93.アラサー令嬢は反省する
…必要はない。かも?
教室までの間、視線は感じたがそれほど不躾なものはなかった。
歩くほどに、生徒の数が減ってきたのもあるのだろう。
1年のAクラスは、廊下の突き当たりにあった。
「シャーロットとジャックは、教室は初めてだね」
「昨日は、自己紹介とか…名前を呼ばれたりは、なされましたか?」
私の質問に王子は首を振った。
「皆、わざわざ名乗らなかったし、昨日は出席も取らなかったよ」
ゲームにも『自己紹介』シーンはなかったなと、思っていると目的地についた。
「ここだよ」
教室のドアは、外側に開かれていた。
シリウス、王子に続き、少し緊張しながら入ると、教室の後ろ側のドアから入ったにも関わらず、中にいた生徒がいっせいにこちらを見た気がした。
(はわわ…)
仕方ないとは思うけど、早く座ってしまいたい。
「どこに座ればいいのでしょう?」
「好きな場所でいいみたいだ」
教室は、階段状になっていて、一つ一つの席がとても立派だった。
(昔のヨーロッパの議会場みたいだ)
階段教室はスチルでも見たけど、全体的にキラキラしていたせいか、こんな重厚な感じはなかった。
前方にある黒板を見ると、前の方の席にキャロルらしきストロベリーブロンドが目に入った。
何人かの男子に囲まれている。
(かわいいし、光の精霊の守護持ちだし当然だなー)
なんて考えていると、彼女がこちらを振り向いた。
目が合った途端に、花が綻ぶように笑った美少女に驚く間もなく、彼女はささっとこちらに向かって歩いて来た。
「シャーロット様…!」
その勢いの良さに、思わず一歩後ずさってしまった。
(なぜこっちに来るの!? 隣に王子もシリウスも、ついでにジャックもいるのよー!)
「…キャロル様、おはようございます!」
とりあえず挨拶を口にすると、キャロルはハッとしたように口元に手を当てた。
「お、おはようございます、シャーロット様…」
恥ずかし気にうつむくキャロル。
少しかすれた声はセクシーで、笑顔にエフェクトがかかって見えた…
(…やばい、何この破壊力。さすがヒロイン…!?)
「おはよう、グレーテル嬢」
私を押しのける様に出て来たシリウスに、あわててキャロルの正面を譲る。
「おはようございます、クロフォード様」
シリウスにも、笑顔で挨拶するキャロル。
「おはよう、グレーテル嬢」
シリウスとは反対側から出て来て、同じように私の前に立った王子が、笑顔で挨拶をする。
(わぁ、キャロルに挨拶するのを争ってる!)
昨日1日のあんな僅かな時間で、この2人に好意を持たれるヒロインの潜在力に感心するしかない。
「おはようございます、エメラルド殿下」
キャロルは、落ち着いた様子で挨拶をした。
(王子様を前に堂々としている。大物だなぁ)
等と考えていると、シリウスと王子の隙間から私を見て、彼女は少し声を潜めて聞いた。
「シャーロット様、昨日はお世話になりました…あの、お体は大丈夫ですか?」
あ、そうか。
心配してこっちに来てくれたのか!
「平気です、有難う」
私がそう告げて笑うと、彼女は胸に手を当ててほっと息を吐いた。
「よかった…私が以前、森で転んだ時は、次の日に体のあちこちが痛くなったものですから」
そういえば…と、己が全然筋肉痛になっていないことに気づいてハッとする。
(ジャックを下敷きにしたから…?!)
気づいてジャックを振り返ると、ジャックは爽やかに笑っていた。
「私も大丈夫ですよ、シャーロット様」
「そう、よかったわ…」
「君と彼とでは、鍛え方が違うよ、シャーロット」
シリウスが慰める様に云うが、違うのだ…
キャロルは、きちんと気遣えるというのに、私はジャックに助けてもらったことすら忘れてた。
(――ダメじゃん!)
昨日のイベントは、全部終わったと思ってたから…。
色々あったし…。
(いや、あれだけ大きい出来事を忘れちゃダメだよ、私…)
「本当に気にしないでください。訓練では、盾を持った男性を支えることもあるので」
あれくらい軽い、と示されたが良心がチクチク痛んだ。
しかし、ここで謝る訳には行かない。
(私がジャックに謝ったら、キャロルもまた、私とジャックに謝り始めるだろう)
私は、もう(なるべく)迷惑かけないからね!、という決意を込めてジャックに頷いた。
(あれ?ジャックの顔が少し赤い…あぁ)
キャロルが、ジャックの方を見ているのに気づいて納得する。
(見つめられただけでね、純情だわ)
さすが脳筋設定というか…
「シャーロット、そろそろ先生が来るよ?」
呼ばれて、そちらを振り向くと、王子様は近くにある空席を指した。
教室の真ん中の後ろの方である。
「はい…あ、キャロル様も一緒に座りませんか?」
ぱっとキャロルの表情が明るくなった。
「はい!ご一緒させてください」
ジャック、王子、シリウス、その前列にキャロル、私という並びで座ることになった。
他の生徒達も、思い思いの席に着いた。
席は多めにあるようで、私の隣も空席だし、所々に空きがある。
ゲームだと、シャーロットが、『平民と一緒に座るなんて汚れるわ!』とかなんとか言い出して、周囲までそれに迎合するような感じになっちゃって…その結果、庇うように、王子が自分の隣にキャロルを座らせたのよね。
(隣とまでは行かなかったけど、まぁこれでも充分近いわよね!)
私は、結構いい仕事をしたと思っていた。
…シャーロットは昨日ジャックに謝り倒したし、キャロルさんはジャック君を気遣ってません…。




