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パーティーから追放されたがっている無能がいるのでお望み通り追放してやった

作者: 青水

 パーティー〈夕闇〉は五人で構築されている。大抵のパーティーは四人だが、もちろん五人のパーティーだって、うち以外にも存在する。だから、俺はこのまま五人でパーティーを続けるつもりだったのだが……。


「ねえ、イアン」シェリーが話しかけてきた。「ヘンリーのことなんだけどさあ……」

「ん、ヘンリーがどうかしたか?」

「あいつ、マジむかつくし、パーティーから追い出しちゃおうよ」


 俺――イアンは前衛の〈戦士〉。

 ライネルも同じく前衛で〈騎士〉。

 シェリーは後衛で〈魔法使い〉。

 アデラも後衛で〈神官〉。

 そして、ヘンリー――〈荷物持ち〉?


 いや、荷物持ちはジョブではないし、ヘンリーは荷物持ちもしていない。ただ、俺たちが戦っているのを後ろでぼんやりと眺めているだけ。

 正直、存在意義がない。では、なぜ彼が我がパーティーに在籍しているのか? それは、ヘンリーが俺の幼馴染だからだ。幼馴染のよしみで、パーティーに置いている。ただ、それだけのこと。


 最近、他のメンバー三人から不満が噴出している。あんな使えない、それどころか働こうともしない男を、パーティーに置いておく意味なんてないじゃないか、と。

 その通りだ。その通り、なのだが……やはり、幼馴染ということもあって、なかなかクビ宣告することができない。

 うーん、と唸りながら曖昧な態度を取り続けていると、


「というか、あいつもパーティーから追い出されたがってるっぽいし」

「……どういうこと?」

「なんか、あいつ……自分は本当はものすごく有能で、でもこのパーティーの奴らは僕のことを使いこなせてないんだーとか、もっと僕に感謝しろよおーとかなんとか、ぶつぶつ言ってた」

「なんだそりゃ???」


 俺は首を傾げた。あいつが有能? 


「どういうことだ?」


 俺が聞くと、シェリーは推測を述べた。


「思春期によくある症状だと思うけれど、自分のことを『普通の人間』じゃなくて、『特別な人間』だと思い込んでるのよ」

「でも、もう思春期って年齢じゃないだろ」

「いつまでも思春期――精神的に未熟ってことよ」


 俺とシェリーが話していると、ライネルとアデラがパーティーハウスへとやってきた。何の話をしてるの、と尋ねてきた二人に、シェリーが『ヘンリーをパーティーから追い出そう計画』について話す。


