3-3:タンテイⅢ
3-3:タンテイⅢ
「ミゴさん、アルディオさんはどう?」
ソファに腰掛けたミゴに、凹太郎は聞いた。
ミゴは、ふむと一度顔を下に向け、再び顔を上げ、
「オータロ、本気で事件に介入したいのですか?
正義の心を否定はしませんがね。
……アル王子の返事は『保留』ということでした」
「正義の心かぁ。
どうだろな、下心かもしれない。
(ルラって子、かわいいからな)
……アルディオさんの返事は了解です」
「シタゴコロ?
まぁ、いいでしょう。
では、まず今日はオータロにこの世界を見てもらいます。
その上でオータロの世界との違いをお聞きしましょう。
そうやってお互いの知識を深めるとします」
言いながらミゴは手前にあったテーブルの表面をなでる。
すると、そこにディスプレイ画面が浮かび上がった。
タッチパネルになっているようでミゴはささっとその上で操作をする。
技術は凄いが、オータロには無駄に費用の掛かるモノのように感じた。
元の世界では余程のマニアでないと作ろうとは思わないのではないか。
技術力というよりもこの世界は資材が豊富なのかもしれない。
……いや、想像される異世界にしては技術力は高すぎるが。
天井に折りたたまれていた薄いモニターが下りてきた。
ほんと無駄に技術力高いなぁ、凹太郎は呆れ顔で思う。
俺の望んだ異世界はこうじゃないんだよなぁといわんばかりだ。
まるで、異世界+探偵モノが他にあるからそこから何者かによって道を逸らされている気配すら感じる。
それはともかく。
ドローンのようなものだろうか、映し出されたのは空中からの映像であった。
2棟の高い塔がシンボリックな城の姿があった。
2棟ではあるが、城の下のほうではくっついているようで実質1棟なのか。
建築様式は中世ファンタジーのようなレンガ造りでないが、形状はそれに近い。
大理石という表現ばかりになるが、そういった重厚な質感がある。
更に、ところどころ中が透けるようなガラス(?)張りになっている。
映像が城を見下ろすようなアングルになった。
城を囲うように円状に高い壁がある。
衛兵だろうか、壁の内に見える人と比べると5mほどの高さだろうか。
ミゴが説明を挟む。
「これが今、私たちのいる城。
この国は名前を『マリニエアンダ』。
『静かなる平等』という意味ですが……まぁ、私の意見はおいておきましょうか。
この城を囲む円形の壁のところに門がありますね。
正面がここです。
そして、そこから左右に2対の棟が見えますね。
左側が国王棟、右側が政府棟。
この研究室は政府棟です。
次は、街のほうに行きましょうか。
え?
ああ。
今の映像ではなく、これはデータです。
街全体を3D撮影して保存したもので、さすがに家の中までは記録してありません。
では、次に街です」
カメラが後ろに下がるように城から遠ざかり街並みが見えてきた。
文明的という表現は正しいのか。
それでも、牧歌的というには現代的でモダンな、曲線であったり直線の主張が強い建築群。
だが、大きく見たとき一番気になるのはインフラであった。
街の規模はものすごく大きいのに、広く大きい道路のようなものも見えるのに、車がない。
凹太郎は口をはさむ。
「車は。
移動に使う乗り物は映ってないのですか?」
「ああ。
これには映ってないですかね。
うーん、あ、ここ。
これは商業用車両。
こっちは国家車両」
ミゴが示した場所に、いくつかの大きなラグビーボールのようなものがあり、よく見ると車輪もついているようだった。
凹太郎は言う。
「どうやら個人用の車はないのですね」
「個人用?
ああ、なるほど。
そうですね。
この国内では、物資や人を運ぶ商業用車両。
政務や緊急時用の国家車両。
国民が移動する際は前者の大型車両を共有して乗ってますね。
個人で車両を保有すると事故が起きた時も大変ですし。
まぁ、国外移動の時は個人用車両を購入する場合もあります。
街の外に大きな市場があり、そこで仕入れたものがこの商業用車両で街の中の小市場に運ばれて……。
ああ、この民家群に囲まれたちょうど十字路の中心に来ている場所が小市場。
城から巨大な大通りが国の出入り口まで一本あって、その左右に小市場がそれぞれ8つできる形で民家群があります」
「それでお仕事とか成り立ってるんですか?
