29.アラサー令嬢の王城訪問
王様&王妃様が出てこないなら、王城行きを拒む理由は少ない(ないとは言わない)。
ただ、また三人の日時を合わせる手間をかけていたら、王妃様が戻ってくるかもしれない。
そして、王子は急ぐ理由はないが、シリウスは早く探検がしたい。
王城までは、馬車で30分くらいだ。
それじゃあ…と、王子が乗ってきた馬車で、そのまま皆で王城へ向かうことになった。
話を聞いたお父様は、少し考えて「今ならかえっていいか…」と、割と簡単にシャーロットを送り出してくれた。
王様が『超忙しい』のを知っているのだろう。
(王妃様がいないことも、知っているのかも)
それでも、送り出す際は、笑顔で念を押してきた。
「殿下と、クロフォードのご子息から離れないようにね」
副音声で、
『何かあったら、あの二人を盾にしなさい』
と聞こえたが、あながち間違ってないと思う。
ここ2年、王子と会う時は、大抵シリウスも一緒だった。
(最初はお父様も、それを訝しく思っていた…みたいだったけど)
シリウスがいるかいないかで、社交界でのシャーロットの扱いが違うのを見聞きして、その有用性を認めている感じだった。
(姉様のことがあるから、複雑だろうとは思う)
…だけど、お父様はまだ知らない。
姉様の『運命の人』はシリウスでも、まだ他にも、某侯爵家子息が姉様の『宿命の相手』、某伯爵家子弟が姉様の『永遠の憧れ』だということを…(サリーのメイドネットワークからの抜粋)。
(執事さんは、多分聞いているだろうけど、報告しにくいだろうなぁ)
正式なお招きの場合は、侍女を連れて行くが、今回は非公式も非公式なので、身一つだ。
服装は、王子を迎える場合の、よそ行きのドレスだったんでそのままで。
サリーは改めて着替えさせたがっていたが、時間がないと押し切らせていただいた。
サリーや他のメイド達も、事あるごとに着飾らせようとするので、最近少し強めに出ることにした。
衣装室にはあまり行かないので、正確な数は分からないが、この頃シャーロット用のドレスが確実に増殖しているようで怖い。
(見たことないドレスが、サラッと出てくるもんね…。大体、上に姉がいるんだから、子供服なんてお下がりでよさそうなものなのに…)
髪と目の色が違い過ぎるので、アマレットのドレスはシャーロットに、完璧に似合わない。
前世バリバリの庶民なんで、もったいなくて涙出そうだけど、姉様とは趣味も違うので、カラーリング違って良かったと思う部分もあったりする。
複雑だわ。
お城に着くと、すでに連絡済なのだろう、侍従長さんがにこにこして出迎えてくれた。
(いつも、優しいおじいちゃん風に見えるけど、王様の側近だもんね。やり手なんだろうな)
今日は、侍従長さんが忙しいとのことで(そりゃそうだ)、ロマンスグレーの次席侍従が、先導してくれることになった。
王子と一緒なら、複数の護衛が付くし、シリウスが城内に詳しいので、案内いらない気がするが、そういうわけにもいかないのだろう。
それにしても…
「シリウス…道を知っているみたいですね」
王子に、こそっとささやくと、王子もうなずく。
「…シャーロットもそう思う?」
王子よりシリウスの方が、確信を持って歩いている気がする。
別に悪いわけじゃないけど、少し変だ。
「住んでいる僕より、シリウスの方が王城内の道を知ってる気がするよ」
「それはないよ」
明るく言うが疑わしい。
幼い頃から、王城に出入りしていて、何度か迷子になっていたというが、間違いなく意思を持ってあちこち歩きまわっていたのだろう。
「あー、一度歩くと道って覚えるじゃない?」
「そうなの?」
「私は無理です」
疑わしそうな王子と、きっぱり否定する私。
さすがにウイザーズ屋敷内なら分かるが、王城は何度来ても、どこに何があるかはさっぱりだ。
(というか、何度来ても見覚えのある場所がない…)
控室も、毎回違う気がする。
お城とかは、侵入者を警戒するから、わざと迷路っぽくしていると聞いたこともある。
(そんな場所を記憶してるのって…)
「ある意味特技ですよ、シリウス」
「僕もそう思うよ」
えー、という非難の声が(小さく)上がったが、王子と無視した。
そんな風に歩いて、何度か角を曲がった後、少し明るい回廊に出た。
「ここは光が入ってくるんですね」
「城の中にいくつかある、中庭の一つにつながってるんだ」
もしかすると、今、結構城の中心にいるのかな。
「なるほど」
つぶやくシリウスの頭の中では、城内の地図がまた更新されているのだろう。
光に照らされた先に、重厚な両開きの扉が見えた。
「こちらです」
扉の前で立ち止まった次席侍従さんが、微笑んで振り返った。
光のせいか、扉とその周囲がキラキラして見えた。
(おぉ!ファンタジー映画で見た『妖精の国への扉』みたいだ……ってキラキラしてるの、あれ精霊じゃない!?)
心で『闇の精霊』に問いかけるが、返事がない。
(いないのかな? 王城までいた気がしたんだけど…)
扉がゆっくり開かれる。
外からの光なら、扉が動けば消える筈だ。
(…まだキラキラしてるから、やっぱり精霊だよね)
王子とシリウスを見ると、王子は普通で、シリウスは興味津々で扉の中を見ている。
見えているのは、どうやらシャーロットだけのようだ。
扉が完全に開くと、王子が手を差し伸べてくれた。
「どうぞ、シャーロット」
レディファーストなのか、シリウスも入らず脇に控えている。
(…入っていいのかな? 何かのフラグじゃないよね)
一瞬、悩んだが、入らない訳にもいかない。
王子の手を取り、私は『宝物庫』の入り口に足を踏み入れた。
シリウスはそれなりにチート…




