37.少年策士はまだ知らない・前
後編はできるだけ早めにUP予定。
シリウス・クロフォードは、完璧な少年だった。
王家に次ぐ、四大公爵の家に生まれ、父親は宰相。
母親も四大公爵家出身。
容姿も整い、頭脳明晰。
5歳で始めた剣の筋も良く、師範からは『騎士』も目指せる、とお墨付きをもらっていた。
…かと言って、それらの才に傲ることもなく、常に学びの姿勢を崩さなかった。
知識を貪欲に吸収し、自分の足りない物を求め、お忍びで城下へ出ることもあった。
同い年の第一王子との仲も良好で、社交もそつなくこなしていた彼に、一つの転機が訪れたのは7歳の時だった。
「お心づかいに感謝いたします、クレイフォード様。私はシャーロット・シメイ・ウイザーズ。ウイザーズ侯爵の次女です」
銀糸の髪、紫水晶の瞳、精霊の化身のような美少女は、彼の前でそう名乗った。
明瞭な声と言葉、優雅なカーテシー。
(見惚れなかった、といえば嘘になる)
実物の少女に会う前は、婚約者と定められた王子に同情していた。
――わがままで、ろくに精霊力もない侯爵家の令嬢。
それが彼が聞いていた、『シャーロット・ウイザーズ』だった。
折しも、シリウスは彼女の姉に会う機会があり、付きまとわれてうんざりした後であった。
(アレが姉なら、妹にも期待できないな…いくら歳回りの合う高位令嬢がいないからって、王子も気の毒に)
そんな予想は、この日きれいに覆される。
実際のシャーロットは、美しいだけでなく、頭の回転も速く、気遣いもできる、幼いながらも礼儀正しい女の子だった。
大抵の貴族の子女は、親や周囲に甘やかされおだてられ、多かれ少なかれ、わがままに育つ。
そんな彼の周りにいる子供らと、シャーロットは、まるで違っていた。
噂なんて、本当にあてにならないと、彼は思った。
(それだけでも、驚いたのに…)
少女の守護精霊は『闇』だった。
(王子も、シャーロット本人も、その重要性を理解していないだろうが…)
シリウスは『闇の精霊』の力が、宮廷の最高位の魔術師を上回ることを知っていた。
家に代々伝わる記録集、『年代記』に、記載されていたのだ。
(あくまで精霊自身の力で、守護されているシャーロットが、その気にならない限り使えない力だが…)
シャーロットの守護精霊の情報は秘匿され、王でさえ知らないと言う。
自分が警戒しなければならない、とシリウスは強く思った。
このままシャーロットが、素直に明るく育ってくれれば問題ない。フィアリーアは、何物にも代えがたい『王妃』を手に入れることができる。
だが、シャーロットが悲しみや恨み、そんな負の感情に支配されてしまったら…
シリウスの背中を冷たいものが走った。
(守らなければ)
第一王子の婚約者という立場は、敵が多い。
それらの悪意が、シャーロットの心に影を差すことがあれば、この国は傾くかもしれないのだ。
(父か王に話せば、シャーロットは厳重に守られるだろう)
だが同時に、どれだけ隠しても、秘密はいずれ周知のものとなり、『闇』の力を求めて、国内はおろか国外からも手が伸ばされるかもしれない。
「シリウス、ありがとう。この本とても面白かったわ!」
季節の花が飾られ、柔らかな日の差す、居心地の良い部屋。
テーブルの上には、温かいお茶と、焼いたばかりのお菓子。
重い本を大事そうに抱え、嬉しそうに微笑むシャーロットの、この笑顔はなくなってしまうだろう。
今まで、シリウスと話が合うのは、王子しかいなかった。
今では、シャーロットが加わり、3人で話したりお茶をする時間は、シリウスにとって他の何よりも大事なものになっている。
(僕が守る。王子も、シャーロットも!)
それは神聖な決意。
父親も親友も知らない。
彼と彼の心を守る、守護精霊だけが知っていた。
だけど…
「シリウス!」
「シャーロット!!」
目の前で少女は消えた。光の粒に包まれて。
なぜ?と思うシリウスの目に、たった今までいた場所で、淡く光る紋様が映った。
「これか!?」
遅ればせながら、シリウスは床に描かれていた寄木の紋様が、高度に編まれた魔法陣であることに気づく。
手を伸ばした時には、もう光は消えてしまい、ただの飾り絵になってしまった。
「シリウス、何かあったの?」
声が聞こえたのだろう、宝物庫から王子と侍従が速足で戻ってくる。
「シャーロットが…」
「え? そういえば、シャーロットどこに…」
「消えた…」
「えー!!」
シリウスは床の紋様を指す。
「そこが光って、その中に」
「…ちょっと、あ、これが魔法陣になってるのか!」
魔法の基礎理論を学んでいる、王子の理解も早かった。
「すぐに宮廷魔術師を!」
「はい!」
王子の言葉を受け、侍従が駆け出そうとする。
「え「あ、ちょっと待って!」」
それをシリウスが止め、王子も侍従を止める。
「今、守護精霊が…」
「うん、シャーロットは絶対無事だから、大事にしないでって」
「僕にもそう聞こえた」
二人はそう言って、侍従を見つめた。
「私には何も…」
「そうか、でも少し待っていてくれ」
「しかし、仮にも侯爵令嬢が王宮の一室から消えたことを、報告しないわけには…!」
確かに、大事である。
それは分かるが、安全が保障された今、騒がれたら当のシャーロットの評判に関わる。
この話内での、『魔術師』と『魔法使い』の違いは、魔法を理論立てて、組み立てたり解体したりするのが『魔術師』。
精霊を使役することによって魔法を使うのが『魔法使い』で、強い『精霊力』が必要です。
『魔術師』はフィアリーアの民なので、基本的な精霊魔法も使えますが、『精霊力』が弱くても頭脳派ならなれます。
ただし、『宮廷魔術師』は、知力と高い精霊力を兼ね備えた人しか慣れません。
(あくまで、この話内の設定です('ω')ノ)




