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悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


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89/95

87.アラサー令嬢は翻弄されている


 ゲームでのジャックは、元々自覚のあった『劣等感』という傷を、悪役令嬢に広げられ、毒を塗られたような感じで…そこに、同じようにシャーロットに虐げられるヒロインが現れ、慰められ救われるのだ。


(虐げる気はまるでなかったんだけど、今叱りつけてしまった?ことで…)


 やっぱり、私、ジャックにとって悪役令嬢になってしまうの?

 しかも…騎士見習いルートの末路は、とても悲惨だ。


 ドキンドキンと、心臓の音が耳に響いた状態で立ち尽くしていると、ジャックが私に頭を下げた。

 

(いや胸に手を当ててる…コレって正式の礼だ)


 な、なに? こんなシーン、なかったが…


「…そうでした。私は騎士なんですね。思い出させていただいて感謝いたします…姫」


 熱い告白のような言葉に、自分の顔がぼっと赤くなるのが分かって慌てて首を振る。


「私は、ひ、姫ではありません!」


 親が子供に言う愛称なんかは別として、姫と呼ばれるのは、王家の女性のみだ。

 ジャックは顔を上げた。

 その表情は、いたずらが成功した子供のように笑っていた。


「私もまだ、『騎士見習い』ですらありません」


 そうだ。

 騎士学校に行かなかったジャックは、正式には今何者でもないんだ。


(『騎士見習い』っていうのは、あくまでゲームのルート名なんだ)


『王子の護衛』といっても、学園内限定で、非公式な物だし。


「ですが、貴女が私を『騎士』と呼んでくださるなら、私は『騎士』であろうと心掛けます」

 

(…えーと? 私、何て返せば…)

 

 思考停止してしまったが、相手は何か期待を込めた目をしてこちらを見ている。


「…で、殿下をお頼みします」


 ようやく絞り出した声に、ジャックが少し顔を下げたが、すぐに顔を上げさわやかに笑った。


「分かりました」






 …おかしなやり取りだったが、明らかにジャックの私への態度が、柔らかく変わったのでよしとする!


「そちらを右です。もうすぐですよ」


 いちいち向けられる笑顔が、胸に刺さるけど!


 エスコート通りに歩くと、やがて先ほどの建物へ続く石畳に着いた。


「もう始まっているようですね」


 中からキャーとか、わーとかの嬌声が聞こえてくる。

 ジャックは扉を開け、中をのぞくと、私に頷いた。


 皆、中央に置かれた台の上に目が行っていて、注目されないのを幸いに、私はこそっと入って王子やシリウスを探した。

 二人は台を挟んで、生徒たちの反対側にいたので、すぐ分かった。

 そちらには教師や関係者の大人たちがいる。

 近づくと、気づいたシリウスが歩いて来る。


「大丈夫だった?シャーロット」

「もう平気です。心配かけてごめんなさい」

「そう、良かった」


 シリウスは柔らかく笑った。

 そして後ろにいた、ジャックに「ご苦労様」と声を掛けた。

 ジャックは静かに頭を下げた。


 合流した王子にも『大丈夫』を繰り返したが…


「良かったけど…シャーロット。後で話が…」


 キラキラなプリンスの笑顔が怖い。

 先手を打って、とりあえず謝った。


「後先考えずに、走ってごめんなさい」

「…驚いたよ」

「…本当にごめんなさい」


 心から頭を下げる。

 隣にいた女の子(しかも侯爵令嬢)がいきなり走って、他の女の子の下敷きになったら、自分だったらパニックになるだろう。


「まぁまぁ、シャーロットも無意識だったんだから仕方ないよ」


 シリウスが間に入ってくれたが、こちらの笑顔もちょっと怖い。


「シャーロットには、これから何か動く際は、僕らのことを思い出してもらえると有り難い」

「ごめんなさい…」


 そんな私たちのやり取りを見ていたジャックも、口を開く。


「もし次があったら、シャーロット様を止めますからね」

「はい?」

「その結果、女子生徒がケガをするかもしれませんが、私はシャーロット様()止めます」

「えぇー」


 人でなし発言ぽくて、私は多分青ざめながら、ジャックを見上げた。


「シャーロットが、気になる場所を指で差すだけにして、その場から動かなければ、ジャックは女子生徒を助けられるね」


 ニコニコしたシリウスが、私に追い打ちをかける。


「わ、分かりました!」


 っていうか、私が余計な真似をしたのは分かっているのだ。

 そんなに怒らなくても…とは思うけど、侯爵令嬢がケガしたら周りが迷惑か。


(下手したら、ヒロインのせいでケガしたことになって、周囲から彼女が責められて…)


 …うあぁぁぁ、危ない!

 少しズレてるけど、ゲームを進行させてしまったかもしれなかった!


(王子やシリウスが、止めてくれたとは思うけど)


 状況によっては、それでも周囲が暴走したかもしれない。


 うぁぁ…ーと、改めて己の所業を振り返っていると、ジャックが苦笑気味に口を開いた。


「あの時は、シャーロット様が何をされるか私には分からなかったので、止められなかったんです」


 あの時のシャーロット(わたし)は、『何の脈絡もなく、突然走り出した危ないヤツ』ですよね、分かります。


「今は、シャーロット様が、どのような方か分かったので、止められると思いますよ」

「そうなのですか…」

「はい」


 そんなに私、分かりやすいヤツかな? 貴方、私とほぼ初対面じゃない――と、少しムっとしたけど、ジャックは私を理解してくれてる、もしくは理解しようとしてくれてる…と思えば、いい傾向である。


「有難う。何かあった時は…もちろんないように気を付けますが、よろしくお願いします」


 頭を少し下げて顔を上げると、優しい笑みが見えた。


 …うん、悔しいけど攻略対象の顔はホント皆かっこいいわ。



…なんか攻略されてます。

…アラサーが知ってるゲームと違って、少し黒いジャックくんです。



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