27.アラサー令嬢の茶会状況
宰相の書庫……さすがにカギはかかっていただろうに。
どうやって開けたかシリウスに聞いたら…
「あ、水の精霊に頼んだ」
精霊様ーーーー!
「水がカギの形になってね、あれは便利だよ!」
シリウスーーーー!!
「なんでも頼んでみるもんだね!」
王子様ーーーー感心している場合か!
「シャーロットが闇の精霊に、いろいろ頼んでるの思い出して」
えっ? 私のせい?!?
そっか……少し反省しました。
「とりあえず、ハーロゥ公爵はご自宅か、孫娘邸かに詰めてるの?」
「しばらく付きっきりかもね」
子どもの親にしてみれば、うっとおしい爺さんだろうな。気の毒に。
王子は、軽くうなずいて提案した。
「ならちょうどいいか。城に来ない?二人とも」
確かにじーさん公爵と顔を合わせるリスクがないとはいえ、あんな話聞いた後だと即答いたしかねた。
「何かお城にあるの?」
丸いジンジャークッキー片手に、シリウスが訊いた。
ちなみにプレーンのクッキーに、『ショウガ混ぜてみない?』と屋敷の料理長に提案して実現した、当家オリジナルだ。
きっかけは、風邪ひいた時に出てきたレモネード。
熱でぼーっとして
「これにショウガ入れるともっと温まるのよぉ……」
と、つぶやいてしまったらしい。
試したら、屋敷の人間やその家族にも効果てきめんだった。
(あの時、風邪が流行ってたのよね……)
サリーや皆に感謝され、調子にのって
「ショウガはクッキーに入れても美味しい……と本に書いてあったわ」
と言ってしまった。
そこから、料理長と厨房スタッフの試行錯誤が始まり、その結果、美味しいクッキーができました。
結果オーライ。
言ってしまってよかった。
(料理長との繋がりも出来たし!)
また、手に入りそうなお菓子材料を思い出せたら、作ってもらうのだ!
それにしても……
(今になって、料理もお菓子もろくに作らなかった過去が惜しいなんてねー)
……こちらで食べるジンジャークッキーは、甘くて、ちょっと切なくなる味です。
王子もクッキーを一つ、手に取る。
ちなみに当家のクッキーは、王子とシリウスにも好評で、今日もおみやげとして用意している。
「城の宝物庫の方に、シャーロットと同じ銀髪紫眼の肖像画があったんだ」
「え? 何で宝物庫?」
「肖像画の間の絵画は、以前見せていただきましたよね」
シャーロットママの、お祖母様、ナディア・シメイ王女の肖像画を見せてもらったのだ。
王女様は、後に王様になった兄王子と一緒に描かれていた。
よく似た美形の兄妹で、目の保養だったけど、同じ銀髪紫眼でも色味が微妙に違っていた。
(兄王子の色の方が、よりシャーロットと似てる気がした)
「王家によく出るのかな? 銀髪紫眼」
「いや、肖像画の間には、アルフレッド陛下と妹姫しかいなかったよ」
あの部屋には5~6代分の王家の肖像があったんで、2人しかいないというのは…
「少ないのですね」
「うん。宝物庫にあったのは、肖像画というか、片手に乗るくらいの箱の表面に描かれているんだ」
「あぁ、宝石箱?」
宝石箱の蓋部分に、丸く女神様みたいな絵が入っている意匠は、前世で見たことがある。
「キレイに磨いてあったけど、ほとんど装飾のない木製なんで、宝石箱っぽくはなかったかなぁ」
確かに。
お母様が持ってる宝石箱を見せてもらったことがあるが、箱の周りにも優雅な細工が施されていた。
一緒に見ていたアマレット姉様が、自分も欲しいって言ったら『お嫁入りの時に持たせてあげますよ。シャーロットもね』って言われたっけ。
(その言葉に、姉様はうっとりと妄想に浸ってたっけ…)
何か怖いこと言ってたけど、私もお母様も(ついでにメイド達も、礼儀正しく)聞こえない振りした。
慣れてきたなぁ、としみじみ思う。
それにしても、果たしてシャーロットは、嫁入りできるのだろうか?
できるとして、誰と?
(うぅ、王子と破談になった令嬢を拾ってくれる先で、肩身の狭い思いはしたくないし…)
一番の希望は、家庭教師の先生みたいに上の学校行って、歴史とか魔法の研究したいなぁ。
(そのためには勉強と……破滅回避よね)
王子とシリウスに関しては、おかしな強制力が働かない限り、この先も友達でいてくれると思う。
他の攻略対象の人たちは、学園に入ってからかな。
(対策と言うか……なるべく疎遠でいられますように)
神様へでも精霊王様へでも、真面目に祈る。
これがヒロインだと、学園での出会いの前に『実は子供の頃会ってた』→学園での再会は運命だ!みたいな、(ヒロインなら)心躍るイベントがあるんだよね。
(『フィアリーア』には無かったっけ……いや、待てよ。王子とシリウス以外のルートであったかも)
自分がプレイしなかっただけで。定番だし。
案外、今頃どっかの街角で、ヒロインと誰かが会ってるのかと考えると、不思議な気分だった。
お菓子もいいけど、一番食べたいのはクロワッサン。
とにかくバター使えばいい…までは、分かっているアラサー・シャーロット。




