表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/95

48.壮年商人は仲介中

…サイモンというより、侯爵邸の従業員話になっております。


 小売店経営(侯爵家の名は出さず、所有者欄はサイモンが署名している)は、シャーロットの指示のもと始まった。


 まず、正式オープンの前日、店の前で子供たちを集め、チープだけどカワイく包んだ『結び目パン』の欠片(カケラ)を配った。

 その場でパンを食べた子供たちは、大騒ぎをしながら家に帰ったという。


 また、同じ日、商業組合など、町の権力者向けには、試食会(プレビュー)をやった。


 新規の『菓子屋』(…ということになった)の試食会なんて、と思われたのか、入りはまぁまぁだったが、試食後、一部の我慢の効かない客が『もっとないのか!?今すぐ売ってくれ!』と叫び、暴れる一幕があった。

 お土産を渡したのに、それも自分で食べてしまったらしい。


 報告を受けたシャーロットは呆れたように、


「子供より、こらえ性がないのね」


 とつぶやいた。


 その他の客も、明日の開店時間を聞いて、念入りに名を名乗り、『自分はこんなに食べたいんだ』をアピールして帰ったとのこと。


「予想してましたけど、明日は大変そうですねー」

「初日から三日は、屋敷の人間にも手伝ってもらえるよう手筈は整っている。準備は万端だ」


 普段は厨房に二人、店頭に二人体制だが(すべて侯爵邸関係者)、様子を見て(シャーロットor執事長の判断で)お屋敷からの増員も可能にした。


「あー、お嬢様から伝言が…」


 思い出したように、手をポンっと叩くリック。


「何だ!」


『お嬢様』の単語に、秒で反応するサイモン。


「列の横入りには気を付けて、だそうです」



(列の横入りが、一番むかつくのよね…)


 ここは、ガチで身分制のある世界だ。

 下町に住むのは皆平民とはいえ、金を持っている連中には、特権階級意識がしっかりある。

 シャーロットのアラサー部分が、警告をガンガン鳴らしていた。



「お嬢様は、誰であろうと並んだ順番に売ることが大事、とおっしゃってました!」

「おぉ、さすがはお嬢様…」


 主の慈悲深さに感動したサイモンだったが、すぐに真顔になった。


「…確かに。目に見えるようだな。大手の商館の連中が、子供たちを押しのける姿が…」

「ですねー…」


 リックも珍しく顔をしかめていた。


「どうします? 執事長(ロイドさん)に連絡して、侍従さんを2、3人借りて来ましょうか?」


 侯爵邸の使用人は、基本的には外見が(貴族向きに)整っている者が多い。

 細く見える体は、力仕事に向いていないと思われがちだが、いざという時は屋敷を守り、侯爵家の人間を守るという大命題があるので、腕っぷしに自信のある者も多い。

 

「そうだな…いや、待ってくれ。少しアテがある」


 サイモンは外出したが、その日の夕方前には戻って、開店の準備を進めた。




 初日の朝、ずらっと並んだ人の列を、向かいの家(借りました)の窓から見たシャーロットは、サイモンに告げた。


「今日は一人3個まで。朝、11時、3時、で3回焼くことを、何かに書いて皆に知らせてください」

「かしこまりました!」

「あら? あの人たちは…」


 店の周りに、ガタイの良い男たちが何人か立っている事に、シャーロットは気が付いた。

 さりげなくはあるのだが、洒落た菓子屋の外観や、そこに集まる人間達と比べると、違和感がある。

 シャーロットの疑問に気付いたサイモンは、胸を張って応えた。


「昨日、港湾関係の部下に声を掛けました。喜んで列を見張っていてくれるそうです!」


(ガチの海の男ですかー…!)


 シャーロットの紫水晶の瞳が、驚きで大きく開かれた。


 日に焼けた肌、潮風に洗われ、焼けて色素の抜けた髪はキラキラ光を弾いている。

 いつもは袖のある服など着ないのか、シャツに覆われた腕は(ついでに胸も)ピッチピチである。


 後ろに控えているサリーと、他のメイド達の目もキラッと光った。ちなみに彼女達はお店の手伝い要員でもある。


 陸に上がった海の男達は、目に見えて皆たくましかった。

 無作法な人間をつまみ出すのは、侯爵邸の腕自慢にも出来るが、そもそも犯罪を未然に防ぐには、最初から抵抗を諦めさせるような見た目が大事である。


 シャーロットは、右手をぎゅっと握った。

 知っている者が見れば、控えめなガッツポーズである。


「サイモン、さすがです! 列を(さば)くのに、彼らほどの人材はないでしょう!」

「有難うございますっ! 必ずやお嬢様のご期待にお応えしてみせます!」


 感激に打ち震えるサイモン。その様子を、以前のやや高慢な彼を知るメイドたちが、ぬるい微笑みで見ていた。


 後にシャーロットが、海の男達に(ねぎら)いの言葉を掛けに赴いた際、同行した彼女たちのうち(筋肉に魅入られた)何人かが、真面目な交際を始めたのは、新事業の思わぬ産物であった。


「ほとんどが、結婚しても屋敷に残るって聞いたけど…」

「はい。彼女らの相手は、一年の三分の二は海の上だそうで、お屋敷(こちら)で働くのに何の支障もないとのことです」


 サリーが、ハキハキと答えた。

 そっかー何の支障もないのかー…少し遠い目になるシャーロットである。


(『亭主元気で留守がいい!』ってこういう事なんだー)


 生前伝え聞いた標語が、脳裏を駆け巡っている。

 

「皆子供が出来るまで、いえ出来れば子供が出来ても、侯爵邸で働きたいそうです」

「まぁ…」


 託児所もアリかしら…と思うシャーロットの横で、最初の一週間の売上計算書を持参してきたサイモンが、うんうん頷いていた。


「侯爵邸で働く者は、皆労働意欲が高いです。それもこれも、侯爵様やお嬢様のご威光の賜物ですね!」

「そ、それはちょっと…」

「…それはそうですね」


 シャーロットは思わず否定しかけたが、サリーに肯定され、目を丸くして己の侍女を見上げた。

 

侯爵邸(こちら)は他の屋敷と比べて高給だし、何より食事がいいと評判になっているそうです」


 貴族の屋敷の界隈には、働く方にも雇うに方も、それなりのネットワークが存在する。

 その中で『ウイザーズ侯爵邸』が、現在トップクラスだというのは、以前シャーロットも聞いたことがあった。

 

 ――確かに給与は『侯爵』の領分だし、食事は主にシャーロットのせいである。


「ですから、サイモンさんの言っていることは間違いではありません」


 きっぱり告げる侍女と、誇らしそうに頷く商業担当。

 シャーロットは、『想定していた状況と少し違うなぁ』と思いつつも、文句を付けるような状況ではないことは分かっている。


 シャーロットはサリーを見て、サイモンを見た。


「…二人も、お父様や私を支えていてね」


 この先どうなっても…の、多少暗い想いをこめてしまったが、


「「勿論です、お嬢様!」」


 勢いのハモった返しに、引きつつも、幸せになってしまうのだった。



 



いつも読んでいただいて有難うございます!

ブックマークとか評価とかいただくたびに、まだ書ける!と喜んでおります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