5. 襲撃の前章
昼休み、血辻紅は、いつもの如く授業が終わるとすぐ本をもって屋上へ向かう。
理由は、あの場の空気が好きじゃないから。
みんなで楽しく弁当を食べる。そんな中で、本を読むというなは、なんとも居た堪れないだろうか考えるまでもない。
そして、身体の熱を冷ますため。二年前のあの日あの夢見た時から、熱が下がる見込みは、見えてこない。
家や学校では、ポケットに保冷剤を入れているから気持ち良いが、学校の屋上で吹く風の方が全身から熱が抜けるみたいで、気分が良い。
そして、誰も居なく静かだ。ここより最高な場所など無いだろう。
そして、屋上へ向かう階段を登り、ドアを開けすぐ近くにある屋根の方に向かい壁に寄りかかりながら座る。
今日も、気持ち良い風が吹くいい雰囲気だったが、その雰囲気は五分もせずに壊れていった。
「あ、やっぱり居た。」
「ホントに居たし、てか、屋上って開いてたんだ。今度から行こ」
「………」
紅が、リラックスしている最中、屋上の扉が開き。亜里沙、澪奈、雫の三人がいきなり入って、静かだったこの空間が急にぶち壊された。
「何しに来たんだ?」
紅は、少し怒った。雰囲気を漂わせながらその言葉を発する。
「実は、昨日の事を謝ろうと思って……」
「ああ、そういえば昨日、つけられてたっけ?」
(気付かれてた!!)心の中で驚き彼女達は、すぐ頭を下げた
「その、ごめんなさい。」
「別に、一年前、先生につけ回された事あるからあまりなんとも思わない。………時雨さんのことだろ?」
これまた、三人は驚き、何故分かったのか疑問が浮かんだ。
「高崎時雨刑事は、死亡と報道されている以上、誰も彼が入院しているなんて普通に思わない。彼の存在を知っているのは、俺と警察の上層部、病院の一部の関係者と、つけ回していた先生くらいだ。大方、先生にでも聞いたか、あの変な紙をあんた達に見せたかだろう。」
大方筋は、通っている。流石、学年一位の人材だ。見立てが早い。
てか、先生あの説明書本人に見せたんだ。という驚きも若干強く残しながら
「大体そんなところよ。」
「あんたにも、ずっと黙っていてすまなかったな。」
紅は、雫に父親のことで、謝ってきた。
「確かに、思うところはあるけど、お父さんの面倒を見て貰っていた事もあるし、結果的に、お父さんの安否が分かったからもう良いわ。
でも、何故お父さんが、あんな目にあったのかが分からない。だから教えて欲しいの二年前の、警視庁で起こった事件の全貌を」
少しの間、彼の沈黙が続く。
どこから話すべきかなと、紅も悩んでいた。
どっちみち彼女の父親が回復すれば、いずれにせよ知ることにもなるだろうからいっそ全部言ってしまうか。
「長くなるぞ」
「いいわ」
「実はというと、あの事件が起こった原因は、俺にあるんだ。
俺は、あの日あの夜警視庁に足を運んだ目的は、主に二つ。
俺の父さんと妹を殺した犯人を捕まえる事そして、『short』って言う危険薬物を取り引きし、その薬の捜査を撹乱していた刑事達を捕まえる事だ。」
『short』とは、2026年に流行した違法薬物。効果は、他の違法薬物と同じで、一時的気分の高揚、自信が増し、疲労感が取れたように感じる事と、身体の筋肉、体力の増加などといったドーピングのような効果もある。副作用は、20分後身体の五感が徐々に失われていくという。まさに『short』に相応しい名前だ。
「俺の家族を殺した犯人と捜査を撹乱していた犯人は、同一人物だってなんとなく分かってはいたけど、一番驚いたのは、shortを取り締まる刑事のほとんどが、shortを仕入れていた事と、犯人は、父さんの上司ってことかな。そこで、話を進めていったら、突発的に一人対約二十人の乱闘が始まった。」
そこからは、数の暴力。屈強な警察官が、よってたかって一人を殺すのに多勢で、殴られたれ蹴られだったが、紅には、武道の心得があったためなんとか、受け身、受け流し、カウンターで耐えきったが、拳銃で肩を撃ち抜かれた時は流石にもうダメだとは思ったが、その後のことは、覚えていない。
覚えていたのは、高崎時雨刑事が俺を庇い頭から血を流して倒れていた事、家族を殺した犯人の心臓を自らの手で握り潰していたという感覚のみが、断片的に、覚えていた。
