51.アラサー令嬢は戦慄する
時間空いて申し訳ない…<(_ _)>
「あ、シャーロット。母上…妃殿下とのお茶会のことだけど」
「今度は、どんな理由がついたんだ?」
先回りしてシリウスが、お茶会ドタキャン(になるだろう)理由を尋ねる。
「シリウス」
一応王妃様の動向だし(嘘でも)、王子の言葉を遮るのも本来アカンので、一応咎めておく。
申し訳なさそうな王子に、私は大きく首を振った。
「いいのです、殿下。王宮は敷居が高いです」
偽りなく真実だし、王妃教育もマナー的なことは、お母様にちょこちょこ教わっている。
(結構厳しいです、シャーロットママ。笑顔を絶やさずおっとりと、されどびしびし来る系)
公爵令嬢だったお母様は、家の期待を一身に受けて、王妃になるべく教育を受けていたらしい。
(非公式かもしれないけどシャーロットママは、王様の婚約者候補どころか、婚約者そのものだったんじゃないかなぁ)
ここにいるエメラルド王子が7歳で婚約しているのに、今の国王様の婚約者が、学園在学中に決まったっていうのは、やはり違和感のある話だ。
お母様はお父様に夢中だった。
ハーロゥ公はお母様を王妃にしたくなかった。
(この二人の『利害の一致』の結果、何かあったんだろうなぁ…)
多分当時は、大騒ぎになっただろう何かが…。
お母様、ハーロゥ公に嫌われているとか言ってたけど…なんかすごい同盟(結んだ訳ではないでしょうが)だわ。
「…いつもすまない、シャーロット。だけど、今度は本当に理由があるんだ」
「そうなんだ」
「そうなんですか」
思わずシリウスとハモってしまった。
王子が額に手を当てる。
「今回は、王宮騎士団の団長が、所要で王都を離れることになってね。警備が万全でない時に、来客を迎えるのは障りがあるという理由だ」
私はシリウスと顔を合わせた。
「団長様がいないだけで、障りが出るのでしょうか?」
それで大丈夫か王城警備?――と思ってしまった私に、シリウスがあっさりと応えた。
「ギリギリだな。今の団長は結構カリスマだから、不在だと女性には心もとないかもね」
「5年前の北領での魔物退治だっけ」
「あ、私も聞いたことがあります!」
この国の北方には深い森が広がっていて、数十年に一度、力のある魔物が現れるという。
ただ魔物といっても、悪魔とか異種族でなく、大体、大型になったり毒や鋭い牙を帯びる、動物の変異種だ。
森の奥にあるという泉から湧きだす、『瘴気』を浴び続けると変化するらしい。
この辺りの設定はゲームでもあって、『悪役令嬢シャーロット』が呼び出した魔物も、此処の出身だったりした。ははは…(泣)
「5年前、手に負えない魔物が出たと北領の騎士団から依頼された時は、第二師団の隊長だったんだよね」
「そう。見事に討ち取って王都に凱旋。その後、当時の団長が年齢を理由に役職を退く際、満場一致で新団長に任命されたって話」
「すごいですね。満場一致ということは、騎士としての能力だけでなく人柄とかも認められたということでしょう?」
「だね。実際ダグラス殿に関する悪い噂は聞かない」
シリウスが『聞かない』なら、本当に悪い噂のない人なんだろう。
「赤みのかかった髪と眼が、魔物の血を浴びたから…とかいう、中傷めいた話はあったけど」
「レベルの低い嫌味ですね…」
「うん。貴婦人に人気が高いから出る、やっかみだろうね」
頷く王子に、シリウスが笑いながら告げる。
「でも『そこがまた素敵』っていう女性も多いんで、却って人気に拍車かけたところまでが一組の噂だね」
…頭に、ぱっ!と、お姉様の、恍惚とした表情が浮かんだ。
ついでに、『呪われた騎士様なんて素敵ー!!』の叫び声も脳内にこだました。
(そういえばお姉様、最近『騎士』がどうのって、声を上げてなかったっけ?)
アマレットとの会話は(家族皆)話半分で聞いているので、自信はない。
「それにしても現役の団長が、王様の護衛以外で王都を離れるのって珍しいんじゃない? それとも陛下がどちらかへ?」
「いや、それは聞いてないな」
「それじゃあ…」
シリウスが少し前かがみになって、私と王子を見て声を落とした。
「またどこかに魔獣が出たとか…」
「…!」
私は驚いたが、王子もその可能性については、考えていたのだろう。
難しい顔でぼそりと言った。
「ない…と思うんだ。あればもっと王宮内が騒がしい筈だ」
「5年前は、大々的に知らされたからね。まぁ早馬が駆け込んで来た時点で、隠しようがなかったんだろうけど」
今回は早馬も来た様子はないよ、と聞いて少しほっとした。
「緊急のご用件では、ないのかもしれませんね。騎士団の皆様も、休暇を取られるでしょうし」
「休暇か、それは考えなかった」
シリウスも王子も笑ったので、緊張した空気は解けた。
「団長職は、長い休暇は取れないと思うけどね。まぁダグラス殿の屋敷は王都にあって領地はないし」
「第一師団長なら、爵位をお持ちなのでは…?」
騎士としての階位は知らないけど、王様に直接侍ることが可能な身分は、伯爵からだと聞いたことがある。
伯爵なら、大抵領地持ちだ。
「彼は元々平民で、武勲が認められて一代貴族として叙爵されたんだ」
「一代貴族の方ですと、男爵ですよね?」
一代貴族とはその名の通り、世襲でなく一代限りに与えられる爵位で、殆どが一番低い男爵位だ。
「うん。それが第二師団の団長になった際、子爵家へ婿に入って爵位を継いだんだ」
「当時の第二師団長の家だったよね」
「あ、なるほど」
家と第二師団長の座を一緒に継いだらしい。
「そして、第一師団の団長になった際、伯爵に陞爵された」
二段階昇進か。いや平民だったことから考えれば三段階か。
(成り上がり人生だわ~)
「すごいですね…」
「うん、僕も二階級上がった家は、ダグラス殿以外知らない」
「戦争の時とかはあるけどね。平和な時だと本当に珍しい例だよ、ランドウッド伯爵は」
シリウスの言葉で、何か頭の中でカチッと音がした…
「ランドウッド子爵の領地があったんだけど、元の子爵、義父が亡くなった後は、管理できないって国に返上したんで、今は領地がないんだ」
「まぁ代官に任せてるっていうから、団長位を退いたらそれが返されるんじゃない?」
そうかもね、と答える王子の声が少し遠い所から聞こえた。
ランドウッド伯爵というか、その子息って、もしかして…
「そうだ、息子いたよね? 僕らと同い年だったんじゃなかったっけ?」
あ…
「うん、父親…団長に連れられて挨拶に来たことがあるよ。確かジャック。ジャック・ランドウッドだね」
うわあーーー
騎士を目指していた『ジャック・ランドウッド』!
騎士団長の息子だったのか!覚えてないけど…紛れもなく、攻略対象じゃないですかーーー!!
…4人目(名前だけ)登場。
…『王子の7歳の婚約』は、王家(もしくは外戚)の都合の良い時に、使われる場合が多い。使い勝手の良い慣習?




