表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/95

39.熟年執事は勤務中



 静かな、気持ちの良い午後です。


 旦那様の部屋の窓からも、色付いている木々の様子が見え、そこから柔らかな日差しが差し込んでいます。

 先ほどお渡しした報告書の束を、脇机に置かれると、旦那様は椅子の背もたれに体を預けました。


「ロイド、茶を頼む」

「はい、旦那様」


 ベルを揺らすと、ほどなくしてノックがあり、茶器とポット、お茶請けの焼き菓子等が、ワゴンで運ばれてきました。

 私は、ポットの側に置かれた砂時計が落ちきるのを待ち、お茶を淹れると、旦那様にお出ししました。


 いつもお忙しい旦那様ですが、本日は外出の予定がありません。

 その為か、いつもより、ゆったりとなさっておられるように見えます。

 お茶を一口お飲みになった旦那様は、カップをソーサーに置き、お尋ねになりました。


「ロイド、子供達はどうしている?」


 旦那様のお子様は、お二人いらっしゃいます。

 どちらも、大変お美しいお嬢様です。


「アマレット様は、ペニントン伯爵令嬢のお茶会に、出席なされております」

「またか」


 旦那様の眉間に、僅かですがしわが寄りました。


「アレは、あちこちの茶会にふわふわと…」

「…社交的であられるのでしょう」

「社交が悪いとは言わないが、少々度が過ぎている」


 アマレット様は、ほぼ週に一度、どこかのお茶会に出ています。

 その都度(つど)、ドレスを新調なさろうとするのが、旦那様のお悩みの種かもしれません。

 幸い、ウイザーズ侯爵家はそのくらいの出費では揺るぎませんが、何事にも節度というものが必要なのは分かります。


(いえ、アマレット様の場合、他にも節度を持っていただきたいことがありますね…)


 アマレット様はお茶会へ行かれ、将来有望な貴族の殿方を見つけられると、『運命』を感じられます。


(側付きの侍女に、何度か確認しました。『運命』だそうです)


 何度目であろうとも。

 …次の日には、お手紙を私共に言付けるので、『運命』の方は旦那様の知るところとなり、頭を抱える案件となります。


 アマレット様には、まだご婚約者がおられません。

 貴族の子女は、16歳でご入学される学園で、お相手を見つけられることが多いので、珍しいことではありません。

 ですが、お妹様のご婚約が決定しているので、少し焦る気持ちがあるのでしょう。

 それは分かります。


(…分かりますが、もう少し落ち着いて、お相手を探していただきたいものです)


 同じ事に思い当たったのか、深いため息を吐かれた旦那様は、気分を変えるように焼き菓子を手にされました。

 一口かじられ、目をやや大きく開かれます。

 そして、よく味わうように食されますと、もう一枚を、手に取られました。

 お口にあったようで、何よりです。


「これはまた…新しい味だな」

「はい。シャーロット様ご提案の、『紅茶の葉』を入れた物が、ようやく旦那様にお出しできる出来栄えになりました」

「またあの子の発想か…」


 予想されていたのか、旦那様は淡々とつぶやかれました。


 旦那様のもう一人のお子様。

 シャーロット様には、お菓子やパン、飲み物などに、新しい視点から手を加える才能がおありです。


 最初は、侍女に命じて、コックに作らせていましたが、今では自らコック長とあれこれ話し合っておられます。

 屋敷の者は、次はどのような美味なる物が出て来るのか、待ち遠しい者も多くいます。

 かくいう私も、その一人なのですが、旦那様としては、貴族令嬢としてはいささか特異な才能を、褒めるべきか(たしな)めるべきかお悩みかもしれません。


「シャーロット様は、午前ですが、書庫におられた所を、お見掛けしました」


 今は、お部屋にいられると思います――と付け加えると、旦那様は『そうか』と、つぶやくようにおっしゃられました。


「あの子は、あの子で、あまり茶会にも出ず、部屋で本を読むことが多いようだな」


 アマレット様とは正反対に、シャーロット様はお茶会に行かれることも稀で、ドレスを新調されることもあまりなさいません。

 精霊のような美しさを持つ、シャーロット様を飾り立てる機会が少ないと、侍女たちは嘆いています。


(ただし、ドレスを作ると決めると、自ら率先して、形や生地を選んでおられるようです)


 新進気鋭のデザイナーと、対等に話されるご様子に、感心することしきりです。

 机に向かっていることが多いお嬢様の、こうした時、垣間見える女性らしさは、とても微笑ましいものです。


「シャーロット様は、見識の優れた方で、いらっしゃいますので…」

「まぁな。あの子の立場上、うかつに外へは行けないだろう」


 シャーロット様は、我が国の、第一王子のご婚約者でございます。

 お美しさも、ご聡明さも申し分なく、誠にふさわしいお役目と、私共には思えるのですが、残念ながら、すべての者がそう考えている訳ではありません。


 中でも、王家に次ぐ四大公爵家のお一人、一昨年お孫様が生まれたハーロゥ公爵が、シャーロットお嬢様が、次の王妃にふさわしくないと、公言されているそうです。


「2つ、3つの幼児を、シャーロットと比較するなんておかしいわよ!」


 アマレット様は、夕食の席で、怒ったように仰せになりました。

 まことに妹思いの、お優しいお姉様です。

 ただ…


「10も年下が王子の婚約者になれるなら、2つ上の私の方が、よほどふさわしいじゃない!」


 …続けられた言葉が、少し残念でしたが。


 



安定の『アマレット姉様』落ち。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