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悪役令嬢はざまぁを夢見る  作者: チョコころね


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39/95

37.少年策士はまだ知らない・前

後編はできるだけ早めにUP予定。



 シリウス・クロフォードは、完璧な少年だった。


 王家に次ぐ、四大公爵の家に生まれ、父親は宰相。

 母親も四大公爵家出身。

 容姿も整い、頭脳明晰。

 5歳で始めた剣の筋も良く、師範からは『騎士』も目指せる、とお墨付きをもらっていた。


 …かと言って、それらの才に傲ることもなく、常に学びの姿勢を崩さなかった。

 知識を貪欲に吸収し、自分の足りない物を求め、お忍びで城下へ出ることもあった。


 同い年の第一王子との仲も良好で、社交もそつなくこなしていた彼に、一つの転機が訪れたのは7歳の時だった。





「お心づかいに感謝いたします、クレイフォード様。私はシャーロット・シメイ・ウイザーズ。ウイザーズ侯爵の次女です」


 銀糸の髪、紫水晶の瞳、精霊の化身のような美少女は、彼の前でそう名乗った。

 明瞭な声と言葉、優雅なカーテシー。

 

(見惚れなかった、といえば嘘になる)


 実物の少女(シャーロット)に会う前は、婚約者と定められた王子に同情していた。


 ――わがままで、ろくに精霊力もない()()家の令嬢。


 それが彼が聞いていた、『シャーロット・ウイザーズ』だった。

 折しも、シリウスは彼女の姉に会う機会があり、付きまとわれてうんざりした後であった。


(アレが姉なら、妹にも期待できないな…いくら歳回りの合う高位令嬢がいないからって、王子も気の毒に)


 そんな予想は、この日きれいに(くつがえ)される。

 実際のシャーロットは、美しいだけでなく、頭の回転も速く、気遣いもできる、幼いながらも礼儀正しい女の子だった。


 大抵の貴族の子女は、親や周囲に甘やかされおだてられ、多かれ少なかれ、わがままに育つ。

 そんな彼の周りにいる子供らと、シャーロットは、まるで違っていた。

 噂なんて、本当にあてにならないと、彼は思った。


(それだけでも、驚いたのに…)


 少女の守護精霊は『闇』だった。


(王子も、シャーロット本人も、その重要性を理解していないだろうが…)


 シリウスは『闇の精霊』の力が、宮廷の最高位の魔術師を上回ることを知っていた。

 家に代々伝わる記録集、『年代記(クロニクル)』に、記載されていたのだ。


(あくまで精霊自身の力で、守護されているシャーロットが、その気にならない限り使えない力だが…)


 シャーロットの守護精霊の情報は秘匿(ひとく)され、王でさえ知らないと言う。

 自分が警戒しなければならない、とシリウスは強く思った。


 このままシャーロットが、素直に明るく育ってくれれば問題ない。フィアリーア(このくには)は、何物にも代えがたい『王妃』を手に入れることができる。


 だが、シャーロットが悲しみや恨み、そんな負の感情に支配されてしまったら…

 シリウスの背中を冷たいものが走った。


(守らなければ)


 第一王子の婚約者という立場は、敵が多い。

 それらの悪意が、シャーロットの心に影を差すことがあれば、この国は傾くかもしれないのだ。


(父か王に話せば、シャーロットは厳重に守られるだろう)


 だが同時に、どれだけ隠しても、秘密はいずれ周知のものとなり、『闇』の力を求めて、国内はおろか国外からも手が伸ばされるかもしれない。

 

「シリウス、ありがとう。この本とても面白かったわ!」


 季節の花が飾られ、柔らかな日の差す、居心地の良い部屋。

 テーブルの上には、温かいお茶と、焼いたばかりのお菓子。

 重い本を大事そうに抱え、嬉しそうに微笑むシャーロットの、この笑顔はなくなってしまうだろう。


 今まで、シリウスと話が合うのは、王子しかいなかった。

 今では、シャーロットが加わり、3人で話したりお茶をする時間は、シリウスにとって他の何よりも大事なものになっている。

 

(僕が守る。王子も、シャーロットも!)


 それは神聖な決意。

 父親も親友も知らない。

 彼と彼の心を守る、守護精霊だけが知っていた。





 だけど…


「シリウス!」

「シャーロット!!」


 目の前で少女は消えた。光の粒に包まれて。

 なぜ?と思うシリウスの目に、たった今までいた場所で、淡く光る紋様が映った。


「これか!?」


 遅ればせながら、シリウスは床に描かれていた寄木の紋様が、高度に編まれた魔法陣であることに気づく。

 手を伸ばした時には、もう光は消えてしまい、ただの飾り絵になってしまった。


「シリウス、何かあったの?」


 声が聞こえたのだろう、宝物庫から王子と侍従が速足で戻ってくる。


「シャーロットが…」

「え? そういえば、シャーロットどこに…」

「消えた…」

「えー!!」


 シリウスは床の紋様を指す。


「そこが光って、その中に」

「…ちょっと、あ、これが魔法陣になってるのか!」


 魔法の基礎理論を学んでいる、王子の理解も早かった。


「すぐに宮廷魔術師を!」

「はい!」


 王子の言葉を受け、侍従が駆け出そうとする。


「え「あ、ちょっと待って!」」


 それをシリウスが止め、王子も侍従を止める。


「今、守護精霊が…」

「うん、シャーロットは絶対無事だから、大事(だいじ)にしないでって」

「僕にもそう聞こえた」


 二人はそう言って、侍従を見つめた。


「私には何も…」

「そうか、でも少し待っていてくれ」

「しかし、仮にも侯爵令嬢が王宮の一室から消えたことを、報告しないわけには…!」


 確かに、大事(おおごと)である。

 それは分かるが、安全が保障された今、騒がれたら当のシャーロットの評判に関わる。






この話内での、『魔術師』と『魔法使い』の違いは、魔法を理論立てて、組み立てたり解体したりするのが『魔術師』。

精霊を使役することによって魔法を使うのが『魔法使い』で、強い『精霊力』が必要です。

『魔術師』はフィアリーアの民なので、基本的な精霊魔法も使えますが、『精霊力』が弱くても頭脳派ならなれます。

ただし、『宮廷魔術師』は、知力と高い精霊力を兼ね備えた人しか慣れません。

(あくまで、この話内の設定です('ω')ノ)

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