31.アラサー令嬢の召喚事情
『…シャーロット、すまない』
(…闇の精霊の声がする)
『この転移は、私が原因だ。嫌な気配がして、途中で気配を断ったんだが無駄だったな』
(…だから、応答がなかったのか)
『まさか、こんな昔の機能が生きているとは、思わなかった』
(機能? 昔の玉座の?)
『お前が王城に出入りするようになって、精霊が活性化するのは分かっていたのだが』
(精霊が? 何で?)
『あの陣は、闇と光の魔力に反応する』
(光にも…)
『どこへ跳ぶかは、誰にも分からぬ』
(え…?!)
『その時点で、必要とされる場所だからだ』
(どこですか、それはぁーーー!)
…なんでやねん。
目を開いて最初に思ったのは、そんな投げた言葉だ。
(関西人だったわけでもないのに、とっさに出てくるなぁ…)
背中には、草の感触があった。
上に広がっているのは、どこかで見たような、いつも見ているようなどこまでも青い空…
(外なのは分かりますが、どこですかここは…)
起きる気力も湧かないまま、ぼんやりとしていると、近くで何かが動く気配がした。
はっとして飛び起きると、少し離れた場所に、目を大きく開いた子供が、膝をついて座っていた。
(うわーキレイな子……だけど見たことない。服装もなんか違う)
ウェーブのかかった、長い黒髪が肩を覆っている。
明るい草色の目の端にはアイライン、唇には紅。
着ているのは緩やかなチュニックにズボン、腰にはサッシュが巻かれていて、どれにも、丁寧にビーズやら刺繍やらが施されている。
(この国の、貴族の子供の装いじゃないけど…)
…とても手がかかっているように見えるので、普通の庶民でもないだろう。
パニックを起こしながら観察していると、相手が口を開いた。
「…ふわー。言い伝えの通りですー。銀の髪、紫の瞳…」
外見に似合う、可憐な声だ。
しかし、言い伝えって…
「本当に、なんてキレイな、精霊のお姫様…!」
違う……と言いかけたが、声が出ない。
(何でーーー!)
『落ち着け』
(精霊様っ!)
『シャーロット。精霊のふりをして、その子供の願いを聞いてくれ』
(願い、ですか?)
『そうだ。ここには、その子供しかいない。だとすれば召喚主はその子供だ』
(召喚…この子が)
まじまじと子供を見つめると、相手は赤くなった。
頬に両手を当てて、照れたように、ぽやぽや笑っている。
『その子供は、正式な手続きを踏んで、我々を呼んだんだ。願いを叶えなければ帰れぬぞ』
(えぇー?!)
『正式な手続き』って、何をやったんだ、この子は。
見たところ周囲に魔法陣とか、生贄とかはないが…(よかった)。
「あの…」
声出た!
子供がびくっと震える。
穏やかに、なるべく相手を刺激しないように話しかける。
「私を呼んだのは、貴方かしら?」
子供はワンテンポ置いて、首をぶんぶん上下に振った。
「は、はい! 私です。ジルといいます」
ジル――この国の名前でもおかしくないけど…衣服も、日焼けした肌も、とてもエキゾチックだ。
歳は同じくらいだろう。
とりあえず、情報収集せねば。
「分かりました。精霊を呼び出せるということは、ジルは魔法使いなの?」
「ち、ちがいます…けど、お母様の家に伝わる魔法があって、それは血を継いでいれば使えるんです」
(なるほど。継承魔法か……って)
全身が、ざわっとした。
ゲームの攻略対象で、『継承魔法』を使ってるヤツがいた…多分。
曖昧なのは、自分がやっていないルートで、『設定集』とか『攻略サイト』とかで見たからだろう。
(しかし、この子に『お兄さんいる?』とか聞くのも、何だかなぁ)
いやまず、この子の願いを叶えねば、帰れない…
(おそらく今頃、王子とシリウスがパニックになってる……もし、自分が原因で、王城内が大騒ぎになったら)
とてもめんどくさい、あの人やこの人を思い出し、ゾッとして頭を振った。
このまま此処にいれば、遠からずそうなる。
「ではジル、精霊を呼びだした理由を話して?」
焦る心を抑えつつ、おっとりと相手を促す。
精霊っぽく…って思ったけど、そもそも通常、精霊は人には見えない。
(この子の思う『精霊』と、自分の知っている『守護精霊』は多分違うだろうし…)
あ、この子にも守護精霊、いるのかな。
「はい……呪いを」
『呪い』って、いきなりパワーワード来たな。
「呪いを……」
「うん?」
「解いて欲しいのです……」
うーん、つまりー…
「誰かが、呪いにかかっているの?」
「はい! …い、いいえ」
どっちだ。
「これからかかるんです」
「誰に?」
「妹です」
「妹さんに呪いがかかりそうだから、それを払ってほしいの?」
「違うんです!呪いはもうかかってるんです!」
えーっと……分からん。
あーでも、王子やシリウスがしっかりしているから、子供の基準が上がってたけど、普通の子供はこんな感じなのかも。
「うちの家系は、代々一人しか生きられないんです…」
困惑して頭をひねっていると、相手は、ぽつぽつ話し出した。




