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悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


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78.アラサー令嬢は門をくぐった

遅くなって申し訳ないです。

ようやく『魔法学園』編?です。




 魔法学園の入学式の日、私は一人で馬車に乗って学園まで行った。

 在校生であるお姉様は、集合時間がズレているので先に出ている。


 正門前はよく馬車渋滞が出来ているらしいが、事前に王子から連絡があり、婚約者特典で王宮の方角にある、別の門を使わせていただいた。

 来賓や通学。

 王族が学園に来る際は、ここから出入りするらしい。


(明日からは、姉様と一緒に正門ね)


 あまり特別待遇は良くないので(多方面に…)、お試しぐらいがちょうどいい。


 さりげなく衛兵の立つ、警戒された道から、門をくぐる。

 馬車が止まると、外側からドアが開き、手をこちらに差し伸べるエメラルド王子が見えた。


「おはよう、シャーロット」

「おはようございます、殿下」


 美形オーラ満載の、16歳の王太子殿下である。

 向けられる笑顔は、陽光を弾く金髪と相まってキラキラし過ぎて、目がくらみそうだ。

 正しく、『天空の精霊王国フィアリーア』の攻略対象者その1の姿だ。


(王子様って、エフェクトなしで光るものなのね…)


 その自然発光王子の手を取って、馬車を降りると、もう一人の攻略対象者が待っていた。


「おはよう、シャーロット」

「おはようございます、シリウス」


 こちらも、美青年オーラが容赦なく輝いている。

 何と言うか…少し長めの黒髪が、艶光りしているのだ。


(『世界中が嫉妬する髪』ってこーゆーのかも…)


 前世でのシャンプーのCMを思い出す。

 

(このシャンプーもコンディショナーもない世界でよく…)


 と思うが、案外それがいいのかとも思った。




 フィアリーアは、基本的に『精霊ファースト』の国だ。

 彼らが棲みやすいように、田舎だけでなく、街でも緑が豊かだ。

 排気ガスを出す乗り物もなく、空気がキレイで、髪も服もそんなに汚れない。


 石けんも、海藻や灰で作られた原始的なモノしかないが、それほど困ってない。

 髪の手入れも、石けんと、植物から採れる油で十分だ。

 ハチミツも艶出しに使われているが、シャーロット的には、虫が寄ってきそうで忌避感がある。


 その代わりと言っては何だが、ウイザーズ邸では、シャーロットの作ったローズウォーターが、美容に加わっている。


(バラを大量に使うんで、それほど量が取れないから広げられないんだよね)


 王子に頼めば、王家御用達で高額取引されると思うけど、そうなると平民はおろか下級貴族にも回らないのは学習済だ。

 量産体制が整ったら、海外から来たモノっぽく、さりげなく港町から広げるつもりだ。


 ローズウォーターは、精油研究の副産物だった。


 オリーブから油が採れるように、香りの良い植物から香りの油が採れないか?――と、商業担当のジェスパーに相談したところ、貿易関連のネットワークから、異国で働いたことがあるという職人を紹介された。


 海の向こうの国で、『香料』を作る現場を見たことのあるという男性は、こちらのおぼろげな記憶――『植物を蒸して成分を取り出す』と、己の見識を合わせて『蒸留』の工程を考えてくれた。

 そうして出来上がった、前世の写真で見たような蒸留の器材を見て…


(頭のいい人すごいぃー!って、マジ思った…)


 おまけに、


『おそらくこの方法で、あちらの国では「薔薇水」という、化粧水を作っていたのではないかと思います』


 と聞いて、ローズウォーターと精油は同じ工法で、出来ることを知った。


 バラの中には色々成分があって、それらは種類によって沸点が違う。

 その性質を利用して、バラをローズウォーターと精油に分けることが可能になる。


 ジェスパーに頼んで、バラの大量生産計画を立ててもらい、研究できる工房を作った。

 工房では、まずローズウォーターを作ってもらって、並行して精油の方の研究も進めてもらってる。


(試供品はどんどん、香りも手触りもよくなってきてるから、実用までもう少しだー)


 バラの精油だけでは強いので、オリーブオイルと混ぜてのテストは、シャーロット自ら行っている。

 サリーはいい顔をしないが、自分の無駄に長い髪の超・有効活用だと思っている。



 これらの研究資金は、パンやハーブやアクセサリー小物の売上を()てている。


 クロワッサンもどきも、城下ではすっかり広がり、アレンジされた物も出て来て、時々王子とシリウスを呼んで、こっそり試食会をしている。

 果物を入れた物などもあって、もはや至福の時間である。


 ジェスパーは直接工法を教えてない店からは、『アイデア料を取るべき』だと主張していたが、ウチの直営店はまだ、そこそこ儲かっているので、全く同じ物でない限り放置にしてもらった。

 

(まぁ、こういうのは秘密にしても、どこかから広がるとは思ってたから…)


 ただ、パンよりもっと簡単に広がると思ってたハーブは、全然広がらなかった。

 不思議に思い調べてもらうと、そこいらに生えている草から、お茶(高級品)を作るのに抵抗があるらしい。


 ただの雑草じゃないか? いやそう見えて実は別の植物では?

 …で疑心暗鬼になってるとのこと。


(確かに、根拠もなく、ただの草かも知れない物で商売するのは抵抗あるわな)


 そんな訳で、『ハーブティー』はまだウイザーズ侯爵領の専売で、結構な利益を叩き出している。



 おかげで、侯爵家あての借金返済は、大体1年と少しで終った。

 今は原料の購入費として、ある程度の収入を侯爵家に納めている。


「帳簿上は下町のお店も、工房も侯爵家のモノですが、きちんとお嬢様の利益は別途積み立ててますので、何かご入用がございましたらいつでもお言いつけください!」


 ジェスパーに言われ、『積み立ててるってどこへ…』とか目が遠くなったが、街の商業組合に銀行のような機能があるらしい。

 国内の商業組合の支部なら、どこでも預金が引き出せると聞いて、思わず


「が、外国では…!?」


 と、聞いてしまったが、さすがに国外はダメらしい。

 少しがっかりしたが、国外追放される時に地方で引き出せば…等と考えていると、


「お嬢様は、他国にも目を向けてお出でですね…!」


 ジェスパーの目が異様に輝きだした。

 目を向けざるを得ないだけなのだが、『いや、もう国外にパン屋の支店とか直接作ればいいんじゃね?』との甘い囁きが胸をよぎり…


「…私の作った物が、他国に広がれば素敵ですね」


 等と、優雅に答えてしまった。

 侯爵家の商業担当は、平身低頭すると部屋から去り……なぜか、猛然とダッシュしたようだ。

 激しい足音が去っていく。


「何がございましたか?」

「さぁ…」


 首を捻りながら顔を出したロイドに、私は緩く首を振った。

 側に付き添っていたサリーが


「あの者は、いつもあのような感じですので…」


 というと、ロイドも納得したように頷いていた。







…「(とりあえず)門はくぐった」って感じになってしまいました。

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