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悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


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41.アラサー令嬢は街に出る



 試行錯誤のすえ、ようやく『クロワッサンもどき』が完成した。


(味といい形といい、自分の知ってる『クロワッサン』なんだけど…)


 皆、見た目から『三日月』は連想しないらしく、『結び目パン』とか呼んでいる。

 めっちゃ美味しいので、これを庶民向けに売り込もう……ぶっちゃけ、(破滅後に備えて)パン屋さん(サイドビジネス)が出来そう?と思ったんだけど、コスト面の問題が出て来た。


「これを売り出すとなると、1個100Rは下りません」


 料理長は、無情に告げた。

 Rは貨幣単位『Ran』で、感覚的に1R=10円だ。


「城下町では、このサイズだと、大体5R(50円)が相場です」

「ありえませんね…」


 私はため息をついた。

 これが、『庶民の食生活レベルが貴族』の現代ジャパンなら、なんだかんだ理由(稀少価値、いままでに食べたことない美味しさ)をつければ、1000円パンも勝機アリなんだが。


(いや。そっか、売るのは貴族でなく、庶民なんだから…)


「材料を変えましょう」


 聞けば、この厨房で使っているのは、『ウイザーズ侯爵領産』の中でも最上級の物だそうだ。


(そりゃそうだ。ご領主様の食卓だもんね)


「城下のパン屋や食堂に卸している、小麦、バターを基本にしてください」


(設備投資の問題もあるけど、1個100円くらいにしないと売れないわ!)


 ここからまた、試行錯誤が始まり、廉価版『結び目パン』が出来た頃には、城下町のつぶれたパン屋さんを買い取って、出店準備も始まっていた。


 お店を見つけてきたのは、当然というか、何で?というか、シリウスだった。


「下町でパン屋を始める侯爵令嬢もいないけど、つぶれたパン屋を見つけてくる公爵令息はもっといないと思う」


 と王子様。


「それを見に、下町まで来る第一王子も、この国以外にいないと思うぞ」

「まぁ、それはそれで」


 お忍び姿の王子様は、今日もニコニコ笑っている。

 王子は、目と髪を茶色に魔法で染めて、裕福な庶民風の服を着ている。

 シリウスは特徴的な目をメガネで隠し、王子よりもっと庶民的な恰好をしているが、とてもよく似合っている。


(慣れすぎていて、違和感が仕事してないよ。シリウス…)


「よく似合ってるよ、シャーロット」

「うん、髪と目の色変えるだけで別人だね」


 …そしてシャーロット(わたし)は、傍から分かるほど、上機嫌だった。


「一度、髪も眼も濃い色になってみたかったんです」


 感極まった声に、二人から、ちょっと同情の混じる視線を感じたが、気にならない。

 それほどまでに、前世を彷彿(ほうふつ)させる『黒髪黒眼』は、テンションを上げてくれた。


(黒目黒髪でも、日本人には見えないし、顔も全く前と違うけど!それはそれだ!)


 家付きの魔法使いにも、中々変えられなかった髪の色は、闇の精霊様に変えてもらった。


『お前の精霊力は髪に溜まりやすいから、他からの魔力は容易に通すまい』


 分かるような、分からないような理屈だったが、守護精霊様の力は私に無事通った。

 黒の髪と目。サリー渾身の作のツーピースを身に着けた姿は、肌の色が少し白すぎるが、町娘と言っても十分通る(と本人は思っている)。


『町でちょっと買ってきてもいいのよ?』

『町で売っている服は、大抵古着です。お嬢様には着せられません』


 あっと思った。

 日本も昔はそうだった。着物はほとんど古着で、新しい物を仕立てるなんて、それこそ大名や裕福な商人だけだ。


(聞いた時は、『着物ってフリーサイズだもんね!サイズ気にしないで売ったり買ったりできるんだから、めっちゃリサイクル向きだわ!』って感動したもんだ)


 しかし、下町で着る服を、出入りのデザイナーさんに頼むのもちょっと…で、結局サリーに頼んだ。


(一応お忍びだし、豪華な街着が出てきても困るし…)


 サリーも、他のメイドさん達もノリノリで『ここにレースとか…』『ステッチ入れましょう!』『さりげなく、スカートの端にフリルも!』と色々やらかしてたが、何とかシリウスのOKが出た。

 テーマは「裕福な商人の子供(兄妹)が、勉強として商売の一部を任されて、使用人と見に来た」設定だという。

 大人が付いているのも当然だし、隠れてあちこちに王子の護衛もついていた。


「侯爵が許可してくれて良かったね」

「本当に…」


 ここまで来る道のりを思うと、思わず目が遠くなった。

 最初はさすがに、自分でお店まで出す気はなかったのだ…。




 王子とシリウスに『結び目パン』を試食してもらったら、絶賛の嵐だったが、このパンをなるべく多くの人に広めたいと言うと、二人は真顔に戻った。


「シャーロットは、このパンを広めたいの?」

「はい。朝食のロールパンのように、誰でも食べられるようにしたいと思ってます」

「お城の厨房に、製法(レシピ)を渡せば、王城では食べられるようになるけど…」

「広まらないね」


 シリウスはあっさり否定した。


「え?」

「おそらく、上の人間が考えるのは、レシピの独占だよ」


 流行は上から下に降りるものだと思っていたんで、この指摘は意外だった。

 王子も言いづらそうに、シャーロットに告げた。


「誰も知らない新しいパン。しかもすこぶる美味しいとくれば、レシピは王城内で『秘中の秘』になる」

「王族や、貴族にしても四大公爵までで。あとは海外の客の接待に、切り札として使われると思う」


 そして、庶民には決して行き渡らない。

 少なくとも、シャーロットが生きている内は。


「…それは、嫌です」

「うん。シャーロットの今までの、お菓子や、お茶への対応からすれば、分かるよ」


 クッキーは誰でも作れるし、お茶はウイザーズ侯爵領内で生産するけど、広まれば他所でも作り始めるだろう。

 そうやって品質や味が、増えていくのが狙いだった。


(『結び目パン』も同じ)


 クロワッサンをアレンジした、パンやお菓子は前世にたくさんあった。

 シャーロット(じぶん)にはここが限界だけど、このパンが広まれば、個々の自由な発想で、たくさんの美味しい物が出てくる筈だった。



 



次こそは『魔法学園編』!…と勢い込んでいたのですが、「11歳から16歳の間に何もないわけないよね…」と思い直しました。


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