52.アラサー令嬢は考慮する
見習い騎士ルートの『ジャック・ランドウッド』は、父親の跡を継ぐべく、騎士を目指していた。
一度は攻略した…というか、このルートが一番簡単だったのだ。
誰しも一度は攻略したんじゃないだろうか。
(確かゲームだと、王子とは幼馴染と言ってもいいくらい近かったはずだけど…)
他の攻略ルートでも、王子の左右どちらかにはいた…という感じのスチルを、結構覚えている。
でも今、王子の近くにいる同年代はシリウスのみだ。
(これから護衛としてでも入ってくるのかな?)
ヒロインに対しては、身分差によるイジメ(もちろん悪役令嬢シャーロットの出番あり)に対する同情から近づいていく。
(境遇が似てるということで、最初から好感度高めだったのよね)
『僕も平民上がりのくせにって、言われたことがある。でも殿下は全く気にしないで、取り立ててくれた』
『ランドウッド様…』
『ジャックって呼んでほしい』
(てっきりお母さんが平民だったのかなーと思ってたけど、お父さんの方だったのか…)
そして、見習い騎士ルートの『悪役令嬢シャーロット』の扱いは、とーーーっても酷い。
『平民上がりが、殿下の護衛なんて!』
『恥を知る者なら、自ら辞退するはずですわ』
『近寄らないでくださる? 汚らわしい…』
…って、そりゃもう罵りまくってたもんね!
召喚した魔物ともども、一緒にグサグサ刺されて、そのまま瘴気の渦にポイされても、当然だよね!
スチルがとっても美麗で、鮮やかな紅色メインなんだけど、エグさはあんまり隠れていなかった。
(誰得なのか、却って強調されていたような…)
これが怖くて『騎士見習いルート』は、二度とやらなかった。
あんまりチョロすぎるのもつまらなかったし…だがしかし。
(今や私が、そのエグい扱いされた『シャーロット』なんだよね!!)
やーーだーー(涙)!
会っても罵らないなんて当たり前だけど、できれば王子の護衛にも入ってほしくないぞ。
顔見てスチル思い出したら、何か叫び出してしまいそうだ。
「騎士団長の子供なら、やっぱり騎士を目指すのかな」
「だと思うよ。父親みたいになりたい、って目輝かせてたから」
「…でしたら、私達みたいに魔法学園でなく、騎士学校に通われるのでしょうか?」
一縷の望みをかけて聞いてみた。
騎士学校はその名の通り、騎士の養成校だ。
魔法学園が貴族に特化しているのに対し、騎士学校は平民にも広く門戸を開いている。
騎士団長の例からも分かるように、騎士職は働き次第で平民でも成り上がるチャンスのある職業だ。
当然人気があるので、試験も難しいらしい。
この世界には『女性騎士』が少ないながらも存在しているので、男女共学なのもポイントだね。
(女性騎士って何か憧れるよね)
まぁ伯爵以上の令嬢は前例がないから(調べた)、『王子の婚約者』じゃなくても選べなかっただろう選択肢だ。
「あ、そうか。だから僕の側仕えに推挙されなかったのか」
同い年なら、魔法学園での警護も兼ねて、すでに王子の側仕えになっている筈なのだろう。
思わず『おぉ~!』とガッツポーズをしかけた心を、シリウスが無情に押し留めた。
「どうだろうね。ダグラス殿は自身が魔法学園に通わなかったことで、貴族として苦労していると言っていたから、息子にはその轍を踏ませたくないんじゃないかな?」
「そうなんだ」
おそらくダグラスさんは、平民として騎士学校に行ったのだろう。
それなのに、今は伯爵……苦労してそうだ。
「領地経営は代官に任せるという手は取れるけど、社交はね」
「騎士団長でしたら、社交儀礼が多少アレでも許されるのでは?」
「うーん、表立って注意されたりはしない分、本人が気にするんじゃないかな」
「…それは、分かります」
「分かるの?シャーロット」
王子が意外そうに訊く。
「自分がその場にいることが、間違っているような気分になるのはつらいです」
いわゆる『場違い』というやつだ。
実を言えば、よく感じている。
「私はあまり外に出ないせいか、どうもお茶会やパーティに馴染めなくて」
二人がいる時は別ですよ?と王子とシリウスに笑って断りを入れる。
「周りの人もそう思うのか、皆に見られている気がして…。何かおかしい所があるなら言ってもらえれば直せるんですが、大抵の場で私が一番高位令嬢なので、皆言えないのでしょう」
おかしな静寂が流れた。
王子とシリウスと、壁に控えてるサリーや王子の護衛等、その場にいる皆さんの視線を感じる。
シリウスが、お茶を一口飲んでカップをソーサーに置き、おもむろに口を開いた。
「…あのさ、シャーロット。僕らと一緒にいる時も、シャーロットは皆に見られてるけど、別におかしな所はないよ?」
王子とシリウスは、身分的にも外見的にも、どこでも注目の的だ。
そんな相手が側にいれば、目立つに決まっている。
「あ、はい。シリウスや殿下が一緒なら、それだけで注目されますもの。おかしな所がなくても不思議ないですよ」
シリウスと王子が顔を合わせる。
何か真剣な表情だ。
今度は王子が意を決したように口を開いた。
「シャーロット、自覚した方がいい。僕らがいなくても、君は目立つよ」
「え、やっぱり! どこがおかしいのでしょう!?」
サリーやお母様に指摘されないということは、やはりお茶会現場の何気ない仕草だろうか?
(あぁいうのは、場数がモノを言うのよね)
王子の顔がくもったので、あわてて言葉を重ねる。
やはり、指摘しにくいことなのだろう。
「いえ、大丈夫です! 回数をこなせばそれなりに形になると思います」
上品な立ち居振る舞いは、お母様やロイドを参考に少しづつ形になっていると思う。
あとは…
「やはり、もう少しお茶会に顔を出した方がいいですよね」
空気に慣れないと。
「まぁ、君がそう言うなら…」
「その辺は後で打ち合わせよう…」
何か憂いの表情だ。二人も忙しいんだよね…
「申し訳ありません。お姉様ほどにとは考えてませんので…」
アマレット姉様は、週の半分はお茶会に出かけている。
(もう半分も埋まりそうな勢いだと、ロイドが遠い目をしてつぶやいていた…)
『お姉様』を引き合いに出したのは、ただの出席率の比較だった。
だけど一瞬の沈黙の後、二人が同時に口を開いた。
「ちょっと待って! シャーロット」
「姉君に倣うことは、君にはないから!」
「君は今のままで十分だよ!」
「落ち着いて、シャーロット!」
うわあ…何か踏んだ?!
(姉様か? お姉様、何をやったの?)
『お前が落ち着け』と言いたいところを抑えて、私は
「は、はい!」
と大きく頷いた。
…アラサーシャーロットさん、あまりにフツーとかけ離れた己の容姿には驚愕→恍惚…を通り越して、今はもう麻痺状態にあります。