「うーん……」ライネルが腕を組んだ。「思春期引きずってるのもあると思うが、スキル屋に騙されてるのもあると思う」

「スキル屋に騙されてる?」と俺。

「まあ、厳密には騙されてるわけじゃないんだが……」


 ライネルの話。

 ヘンリーはスキル屋で、自分のスキルを見てもらった。スキルというのは、先天的に持っているものが多いが、後天的に手に入ることもなくはない。

 ヘンリーは〈パーティー強化〉というスキルを後天的に手に入れた。このスキルは、名前通り、パーティーの仲間――つまり、俺たち四人――の能力を強化する、というものだ。

 〈パーティー強化〉はパッシブスキルらしくて、つまり、何もしなくても自動的にスキルが発動するのだ。つまり、俺たちはヘンリーのスキルの恩恵を常に受け続けている、と。

 実際のところはどうなのかよくわからないが、ヘンリー本人はこの〈パーティー強化〉というスキルが、俺たちにとてつもない効果を及ぼしている、と考えているようだ。


『僕のおかげで、このパーティーは活躍出来ているというのに、どうしてあいつらは僕に感謝しないんだ!』

『あいつらは僕を――〈パーティー強化〉を使いこなせてない。もっと、優れたパーティーなら、このスキルは絶大な効果を発揮するというのに!』


 ここで疑問なのは、どうしてヘンリーは自らパーティー〈夕闇〉から出ようとしないのか、ということ。


「イアン、お前に対する配慮なんじゃないか?」

「配慮?」

「お前ら、幼馴染なんだろ? ヘンリーも一応、〈夕闇〉に入れてもらったことに感謝してるから、自分から脱退することに対して躊躇いがあるんじゃないのか?」

 ライネルの意見に、「それはどうでしょう……?」とアデラが言った。

「つい先ほど気づいたのですが……ヘンリーはパーティーの活動資金を横領しているようなんです」

「な、なんだって!?」


 クエストを行い得た金は、六等分にわける。その六つのうちの一つを、パーティーの活動資金として貯蓄しているのだ。

 その管理は主に、ヘンリーが行っていたのだが……。


「横領ってマジで?」とシェリー。

「ええ、私も信じたくなかったのですが……」とアデラ。「いくらヘンリーが無能で、戦闘にも参加しようとせず、それなのに報酬だけちゃっかりもらって、性格もうざいクズだとしても、さすがに横領するとは思いませんでした……。クズ過ぎです」

「イアン!」ライネルがテーブルを叩いた。「ヘンリーを呼ぼう」

「……わかった」


 俺は通信用の魔道具を使って、ヘンリーをパーティーハウスに呼び出した。ヘンリーはいつものように軽薄な笑みを浮かべて、のこのこやってきた。


「緊急の用事って何さ? 僕さ、忙しいんだよね。今日は仕事の日じゃないでしょ?」

「パーティーの活動資金を横領したっていうのは、本当なのか?」


 俺が尋ねると、ヘンリーはおかしそうに笑った。


「あ、バレちゃった?」


 あっさり認めた。認めやがった……!

 反省の色はない。焦りもない。ちょっとしたいたずらがバレた、小さな子供のように無邪気に見えた。しかし、ヘンリーは立派な(?)大人だ。


「おい、ふざけんな! 今すぐに金を返せ!」ライネルが怒鳴った。

「みんなさ、今まで僕の〈パーティー強化〉の恩恵をさんざん味わってきただろ? それなのに、僕に対する感謝の念が薄い――というか、まったくないよねえ。だから――」

「そんなもんあるわけないじゃない!」シェリーは怒った。「あんた、なんもしてないくせに報酬だけはきっちりもらってさ……挙句の果てに横領なんて、ほんっと最低ね!」

「ふんっ。これは横領なんかじゃない。正当な報酬をもらっただけだよ」

「ヘンリー……」


 俺は大きくため息をつくと、覚悟を決めて言った。


「〈夕闇〉から出ていけ」


 すると、ヘンリーは待ってましたと言わんばかりに、歪んだ笑みを浮かべて頷いた。


「いいとも。出て行くよ。出て行くとも。だけど、後になって『ヘンリーを追放するんじゃなかった。お願いだから戻ってきてくれ』なんて言わないでくれよ」

「そんなこと、言うわけないじゃん!」とシェリー。「あんたこそ、『〈夕闇〉から出て行くんじゃなかった。お願いだから戻らせてくれ』とか言わないでよね。そんなこと言っても、もう遅いんだからね」

「ふんっ。そんなこと、絶対に言わないよ」


 ヘンリーは俺たちに背を向けると、パーティーハウスから颯爽と去っていった。


「僕のスキル〈パーティー強化〉の恩恵がどれほどのものだったのかを知って、後悔すればいいさ」


 そんなことを言い残して。

 ……いや、横領した金返せよ。


 ◇


 ヘンリーが〈夕闇〉を脱退してから一か月が経った。

 正直、なにも変化はない。いや、むしろ、ヘンリーがいなくなったことで、クエストの効率が上がり、一人当たりの報酬も増えたので、いいことずくめだ。


『僕のスキル〈パーティー強化〉の恩恵がどれほどのものだったのかを知って、後悔すればいいさ』


 そんな捨て台詞を吐いていたが、失われた『〈パーティー強化〉の恩恵』がどれほどのものだったのか、よくわからない。ほとんどまったく変わらないような気がする。数値にして表すのなら、『10001』が『10000』になったくらいだろうか……? 

 おそらく、ヘンリー自身は〈パーティー強化〉というスキルの効果を絶大なものだと思っていた(思っている?)のだろう。しかし、実際には大したスキルではなかった。つまり、過大評価だったのだ。


 あいつ、元気でやっているだろうか?

