81.アラサー令嬢は気合いを入れる
気合いを入れていると、王子がジャックと戻って来た。
「そろそろ行…どうしたの?シャーロット。少し顔赤くない?」
王子がこちらを向いて、少し心配そうに尋ねる。
「大丈夫です。殿下、私頑張りますね!」
王子は『何かあったの』と言いたげに、シリウスの方を向いた。
シリウスは笑顔(…どことなく胡散臭い)、を浮かべていた。
「シャーロットのやる気が出たのは、いいことだよ」
「そりゃまぁそうだろうけど…」
そう、やる気を出さねば。
何と言っても、今日はゲームの1日目!
入学したてのヒロインは、学園の門をくぐる所からスタートだ。
(もう講堂に入った頃だろうか?)
門から講堂の席につくまでは、彼女がひらひらと歩き回り、周囲の様子がキラキラのアニメーションで流れて、特段イベントは発生しない。
ただし、ゲームを一度、トゥルーエンドで終わらせた後だと、この初日に分岐ができる。
『おかしいと思ったのよね。普通、門の前でもめるとか、つまずくとかして、それをイケメンが助けるのが流れだもん!』
(と、偉そうに言ったのは、乙女ゲームだけでなく、BLも嗜むクラスメイトだったか…)
地方の男爵家に、養女として入ったヒロインは、学園の寮で生活をしている。
その寮を出るところからの、スタートになるのだ。
心配げなメイドのケイトから、カバンを受け取り、
『大丈夫!私にはみんながついているから!』
と、笑うヒロインのバックには、光と花があふれていた。
引き取られた男爵家で、彼女は男爵夫妻と弟に暖かく迎えられ、王都に出てくる時も男爵自らが送ってくれたのだ。
(ゲームプレイ時は、愛あるエピソードだと思ってたんだけど…)
今なら、彼女が『聖女』だから、男爵自ら王都に『届け』に来なければならなかったのでは?という穿った見方が可能だ。
――『光』の守護精霊を持つ者は、国の重要人物だ。
本来なら、発見されたら、すぐに王都に送られていた筈だ。
だけど今回の場合、彼女が平民で、貴族としての教養がないため、王都に来ても苦労するだろうから、その準備期間としての男爵家との養子縁組なんだろう。
(きっと信頼篤いんだろうなー、優し気なひげのイケオジだったグレーテル男爵は)
そうでなければ、彼女の故郷ではなく、王都近くの適切な貴族の家、例えば家長が『宰相』であるシリウスの家にでも預けられたはずだ。
(あぁでも、四大公爵家が互いに牽制しあった結果かもなぁ…『聖女』を娘にして、王子へ嫁がせられれば、大ポイントだ)
いきなり平民を公爵や、上級貴族の家の養女にするのは難しいけど、今は男爵家の養女だから不可能じゃないし。
(ハーロゥ公なんかは、エリザベスちゃんがいるから、聖女争奪戦には参戦してないかな…?)
でも、何かしてそうだとは思う。
これまでの傾向と対策による偏見だ……でも外れてないと思う。
あと、どこまで『聖女』の情報が洩れてるのかな?と思ったけど、シリウスによれば、学園に通う子供のいる上級貴族の家には、通達が行ってる可能性があるとのことだった。
『入学すれば、精霊の審査があるからバレるしね』
その時に大騒ぎにならないよう、事前の予防策らしい。
(公爵家以外も含めて、水面下で争っているのかしら…)
家では、お父様は何とも言ってなかったけど、見送ってくれたお母様がちょっと怖い笑みを浮かべていたような…。
怖いといえば、ロマンス小説のタイトルでありそうな、いわゆる『聖女』様が、学園にいると知った後の姉様もちょっと怖いなぁ。
(ゲームでは、シャーロットと一緒にヒロインを蔑んでいた気がしたが…そもそも、あまり出番はなかったのよね)
一番シャーロットの出番が多い『王子ルート』がそうなのだから、他のルートならアマレットは出ていなかったかもしれない。
(まぁ学年違えば、生活圏違うから…気を回すことないか)
……何かのフラグを立てた気がする。
……で、寮を出たヒロインは、
1.寮の敷地内で迷って、男子寮から来た攻略対象者と出会う
2.学園の門のところで、感動して立ち止まったら、走って来た攻略対象者とぶつかる
3.門から講堂までの道で、ポワポワした小さい精霊に導かれて攻略対象者と出会う
と、3つの選択肢が与えられる。
ランダムに出てくるので、攻略したい相手によって、ここでリセットしてやり直したりする。
(…ただ、2でぶつかるのはジャックだし、3で出会うのは王子とシリウスだ)
その3人、今目の前にいるのよね…
うーむ…
「それじゃ、行こっか」
「はい…あの」
私は声をひそめて、シリウスに「例の光の方は…」と尋ねた。
「…うん、寮に入ったって聞いたよ」
ぼそっと答えるシリウス。
それは知ってます。
「事前にお会いしたりは…?」
「いや、殿下も僕もない」
(やっぱり、ここへ来る前にも会ってないか)
ならイベントは起きていないか、寮で誰かと遭遇したりしてるのかな?
「父上には、あくまでも、ただの同じ新入生としてふるまえと言われた」
え?宰相様、それはちょっと…
「…無理がありません?」
「仕方ないよ。いきなり僕や殿下が近づいたら、それこそ色々問題になる」
(あー女子とか、女子とか、女子とか…ですね。分かります)
ならシャーロットが行ったら…下手すれば、イジメと取られそうだな。
(もともと悪役令嬢だし…)
「…私も、問題がありそうですね」
「う…ん。いきなり筆頭令嬢から話に行くのは、少しね」
学園内は一応、『身分の枠を取り払った自由主義』とは銘打っているものの、社会的混乱を招かぬよう、一定の節度は必要だろう。
(下より上が気を使うべきだよね)
…上級貴族に知られているのは、『聖女』のお婿さん探しとは言えないよね。




