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悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


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44.アラサー令嬢は交渉する


 どうしようかと思ったが、とりあえず、そのまま話してみた。

 

「皆に聞いた所、あのパンは、下町でも見かけないものらしいのです。私は、新しい食べ物として、この国にあのパンを広めたいのです」

「…何故だい?」


 フリーズが解けたようだ。

 私は、ここぞとばかりに、ニッコリと微笑んでみせた。


「もちろん、美味しいからです。私と、厨房の皆の努力の成果です。たくさんの人に食べてもらって、『美味しい』と言わせたいのです!」


 思わずあっけにとられたような表情をしたお父様は、ふうっと息を吐きだすようにつぶやいた。


「それは…素敵な夢だね」

「有難うございます」


 12歳の娘が『経営したい』等というより、『かわいい夢』路線の方が、ウケが良いかなーと思った結果だが、呆れられたかもしれない。


「お前の夢は、あのパンをこの国に広めて、たくさんの人に食べてもらいたいということだね?」


 確認するように、お父様は訊いた。


「はい」

「それなら、工法をお城に渡し、王城で広めてもらうのはどうだろう? 王城なら王侯貴族だけでなく、外の国からのお客様にも広まる」


 あ、こうきたか。

 王子とシリウスに相談する前なら、話にのってしまったかもしれない。


「あれだけ美味しければ、王からの褒賞も望みのままだ。もちろん、考案者であるお前の名も広まる。次期、王太子妃として立派な功績になるだろう」


(…そういう発想もあるといえば、あるんだよね)


 アラサーとして過ごした現代で、世界一と言われていたフランス料理は、ルネサンス期にイタリアから嫁いできた、名門メディチ家のお嬢様からもたらされたものだ。

 もちろん、そのお嬢様が連れてきたシェフによる食の革命(器とかテーブルマナーも)なんで、レシピとか自分で料理を作っていたとかじゃないけど、その功績は後世にも讃えられている。


 ところは変わって、こちらは異世界フィアリーア。

 たかがパン1個だが、今までにない味なら、それなりに功績にはなるかもしれない。


(…だけどねー)


「お父様は、私がパンを作らせたことが、本当に王太子妃としての実績になると思います?」


 めーいっぱい、懐疑的な声が出てしまった。


「私がパンを考案したことを知って、()()公爵様が褒めて下さると思われますか?」


フィアリーア(ここ)にはシャーロット(わたし)が何をしようと、悪い方向に騒ぎ出す人がいるんだよねー)


 お父様は心なしか目を反らした。

 ハーロゥ(じじい)公爵が、私がパンを作ったと聞けば、()()無駄に大きい声を張り上げて…


『令嬢が料理に口を出すなんて!』

『腹を空かせて厨房の周りをうろついているのではないか?』

『侯爵家には料理人もいないのか』


 それはもう、簡単に目に浮かぶ光景だ。


「…そこを考えないとしても、王城に披露したなら、口にできるのは王侯貴族や海外の賓客のみだと、殿下やシリウス様から伺いました」

「そうか…殿下には相談したのだね」

「はい。『王城としては願ってもないことだが、下へは行き渡らないだろう』と教えていただきました」


 お父様は考え深げに尋ねた。


「お前は、下へ行き渡らせたいのだね」

「できることでしたら…」


 限られた方にしか食べられない物には、したくないのです…とつぶやくと、お父様は椅子の背に体を預け、胸の前で手を組んだ。


「それで、『下町でお店』か」

「はい。要領を得ない話で、本当にお父様には申し訳ないのですが…」

「シャーロット」


 こちらの話を遮るように、お父様が名前を呼んだ。


「はい」

「もし、王城に工法を渡す場合には、お前の名を隠そう。それでも十分王家に恩は売れ、王城でお前の立場は強くなる…それでも嫌かい?」


 少し考えた。


(王家への恩ねぇ…)


 将来、王家に入る予定はない――『なくなる』と思っている自分には、あまり意味ないけど…


「…お父様が、ウイザーズ侯爵家の立場を考えてのご希望なら従います」


 侯爵家としては、恩が売れた方がいいのは当然だろう。

 お父様は、整った顔に苦笑を浮かべた。


「シャーロット、娘にそんな悲壮な顔させるほど、侯爵家は王に恩を売りたい訳ではないよ」


 思わず顔に手をやる。


(そんなヒドイ表情してたのか?自分)


 確かに王城にレシピ渡すの嫌だったけど、貴族令嬢として正直すぎる負の表情はマズイ。


「大丈夫、お前はいつもかわいいよ」


 苦笑でなく、今度は屈託のない顔でお父様は笑った。


「も、申し訳ございません!」

「お前の気持ちはよく分かった。……滅多にない頼みだ。断るのはもったいないな」


 お父様は、机に置かれているベルを手に取った。

 澄んだ音色がして、ほどなくして、ノックの音と共にロイドが現れた。


「お呼びでしょうか、旦那様」

「ロイド、シャーロットが下町にパンの店を出したいそうだ。全て、希望通りにしてやってくれ」

「かしこまりました」


 目を丸くする私とは対照的に、ロイドは平然と応じた。


「驚かないな。知っていたのか、ロイド?」

「いいえ、全く」


 ロイドの口元には、いつもの上品な笑みが浮かんでいる。

 まぁいい……とつぶやいたお父様は、こちらに向き直った。





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