郎より上なのだが、見た目は小学生ほどのポワポ。
凹太郎はいくらか心配してしまったが、ミゴが任せたので大丈夫だろうとも思った。
加えて、今聞いた年代的に考えればポワポは当時の生き証人であるはずなのだ。
ポワポは話し出す。
「えーとね!
えーっとね!
このベルレウン王国の頃はね、この国を治めていた竜人、その他の種族は蔑まれて奴隷とかとして扱われていたの!
ま、それは他の国も同じで!
竜人が奴隷として扱われている国もあったよ!
そんな国を変えたのが魔女のリリンなの!
どんな魔法よりもいっちばんすごいことだね!
世界の、少なくとも半分以上の思考をもつ種族の、その差別意識を変化させたからね!
というか、強制的に従わせたという言い方もできるけどね!
それで!
それで!
この国は解体!
各種族の人権の平等な獲得をリリンに命じられたうえで国の在り方を話し合ったの!
そして、こんにちのこの国の交代王制と選挙とかがだいたい出来た感じ!!
そしてそして、解体後の最初の王は人間種だったよ!」
そこまで聞いて、凹太郎も得心がいった。
ポワポは続けた。
「では!
こっからが【王と伝説の魔女殺人事件】の絵本のあたまになるよ!!」
ミゴが付け加えるように、
「ものによってですが、さっき見せた映像の内容にそのままこの国の歴史を足してあるのと、別冊にしてあるものがありますね」
ポワポはミゴに遮られ、頬を膨らませたが気を取り直したように話し出した。
「人間種のその王、絵本では出てこないけど名前を【イマルマ・リグルース】。
ん?
そう!
アル王子、アルディオ・リグルースの祖先だね!
この王がね、国の整備をだいぶしたの!
システマチックに食糧を分配する仕組みとか!
権利とそれに伴う責任と罰!
あ、これはね!
権利と責任を負う分、収入や権益を得るけどその分悪いことしたら罰は重くなるんだよ!
とかとか!
あと、監獄地区とか他の国と共同で作ったし!
王になってから特にその活躍がすごいヒトだったよ!
最初の王に選ばれたのもそういう知恵と実行力があったからだね!
もともとは元王であったベルレウン王の奴隷だったんだけど!
奴隷という身分でだいぶ優遇されていたというか!
王との【レウレカ】……あ、盤上の侵略ゲームみたいなのなんだけど!
その対戦相手として呼ばれたり、王の息子の教育も任されていたらしいよ!
だいぶ堅苦しい人で、任されたことをしっかりするタイプだったとか!
はー、ちょっと、水のむ!」
そこまでまくしたてるように喋っていたポワポは突然立ち上がった。
そして、研究室入り口付近にある冷蔵庫だと思われる黒いオブジェクトから小さなプラスティックボトルのようなものを取り出してきた。
ミゴは「凹太郎も要りますか?」と聞いてきたが凹太郎は断った。
緊張感が解けるような気がしたからだ。
凹太郎はすこし深呼吸した。
なるほど色々とめんどくさい人間関係はありそうな事件である。
だけど、そういった情報は情報として、事件は事件として考えなければいけない。
偏見・思い込みは事実を歪ませるから。
ポワポは取ってきたボトルの口を開け、何か水のようなものを飲み、続きを話し始めた。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
誤字、脱字は随時修正していくぜ。
特に見ても面白いことはやりませんが、Twitter、チャンネル登録もよろしくだぜ。
リンク貼っていいかわからないので、興味がある方は検索してみてだぜ。