この国は」
「?
うーっむ?
もしかしたら、仕事の形態がオータロの世界とはだいぶ違うのかもしれませんね。
おそらく……経済が、個である程度の自由があって、国が成り立つために税金を納めるタイプですかね。
そういう国もあります。
ここは国を成り立たせるために国民が国にできる奉仕を選択して生活するタイプというか。
まぁ、奉仕貢献の具合でいくらか貧富差はできますが、生活できないレベルにはならないように調整されています」
「ああ、こういうのなんていうんだっけか。
社会主義?
共産主義?
社会系苦手だからなぁ。
いや、得意な科目なんてないいんだけども。
あ!
ああ、いえ。
なるほど、その通りです。
私の国はそういう国でした。
……例えば、その上で、私の国ではより稼いだ者が高価な個人用車両を買うなどして贅沢をしてました。
この国では、贅沢というと何になるのでしょう?」
「ふむ。
この国だと贅沢は食になりますかね。
あとはアクセサリーの類か。
……特権なんてのもありますね。
例えば、最新の電子端末を優先して購入できるとか、映画のような文化物の制作に集中できる文化専心権とか。
え、映画?
ありますよ?
ここでも、古いものなら見れますけど」
映画等のエンターテイメントはあるのか。
なのに漫画はないとは。
まぁ、でも、私の世界でも漫画がエンターテイメントとして地位を築いたのはひとえに漫画を大人でも見れるものに昇華させた天才がいたり、そこに経済的価値が生まれたのが大きいのかもな。
この国では自動車ですら個人所有のものとして発展はしていないようなので、そういうものなのかもしれない。
凹太郎はそんなこと考えつつ、
「あ、では、事件が片付いたらゆっくりと見せてもらえたらなぁと思います」
「……」
「……なんですか、その見れたらいいですねみたいな間は」
「次の話にいきましょうか」
「おい!」
「……ちなみに今見た街とは反対側。
今、映像を出しますね」
画面は来た道を戻るように城まで行き、追い越すように城の裏側を映した。
更に裏側の城壁を抜け、街とは反対側にある光景を映し出していった。
先の霞めるほど広大な大地。
その真ん中に大きな一本道。
そして、その左側に農業地帯、右側に工場地帯。
「国民が交代制で貢献してますね。
あと、わりとチェックは厳しいです。
頑張ってる人が損しないようにってのが根幹ですね。
逆に、成果を無理に上げなくてもよいんですが、一度、それで全体成果が下がった歴史があります。
それから成果の多い人ほどより贅沢ができる仕組みになりましたね。
ズルには厳しいですし、それを監査する人とか仕事上・責任上上位にあたるヒトも罰則は重くなります。
まぁ、上位のヒトは貢献度も大きくなりますが」
「まったく働きたくない場合は……」
「別に問題はありませんよ?
食は配給だよりで、自由さも感じなくなるかもしれませんが。
生きることは出来ますし、働きたいときに働いてもらえればみたいな。
わりと何もしないのも大変ですからね。
あ、すごい働いて、その後、働かずにのんびり過ごすヒトもいますね、たまに。
『来年は探偵にでもなるか』ってブラックジョークも割と珍しくありません」
「へぇ。
……ほんとに、そんな国なんですか?」
「表向きは。
……と、言いたいところですが、今は割とルールの守られたいい国だと思いますよ。
そうですね。
うーん。
オータロの世界ではどうでしょう。
ちょっと見てもらいましょうか」
映像ははるか上空へと視界を移し、長方形上の壁で囲われた国の形を映し出した。
壁の外側には四方に広い平原があり、映像はその左の方へパンしていった。
縮尺からしても、だいぶ離れたところに四角い敷地があり、映像はそこへ近づいて行った。
その詳細が見え始めた。
高い壁に囲われた、この国と同じ広さほどあるだろう場所。
敷地内には木々が生い茂り、広い森そのものが内包されているようである。
家のようなものも幾つも見える。
だが、この国とは及ぶべきもないくらい整地されていない場所である。
ミゴが言う。
「ここが、この国の汚い部分というか。
いや、いくつかの他の国とも共同なので、この国だけではありませんが。
ルールを逸脱した者や犯罪者はここに収容され、出ることも許されません。
冤罪の可能性がある者や即死刑のような場合は除きますが。
ここの名前を『ナタルテニガン』。
『もう一つの理想郷』という意味です」
「……私の世界にも罪を犯した者を収容する場所はありますが。
こちらの世界よりは優しいですね」
凹太郎はミゴに自分の世界の犯罪とその処理について簡単に説明した。
凹太郎ははふと、
「そういえば、ドラゴンとかはいないのですか?
モンスターとか。
闇の魔王とか。
この世界を脅かす存在は。
あと、ドラゴンを乗り物にしたりとか」
「あー……っとー。
ドラゴンはいます。
おそらく単語が通じているようなので、ほぼ同種の生物を指していて間違いないとは思います。
ただ、乗り物に……あー、昔と言っても古代ほど昔ですが、その頃は確かに、そういうこともしていたらしいですね。
今では、歴史の中で姿を変え、ヒト型の者も多くなりました。
いわゆる古代の姿のドラゴンは賢竜といわれる、世界に3体のみ。
乗り物にしようと考える者はいないでしょう。
いたとして、そういうことを考えるような輩はこの牢獄エリアに入れられて、出てくることはないでしょう。
モンスターは……。
獣ということであれば、いますが。
オータロが言ってるのは、もっと、害をなす知恵のない生命体……くらいでしょうか。
わりとオータロの中の異世界の認識は古代のソレにあるように思われます。
そこを補足すると、おおかた知恵のある種族は共同で暮らすようになっているのが現代です。
まぁ、差別は今でもいくらかありますし、すべてが平和とは言いません。
ですが、ここ1000年の間は静かなものです。
種族に関してはまた別の機会に。
えー、闇の? マオウ?
それは、少しわかりませんね。
マオウ。
え?
世界を支配しようとする悪意と強大な力を持った存在?
ほう。
ほーう。
かつて、戦争があった頃にそれに近い存在は記録に残っていましたね。
今ではおそらくいません。
少なくとも、単純に悪意で世界を支配しようとする存在を私は見たことがない。
悪意をもってこの世界を脅かす存在も同様ですね」
「ありがとうございます。
すみません、突然、気になったもので。
あと、すみませんついでに」
凹太郎は左手の甲を見せるように上げた。
「この紋章。
アルディオさんに任命をされた後にできたものらしいのですが。
これも魔法に分類されるのですか?
昨日の説明だと魔法以外の力はない、魔法が行われると魔法陣が生成されると聞きました。
ですが、これが出来たのも最初気づかなかった」
「魔法は……基本の3つに分かれるといいましたね。
【発生】、【生成】、【変化】です。
ですが更に上位の言い方にすると、【事象の省略】、【事象の拒絶】、【事象の支配】になります。
本来、火を起こすなどエネルギーを生み出すためには過程がありますが、それを省略することで発生させる。
本来、そこにない水をあるものにするために、その事実を拒絶することで生成する。
本来、木は木、鉄は鉄ですがそのありようを支配することで変化させる。
これは基本を習得した後に習う、魔法の3原則。
で。
魔法が発動すると魔法陣が発生します。
昨日言った、【魔紋】ですね。
しかし、発動がどのタイミングかというと、全てが呪文詠唱時ではない。
今、オータロはアル王子と接続、本来ない関係を拒絶され、事象のひも付けが行われている。
そして、例えば、オータロの首がはねられる等の命の変化が起きた時。
その過程は省略され、アル王子の首もはねられた状態になる。
そのはねられたときに初めて魔法として魔紋が発生する。
その手の紋章はその魔法の契約証になってるわけです。
ふむ。
オータロが何か能力を持っているとしてですが、魔法が発生している前段階のために魔紋がでていないことはありえますね。
要は、その手の甲と同じで契約証の状態ということです。
詳しく調べたいようならいつでもおっしゃってください。
尽力しますから」
ミゴは凹太郎のためと装いつつも、しっかりその無表情の内に好奇心が見て取れた。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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