この、赤い髪の毛も、毛先が赤黒くなっているのも返り血が髪に染み込んでいるからで、切ろうと思っても髪が固くて切れなかったため、気付けば髪が長くなっていた。との事。
「あんたの父親は、単に巻き込まれただけだ。深い関わりは無い。時雨さんに怪我させた奴は、もう死んでいる。
世間的に死亡と報道された理由は、あの事件の真相をうやむやにし、事件自体を小さくしようと警視総監がやった事だ。」
「でもなんで、こんな大事な事件を小さくしようとしたのかしら?」
「この事件が起こる約1ヶ月前とある詐欺グループが警視庁内部に侵入し、全国的に、詐欺事件の発生件数が増えている事が明らかになり、警察の信頼は地に落ちた。
その信頼を回復させようとしていた矢先にあんな事が起こったんだ。上の連中は、揉み消そうとしたんだろうな」
「そんなことで……」
「汚いね……。」
「それが世界であり、政府のやり方だ。」
紅は、彼女達の知りたいであろ事の全てを話した。
もちろん結構な事を要約して話してはいたが、そう簡単に話していい事ではないなと今一度思い返し、少し呆れたふうに言う。
「他になにかあるか?」
「ねぇ、ちょいといい?」
「なんだ?」
紅は他に質疑は無いか聞くと亜里沙が口を開いた。
「なんで、学校辞めるの?」
「やらないといけない事があるからだ。」
「そのやらないといけない事って」
「そもそも、なんでこんな事まで話さないといけないんだ?」
「それは……」
この事は、二年前と全く関係の無い話。その事以外の事を話す必要性は、紅には全くない。
だが、亜里沙は、先生に頼まれたからなどと使命感で聞いているわけではなく完全に興味本位だ。どう返していいか分からないまま、しばらく声が出なかったが、澪奈が答えてくれた。
「いいじゃん話しても。血辻は、周りとか全然話さないし、話かけようとしても、近づくなって雰囲気がダダ漏れで、話せない子とか多いし、単純にみんな、あんたに興味があるんだよ」
「………」
「だからさ、なんかあったらここに居る三人だけでもいいから教えてよ!ね!」
澪奈は、顔を紅に近づけ笑顔で、明るい声でそう言った。
(澪奈は、凄いな〜。こんなにも人に寄り添える言葉を言えて……私もいつか、こんな風に……)
素直に澪奈を関心する亜里沙。
「……新聞でもある通りこの地域にも、キメラの生存、死体が多く発生している。俺は、それを辿ってある人物を探している。これからは、本腰入れて探すから学校なんて通ってる暇ないって事だ。」
「あ、ちょ……」
亜里沙の質問に答えた後紅は、屋上の扉を空け、階段を降りると同時にチャイムが鳴る。
「「「あ、」」」
彼女たちは、紅に追いつくペースで追いかけ亜里沙が手をつかもうとした時、
「ちょっと一緒に戻りま」
「触るな」
強く大きい声で、その単語を引き出し、手を振り払った。その大きな言葉に数秒立ち止まり何も言葉が出らず驚いた。
その後、ここにいる人達は、何言も話す事無く教室に戻った。
(彼の手熱かったな……)
***
時間は、昨夜へ遡り、場所は、キメラが群がる謎の研究施設。
その場には、白衣を着たあまりにも不健康な研究者らしき人物とこの世界では無いような物、腰に大剣を携える武人のような人物の姿があった。
「ここのキメラを譲って欲しいと、あんたは、このキメラをどうするつもりなんですか?」
「襲わせるんだよ。こいつらは、この世界で唯一魔力を持つ魔獣なんだからよ。有効活用しねぇと持ったいねえ。」
「ほお、このキメラが持つ力をあなた達は、魔力とそう呼ぶのですね。なんともまぁ〜この血は興味深いものだ。別にいいですよ。いくらでも持って行って。代わりはいくらでもいる。また作ればいいしなあ」
(全く薄気味悪い奴たぜ……)
「ところで、何処を襲わせるつもりだい?」
「ああ、俺たちの世界にあるイーディアス王国の姫君のいると思われる。ここだ。」
武人のような奴は、地図を机に敷き、明日襲撃する場所に指を置いた。その場所は、私立夜桜国府学園を指していた。
指した場所を研究者らしき人物が覗くと何故か薄気味悪くニタニタしていた。
二年前の紅の過去を余り詳しく描かれていませんが、話が進んで行くうちに、いずれ明らかになっていくのでお楽しみに。