53.アラサー令嬢は把握する
…更新遅れて申し訳ない(_ _;)
あとからサリーに指摘されました。
「お嬢様が『アマレット様を見習う』とかおっしゃられるから…」
「言ってません!」
言ってない…そんな怖いこと。
軽くぱにくってる二人をなだめつつ…
(とにかく、最近はほとんどのお茶会ブッチしているし…)
「そろそろ顔を出すくらいしないと、別の種類の心配されるんじゃないかと…」
病気がちとか、社交もできないとか――まぁその辺りはすでに爺公爵に言われてると思うけど。
少し落ち着いたシリウスが、息をはーっと吐きながら言った。
「お茶会では、君は結構『謎の令嬢』扱いになってるから、顔を出さなくてもそれほど波風立ってないよ」
「なんですか、その『謎の令嬢』って…」
悪役令嬢よりはマシだけど、黒幕とかラスボスっぽい。
「まぁ仕方ないね」
余裕が出てきたのか、王子がふふっと笑う。
「銀の髪の子がいないんで、君がいるとすぐ分かるし」
「そうですか…。私、この髪だけでも、かなり目立っているのですね」
(そうか、髪か…)
自分にとっては、すっかり当たり前になってるんで、意識から飛んでいた。
勿論、珍しいのは知っていたが、髪色だけで特定されるほどとは思わなかった。
(金髪の人は普通にいるから、その中にいれば銀なんて地味かと思ってた)
下町には金髪も少ないから、髪色を替える必要があったと思ってた自分である。
今も肩に流れる、黒に染まった己の髪を見る。
(実際落ち着くしなー黒髪…)
「お茶会も、黒髪のまま出られればいいのに…」
思わず、泣き言を言ってしまったら、シリウスがいたずらを思いついたような顔をした。
「…それいいかもね」
小さい声だったので、王子と私以外に聞こえなかっただろう。
「…もしかして、コレで出られます?」
私が肩に乗った髪を少しつまんで言うと、「やり方によっては…」との言葉が返る。
いつもじゃ意味ないが、一度くらい周囲を気にしないでお茶会に出てみたい。
王子も何か考えているようだ。
お茶を一口飲んで、カップを下ろすタイミングで、シリウスに囁く。
「…お願いします」
シリウスはさりげなく、指で丸を作った。
店内では、紅茶や新しいクッキーの試食、今後の方針を話し合った。
王子は『通いたくなって困る』とのこと。後ろの護衛の人が密かに頷いているのが見えた。
シリウスからは『この紅茶は美味しすぎて下町だと浮くから、もうちょっと質を落とすかハーブティのみにしてもいいんじゃない?』との指摘をもらった。
(…うう、紅茶ホンと難しい。お店が町に馴染むまで、ハーブティにしぼったほうが良さそうだわ)
その後、場所をウチの屋敷で移したあとの相談では、王子が自分も変装してお茶会に出たいと声を上げた。
「殿下は…難しいよ」
シリウスが顎に手を当てて難色を示す。
「シャーロットは難しくないの?」
「シャーロットの髪の色は、皆知ってるけど、顔は知らない子が多いから何とかなると思うんだ」
「…皆が、知っているのですか」
思わずどん引いた。
出席率が2割以下の令嬢の髪色だぞー
「君を見たことのない子が多いんで、噂が独り歩きしてるんだ」
「興味のある子は多いだろうから、話題になるんだよ」
そう言われれば当然か。
高位令嬢で、何といっても王子様の婚約者(暫定)だもんね。
「それに比べると、殿下の顔を知らない子は殆どいない」
ですね。貴族の子弟の社交で、一番初めに覚えないといけない顔だわ。
否定できない王子も「うーん」と唸ってる。
「分かった、諦めるよ。まぁ僕は、ただの好奇心だからね」
「『王子様』という立場以外から、皆と話したい気持ちは分かるよ」
ぽんっとシリウスが王子の肩に軽く手を置いた。
王子がその手を軽く叩く。
「まぁ、君が色々教えてくれるから、不満はないけどね」
なるほど、王子様の目でもあるんだなぁ、シリウスは。
(ゲームでも思ったけど、この2人の信頼関係強いよね)
そして今、目の前には、スチルにもなかった、ロイヤルな美少年2人の深い絆を思わせるシーンが繰り広げられていて…。
(…私でも目の保養だけど、前世の友人が見たら興奮しすぎて倒れるレベルだわ)
「…シャーロットは、何か目的があるの?」
王子から声をかけられ、はっとして、緩んでるかもしれない口元に手を当てながら答える。
「申し訳ありません、崇高な目的とかはないんです…」
うーん、恥ずかしい。
まだ12の王子様が、『立場を離れて皆の声を聞きたい』なのに、アラサー入っている自分は…
「ただ、どこにいても誰かに見られているだけのお茶会以外に参加したいなぁ…と」
身分的に、あちらからこちらへ話しかけるのは難しい。
(そして、私が話しかけると、キョドってどもって逃げられる…)
王子とシリウスも、もちろんいいお茶会仲間なんだけど、やっぱり同年代の女子とちょっとした話がしたいなぁ、と思うのです。
(お姉様も、もちろん同年代女子なんだけど…話が…うん、合わない…)
以前、アマレットお姉様に付いて、お姉様のお友達の、伯爵令嬢のお茶会に参加したことがあった。
子爵令嬢も、男爵令嬢もいたけど、皆節度を保ちながらもフレンドリーで、
(さすが!お姉様。お茶会クィーンなだけあるわ!)
と感動したのも束の間。お菓子やお茶の話が一息ついたところで、始まったのだ…ロマンス小説談義が。
『「…涙の石」お読みになった? ヒロインを振り切った異国の魔法使い様、涙が止まりませんでしたわ!』
『「…の果て」の騎士様!あんな方がいらしたら私、どこまでも付いていきますわ!』
『「…もう一度」の伯爵様!あんなに悪い方なのに、私もう!もう!』
…止まらないマシンガントークの渦に翻弄され、一言も発せず帰宅した。
それ以降、お姉様とお茶会には行ってない。
いや、分かります。趣味の話は楽しい。
自分だって、大好きなゲームの話で夜通しトークしてました。
(でも、サリーがメイド仲間から借りてきて読ませてもらった、こちらのロマンス小説は合わなかった…)
大抵、貴族のご令嬢が、見知らぬ男性(最初から身分が高いか、実は身分が高い)に出会い、最初から最後まで翻弄されて終わるのだ。
男には何らかの使命やら、暗い過去やらがあって、その辺が女性には受けるらしい。
しかし自分には…
(ヒロインもっと疑えー! そんな男、簡単に信じるなよっ! 箱入り令嬢が外に出て暮らせる訳ないだろーが!)
…等、ツッコミの嵐だった。
あと、やたらめったら『運命』って言葉が出てきて、それを聞くと高確率で令嬢がコロッと落ちる。
(何でだーーーー!!!)
本を閉じた後、脳内で絶叫した。
シリウスが何かやらかした時の王子みたいに額を押さえていると、サリーが気遣わしげにお茶を淹れてくれた。
紅茶を一口飲んで、つぶやいた。
「アマレットお姉様が、口癖のように『運命』、『運命』というのは…」
「おそらくは…」
趣味はいい。趣味を持つことは素晴らしいけど…姉への影響の多大さに、サリーと目を合わせて、大きなため息をついた。
…この世界の『ロマンス小説』がすべてアレではなく、アマレット姉様の好みがアレです。
…宮廷魔法使いのキャリアウーマンが隣国の公子に見そめられて…とかだったらアラサー喜んで読んでたかも。




