28.アラサー令嬢の王様対策
「宝物庫にあったんだよね。何か貴重な物でも入ってたの?」
わくわくした様子で明るく話すシリウスの声に、『乙女ゲーム』に飛んでた思考が戻された。
王子様は、軽く首を振った。
「それが、中には何も入ってなかったんだ」
「だったら、箱に価値があるってことか」
「侍従長に聞いたけど、よく分からないみたいだった」
他にも『よく分からない』物がたくさんあるらしい。
さすが、歴史ある王国って感じだ。
「本当に重要なもの、王冠とか、国宝級の宝石類は、別の部屋にあるって」
そこは、王子様には場所も分からないし、入れるのは王様と侍従長のみという話。
「なるほどね」
「そうなると、宝物庫はどういう位置づけなんでしょうね?」
思わず聞いてしまったが、王子様も頭をひねってしまった。
「うーん、王家代々の『思い入れのある品々』の置いてある部屋?」
……そんな言い方をされると、代々の王様が、断捨離出来なくて『不用品のための倉庫』を作った金持ち、みたいに思えてくる。
(前世のバラエティ番組とかで、出て来たよね……)
いや、仮にも王様と、お城の『宝物庫』様にそんな……
「思い入れのある品って言っても、そこは王家だから。豪華なものが多いんだと思うよ」
「だから、『宝物庫』なんですね!」
思わず、シリウスの意見に飛びついて賛同する。
「面白そう!殿下は、中に入れるんだ?」
「侍従長と一緒、っていう条件付きだったけどね」
確かに面白そう。
しかしますます、前世の『鑑定物のTV番組』を思い出すなー。
(ガラクタの中のお宝探し……いやガラクタじゃない。王家の思い出の品々!)
「宝物庫の入り口自体が個室になっていて、そこでなら中の物を見せていいって。父上……陛下に許可をもらってる」
「行く!」
シリウスは即答だった。
少し悩んでると、王子が優雅にほほ笑んだ。
「シャーロット、母上は今、西の離宮に行ってるよ」
「この社交シーズンに、離宮ですか?」
普通に驚いた。
お城の上からも見える離宮は、急げば日帰りできる距離にある。
(だけど今は…)
今の時期、王様、お妃様は、普段地方に住んでいる貴族の挨拶を、王宮で受けることになっているはず。
その調整や準備で、今はかなり忙しい筈だ。
「今年は、『エゼルマ』からの使者が、この時期に来ることになったんだって」
「へー。普段は、船の少ない冬だよね」
『エゼルマ』は『フィアリーア』の西側に位置する公国だ。
(ゲームだと名前くらいしか出てこなかったっけ)
地図で見ると、大陸部分はそれほど大きくない国だが、海に面していて大小の島々を有している。
貿易が盛んで、裕福な国だと聞いている。
「うん。なんでも、結構な身分の方がいらしているらしくて、離宮に滞在してもらってる」
「妃殿下がいらっしゃるなら、女の方でしょうか」
「だろうね」
「公女様でも来たのかな? あそこの大公家、子だくさんって話だし」
「そうなのですか?」
「そう。宗教で認められてるから、奥方も3人じゃなかったっけ」
おぉ!一夫多妻制か。前世のアラビア方面みたいに4人までかな。
「父上も、今の時期は忙しくて、執務室と謁見の間を行ったり来たりしてるし…」
実の所、あれこれと構おうとしてくる陛下も鬼門なので、会わないに越したことはない。
お茶を一緒に、って珍しい果物やお菓子出されたり、お花や砂糖菓子や茶葉のお土産寄越したり…
(お友達の娘って、そんなにカワイイもんなんだろうか? それとも女の子が欲しかった、とかいうアレだろうか…)
王様と王妃様がバッティングする時はないのだが、噂にでもなるのか、元々低かったであろう王妃様のシャーロットに対する好感度は、ダダ下がりしている感じだ。
少し前も、王宮の廊下で、王妃様とばったり会ってしまった。
城の回廊は、王や王妃と、来客が『ばったり』会わないように調整されている筈なのに、わざわざ待ち伏せしていたらしい、暗い情熱が怖い。
こちらは端に寄り、カーテシーを保ち、通り過ぎるのを待っていたのだが、王妃様は立ち止まってしまった。
『相変わらず、美しい髪ですこと……』
氷の声である。
うかつに返答もできず、(童話に出てくる「雪の女王」の声は、きっとこんなだろうな…)等と現実逃避していると、驚くべき言葉が続けられた。
『……陛下から、その髪に似合う飾りを贈られたんですって?』
『いいえ、そのようなことは一切ございません!』
思わず、下げていた頭を勢いよく上げて、きっぱり断言してしまった。
(礼儀作法としては、問題あったかもしれないけど)
去りゆく王妃様の背中を横目で見ながら、受け取らないで良かった~と、心の底からほっとしていた。
ちなみに陛下からは、お菓子とかお花以外、ぶっちゃけ賞味期限のないもの(特に貴金属類)は受け取らないようにしている。
これはお父様にも相談済だ。
『あぁ、断っていい。シャーロットが賢明で、本当に助かるよ……』
言葉の後に『……あの考え無しが』と聞こえた気がしたが……気のせいだろう。
……自分の両親がシャーロットに迷惑をかけてるのを分かっている(悪いと思っている)王子様です。




