26.アラサー令嬢の王室状況
「ハーロゥ公爵のひ孫様は、女の子だったのですか?」
機嫌が良いというなら、間違いないだろう。
「多分ね。身内にも知らせてないみたいだけど」
「まだ王宮にも、報告が来てないね」
「しばらくは様子見だろう。赤子が育たない場合もあるから」
王子様は優雅にお茶を一口飲んで、ティーカップをソーサーに戻した。
「……7つのお披露目まで、猶予あるかな」
「それはさすがにないだろう。半年がいいとこじゃないか?」
王子様は額に手を当ててうつむいた。
そんな仕草もエレガンスだけど、内心は、半年後から始まるだろう『公爵からの執拗なアタック』を思い、ぐらぐら揺れてそうだ。
「九つ下ですか。公爵様の中ではアリでしょうね」
「全然アリだろうな」
「……勘弁して、二人とも」
王子様がとうとうテーブルに潰れた。
私はお菓子を、シリウスはカップをさりげなく王子から遠ざける。
「あ……」
「どうかした?シャーロット」
一つ思い出した。
「殿下には、五つ歳の離れた弟君がおられましたよね。そのお方となら、お年回りもちょうど良いのでは…」
お披露目前の第2王子については、知っていることが殆どない。
婚約式の時に、紹介されるかな?と思ったけど、幼すぎたのか出て来なかった。
(ゲームには、第2王子って出て来なかったんだよね……設定集にはあった気がしたけど)
ただの思い付きだったんだけど、王子はテーブルに突っ伏したまま、シリウスもカップの持ち手を握ったまま、固まっていた。
「……シャーロット、それダメ。絶対、外で口にしちゃダメだよ」
シリウスが珍しく、低く怖い声を出した。
やっぱり第2王子じゃ意味ないのかな?
「あ、失礼を申しました――?」
「いや、失礼とかじゃなくて……」
シリウスが言い淀み、王子が顔を上げた。
こっちも真面目な顔になっている。
「シャーロット、ここだけの話。いい?」
「かしこまりました。絶対に口にしません。周囲にも聞こえておりません」
私は頷いて、背筋を伸ばした。
いつもではないけど、今日は闇の精霊様が側にいる。
セキュリティ対策は万全だ。
「弟……マクシミリアンは、母上の子じゃない」
私も固まった。
(これは、結構な爆弾だわ)
「公式ではないけど、父上には愛妾がいたんだ」
「いた……過去形ですか?」
「子供を産んだ時、亡くなったと聞いている」
……成程。
「それで、王妃様のお子様として公表されたのですね」
「結構もめたって聞いたよ。じいさんなんか、猛反対したんじゃないかな」
めっちゃ想像つくわ。むしろよく認めたなー。
(うーん。正式に認められていない愛妾というと…)
「低いご身分の方だったのですか?」
「これは噂だけど、母上の侍女として王宮に上がってきたって」
え……えー! それ一番、正妻が傷つくテンプレじゃない?!
王様、あんなさわやかな顔して…!
(王妃様、ケバいとか思ってごめんなさい!!)
そりゃ性格も顔もキツくもなるよね……。
「子爵家の娘だったんじゃなかったかな」
身分の高い女性に、下級貴族の令嬢が侍女に入るのはよくある話だ。
行儀見習いもあるけど、純粋に金銭の問題な場合もある。
「それらしき家の、没落した記録があったから」
……思わず、首がひやっとした。
「……そ、それって、家がお取り潰しになったということですか…?」
たかが、娘が王様の愛人になったくらいで!?
むしろ、家にとっては『イケイケ案件』じゃないの?
大貴族連中の恨みを買ったから?
シリウスは首を傾げた。
「娘が侍女になるくらいだから、元から懐具合はよくなかったと思う」
そっちのタイプか。
無能な侍女を王宮にまで連れてくる必要ないから、きちんと仕事していた人だよね。
「その頃の、お金の動きも活発だったし……多額の補償金で、家も名前も捨てさせたんだと思う」
娘の名前とその子供のことも一緒に……最初から、誰もいなかったように。
(『天空の精霊王国』……結構ドロドロだー!)
ファンシーなタイトルなのに!
いやでも、『悪役令嬢シャーロット』に対する刑罰も十分えげつなかったか…
(グリム童話なんかも、原点は残酷だもんね)
古い西欧系階級社会、怖い。
「このくらいやらないと、じーさん連中も王妃様も、納得はしなかったろうね」
「……僕もそう思うけど、シリウス」
「なに?」
「君はなんで、国のお金の流れまで知ってるの?」
あー、それは確かに疑問です。
「記録読んだ。大体3年たつと、資料が書庫に入るんだ」
新刊が本屋に入った――みたいに、シリウスが平然と答える。
ちょっと待って、それって国の機密書類では…?
「あの…宰相様の書庫ですよね? シリウス、許可は…」
「シャーロット、取れる訳ないよ。許可なんて…」
いつの間にか、また王子様が頭を抱えていた。
対照的に、シリウスがとても良い笑顔を浮かべている。
「まぁいいじゃない。悪用するわけじゃないし」
「よくない…」
王子様は反論したが、力がない。
「見つからないようにしてよ、シリウス。君が捕縛されても、かばい切れない」
「そうですよ、シリウス。私も、あなたがそんなことをするような人だという証言しかできません」
「二人とも、あきらめ早くない? そこは嘘でも、僕がそんなことをする訳ないってかばうトコロじゃない?」
王子が即答した。
「無理。嘘だし」
私もそれに乗った。
「無理ですね。嘘だから」
それもそうか、とシリウスが頷いた。
「無理があるよね。嘘だもん」
そして3人で顔を付き合わせて……はしたなくも、爆笑したのだった。
…すいません。編集前のモノがしばらくUPされていたようです。
(投稿の予約時間を間違えてましたーーー( ;∀;))




