21.幼女アラサーは微笑む
「王子の『火』の精霊も強力だと思うけど、精霊力だけでいけば、『闇』や『光』の方が上になるんだ」
「だから、『強すぎる』か…」
シリウスが王子にうなずいた。
例えば世継ぎが王女なら、強力な精霊力を持つ貴族の子息を婿に迎えるのは、むしろ歓迎されるかもだけど…
(王子より強い精霊を守護に持った侯爵令嬢なんて、あまりカワイクないよね…)
「ただでさえ、公爵家に反対されているし、侯爵としては、これ以上余計な要素を入れたくないのは理解できるよ」
それは確かに理解できるが……
(うーん、お父様のあの様子から考えて、もう少しなんかありそうだけど)
ひそかに頭をひねっているこちらを見て、シリウスが口を開いた。
「僕はいいと思うけどね。力の強い精霊持ちが国にいるのは、素直に安心できる」
王子も「そうだね」と同意する。
「僕も、ぜんぜん構わないんだけどね……」
そして、仕方なさそうにつぶやく。
「……構う人がいるのは、確かだなぁ」
具体的に思い出せる顔があるんだろう。
お子様の達観した表情は痛々しい。
しかも「ごめんね」等と謝られてしまい、秒で否定した。
「殿下が謝ることではありません!」
この件に関しては、王子に非は全くない。
「私は……殿下をだましていなければ、もうそれでいいです」
ここは、はっきりしておこうと思った。
(周囲をだますのが心苦しいって、精霊契約まで迫っておいてなんだけど!)
「お父様も、私のためだと言ってましたし」
「……うん。ありがとう、シャーロット」
礼を言われるのも心苦しいが、にこっと笑って受け取った。
……ちなみに今、周囲は前回同様、その『闇』の精霊様によって遮音されています。
(こちらの話を聞いてるはずなのに、何も言わないのは、訂正する必要がないってことかな)
王子とシリウスの精霊様方は、ふわふわ広がっているようで、たまにチラチラと光っている。
光を反射する細かい宝石が、風に浮いて流されているみたいで幻想的な光景である。
(前世でも、あーゆー吊り下げる飾りがあったっけ……サンキャッチャーとか、作ってみてもいいかも)
「まぁ『闇』だから、ウイザーズ侯も隠す気になったんだろうけど」
シリウスが、ぽつりとつぶやく。
やはり『闇』って、外聞悪いのかな。
「『光』の精霊持ちだったら、隠さなかったってこと?」
「隠さなかったじゃなくて、隠せないんだよ。国家の一大事だから」
「え?」
王子も驚いていたが、私も同じように目を剥いていた。
確かに貴重だと思うけど、一大事とまでは……
「年代記……歴史書には、国を揺るがした魔物の記録が幾つかあるんだけど、ほぼ例外なく『光』の精霊持ちに倒されているんだ」
「それは、強い魔物を倒せるのが『光』の精霊だけだから、当然なんじゃないか?」
弱い魔物なら、他の精霊でも倒せるはず。
実際、山の近くとかで小さな魔物が出ても、大抵は領主の兵士や魔法使いが出るまでもない、小さな規模が殆どらしい。
「うん。魔に打ち勝つのが、『光』の特性だよね。だけど大きな魔物が出た時、『光』の加護を持つ人間がいなかったら……魔物の強さにもよるけど、国の危機だよね」
でも現在まで、この国の危機は回避されているわけで……あ、と思わず言葉が出ていた。
「つまり、魔物が出る時は、必ず光の精霊持ちが現れる」
「そう。それを逆に考えると…」
「『光』の精霊持ちが現れることは、国に大きな魔物が出るって前触れになるのか!」
よくできました、という風にシリウスが小さく手を叩いた。
「確かに『国家の一大事』ですね!」
「うん。魔物のいない時代にも、『光』の精霊持ちはいたかも知れないけど、そっちの記録はないから分からないんだ」
「だったら、『光』の守護精霊を持つ子供が現れた時点で、警戒した方が確かだってことだね」
「でしょ? これが『光』の精霊持ちを、国から隠せない理由」
民間で見つかっても、国に報告義務があるんだよ、とシリウスが付け加えた。
さすが宰相の息子。
まー民間の『守護精霊判断』はザルだから、取りこぼしが多いわけで……ヒロインが見つかったって話はまだ聞かない。
(……いやしかし、今この国に、まさに『光の守護精霊を持つ子供』がいるわけだよね)
大きい魔物現れるの?
(シャーロットに魔物を呼ぶ予定はないよ)
……ってことは、『光』の精霊の空振りってことでも、いいんだろうか。
もしくは全く別のところから、魔物が現れるんだろうか。それとも……
(これから何か起こって、シャーロットはまた、闇の魔物を呼んだり、作ったりして王宮を襲ったりするんだろうか?)
それはない……と思いたい。切実に。
「『闇』の精霊持ちがいた時代の記述はないの?」
「あったけど、国を揺るがす魔物と一緒に、必ず出てくる『光』に比べれば少ないね」
「それはそうか。あ、じゃあ『光』と『闇』が一緒に出てくる時は?」
思わずドキッとする。
「それはあった気がする。僕もそんなに、読み込んでないんで覚えてないよ」
まさか今日、こんな話になるなんて、夢にも思ってなかったし……と、どこか遠い目になるシリウスに、大人しく頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「いや、教えてもらえてうれしかった、です」
シリウスは笑って、おどけるように言った。
「自分が『闇』の精霊持ちなら、自慢しまくるのに、と思うと残念だけど」
「分かっていると思うけど、シリウス」
くぎを刺すような王子の声に、シリウスは両手を胸の前に挙げる。
「大丈夫だよ、誰にも言わない。もちろん父上にも」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
頭を上げたシリウスが、「あらためて」と、手を差し出した。
「友達になろう、シャーロット。僕は友達の不利になることは、絶対にしない」
お、男前だ!
ゲームなら『惚れてまうやろ!』と画面の前で叫んでる。
思わず王子を見ると、笑って頷いている。
「シリウスはかっこいいだろ? 僕の自慢の友達なんだ」
はい、とつぶやいて、おずおずその手を取った。
「よろこんで、シリウス様」
まだ同じくらいの大きさの手を離すと、シリウスはニッと笑って、当然のことのように言った。
「この3人の時は、『様』はいらないからね」
「本当は、僕も名前で呼んでもらえるとうれしいんだけど……」
王子の残念そうなつぶやきは、シリウスに瞬殺される。
「殿下、それは無理。僕でさえ無理」
「やっぱり?」
2人が楽しそうに笑い……私は、少し泣きそうになった。
(いっそ『お願いだからずっと、友達でいてください!』と、縋りたい)
できるわけがないけど。
代わりに、私も友達として彼らを守ろうと、心で誓う。
(今まではシャーロットが断罪されないように、としか思わなかったから、進歩だよね!)
私は緩やかに立ち上がった。
朝夕の散歩の成果か、最近マナー教師に褒められるようになったカーテシーを、2人に向けてする。
「これからも、よろしくお願いしますね。殿下、シリウス」
と告げて、できるだけ幸せな思いが伝わるように微笑んだ。
王子とシリウスは驚いた顔をした後、あわてて立ち上がり、右手を左胸に当てた。
「「こちらこそよろしく、シャーロット」」
2人の揃った声が面白くて、3人でしばらく笑った。
1つの区切り、かな?