 クエストを終え、パーティーハウスに戻ってくると、ドアの前にみすぼらしい格好をした男が一人立っていた。


「あれヘンリーよね?」とシェリー。

「そうっぽいな」とライネル。

「ドブネズミのように汚くなっていますけれど、ヘンリーのようですね」とアデラ。


 ヘンリー。一か月前に脱退した男が、一体何の用なのか……?

 格好がみすぼらしいだけではない。表情は暗く、全身痣だらけだ。怪我をしているようだ。モンスターではなく、人間によって刻み付けられた傷の数々。もともと細かったが、そこからさらに痩せたようだ。ダイエットというよりかは、やつれたというべきか。


「ヘンリー、何か用か?」俺は尋ねた。

「イアン。実はお願いがあって――」

「まさか、『〈夕闇〉から出て行くんじゃなかった。お願いだから戻らせてくれ』とか言わないわよねえ?」とシェリー。

「…………っ」


 その通りだったのか、ヘンリーは歯を食いしばって俯いた。


「いまさらもう遅いっての」シェリーは言った。

「そ、そんなこと言わないでよ……。僕ら、友達だろ?」

「あんたなんて友達じゃないわ!」シェリーは言った。「あたしね、あんたのこと昔から大嫌いだったの。だから、あんたがパーティーから抜けたときは、正直清々したわ!」

「ぐっ……」

「俺もお前のことを友達だとは思ってなかったよ。俺にとってお前は、イアンの腰巾着野郎に過ぎん」とライネル。

「……ううっ」

「あなたは友達どころか、その辺の通行人以下。ゴミムシみたいなものです」とアデラ。

「あ、ああああっ……」

「幼馴染ではあるが、友達とは思ってないな」と俺。

「うわあああああああああああああ!」


 ヘンリーは泣き叫びながら、どこかへ走り去って行った。


「なんだったんだ……?」


 俺はぽつりと呟いた。


 ◇


 酒場で物知りな冒険者から聞いた情報。

 ヘンリーは〈夕闇〉脱退後、他のパーティーに自分を売り込んだ。自らのスキル〈パーティー強化〉の有用性を熱烈に説いて。


 しかし、加入したパーティーで結果を出すことはできず、すぐにクビになった。

 〈パーティー強化〉が役立たずならば、優れた能力を持たないヘンリー自体が役立たずとなる。役立たずをパーティーに置いておく理由はない。

 ただクビになる――追い出されたのなら、まだいい方で、ひどい場合だと詐欺師扱いされてボコボコに殴られたりすることもあったようだ。


 パーティーの加入と脱退を幾度か繰り返したところで、ようやくヘンリーは現実を受け入れることができた。

 現実――〈パーティー強化〉は大したスキルではない、ということに。


 その後、もと居たパーティー〈夕闇〉に戻ろうとしたヘンリーだったが、メンバー(俺たち)に拒絶され、ソロの冒険者として活動することにした。(その頃にはヘンリーの悪評が広がっていて、どこのパーティーも彼を拾ってはくれなかったのだ)


「で、ヘンリーはどうなったのよ?」シェリーが尋ねた。

「つい先日、狭い路地で凍死したところを騎士団に発見されたとか」


 と、物知りな冒険者は答えた。


「死んだのか、あいつ」とライネル。

「いい気味です――とはさすがに言えませんね」アデルは言った。

「まあ、それがあいつの選んだ道なんだから、しょうがないさ」


 俺は酒を飲んだ。アルコールが俺に酔いをもたらし、酔いが思考の鈍化をもたらしてくれる。考えすぎるのはよくない。うん、よくない……。

 あのとき、


『イアン。実はお願いがあって――』


 あの後、おそらくヘンリーは〈夕闇〉に戻らせてくれ、とでも続けたかったのだろう。

 それを受け入れたかというと……やはり拒絶しただろう。俺たちが悪いわけじゃない。あいつが選んだ道。道を引き返すことはできない。


「ま、自業自得よ」


 シェリーはそう言うと、ぐびぐびとエールを飲んだ。

 そう、自業自得だ。

 俺たち四人は朝まで酒を飲んで、盛大に酔っぱらって、ヘンリーのことを忘れた。


 その後、最初から四人だったかのように、パーティー〈夕闇〉として俺たちは活動をつづけた。ヘンリーの話題が上がることはその後二度となかった。


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