20.幼女アラサーは納得する
ようやく覚悟を決めたのか、シリウスが右手を胸の前にかざす。
どこかで波がさざめくような音がした。
すぐに集まりだした光の粒子は、白や薄青、緑がかったものもあった。
(そういえば、水の色って光が決めてるって聞いたことがある)
いや、それ言ったらすべてのモノは、光が色を決めてるんじゃ……まーどっちにしても、目の前の光景はとても美しい。
「水の精霊様……」
つぶやくと、パシャッと、体の中で水が弾ける音がした。
実の所、人間の体は殆ど水で出来ている。
生まれた時は90%が水で、どんどん減っていくのだ。
(歳を取ると50%くらいにまで落ちるらしいけど、まだ7歳の体だったらほぼ水だわね)
弾けもするだろう……でも、これが水の精霊の能力だとするとすごすぎる。
人、生き物の、体の中にある水を操れれば無敵だ。
それとも自然反応的なものだろうか……
『どちらかと言えば反射だな。お前の中にある水が源泉に会えて喜んでいるんだ』
無意識に尋ねていたらしく、闇の精霊が教えてくれた。
この精霊様は、こちらの心を読むのも簡単に出来そうだけど、話しかけなければ勝手に口を挟むようなことはしない。
(紳士だ……性別あるかないか分からないけど)
「お初にお目にかかります。シャーロットと申します」
胸に手をあて、心持ち頭を下げると、シャラシャラ歌うような水音に体を包まれた。
とても心地よい。
「水の精霊は友好的だね!」
嬉しそうにつぶやく王子の周囲には、水の線――細く小さな魚みたいなものが見える。
「いや、こんなの初めてだ。前に殿下に会った時だって、何も起こらなかっただろう?」
シリウスが困惑気味に、王子に訴える。
「あぁ、それは……多分」
王子は、こちらを見たが、私に心当たりはない。
あるとすれば……
「私の、精霊様によるものでしょうか?」
「僕はそう思うし、僕の守護精霊も同意している」
王子の胸元で、火の精霊の粒がキラッと光った。
宝石のようで、こちらも、とてもキレイです。
「ちょっと待って、二人とも。シャーロットの守護精霊は…その…」
声を掛けたはいいが、言ってよいのか戸惑っている様子のシリウスに、こちらから言ってしまう。
(少し迷うけど、今更だよね。君も道連れだ、シリウス!)
「『闇』です。シリウス様」
シリウスの表情が分かりやすく固まって、ほどけた。
「……待って」
「うん」と王子。
「ウイザーズ家のシャーロット嬢の守護精霊は、『土』じゃなかったっけ……?」
「はい」と私。
「少しなら『土』の力も使えます」
「そういう意味では、シリウスや僕が聞いていた、『シャーロットの守護精霊は『土』で、彼女の精霊力は低い』も間違いじゃないんだよ」
「ね!」と、王子と私は顔を合わせ笑った。
案外、ノリのいい王子様だ。
「間違いだろ! ぜんっぜん間違いじゃないか!」
パニクるシリウスに、素早く頭を下げた。
「申し訳ありません。私を守るためだと、父が決めたのです」
「君を守るため? むしろ強い精霊を持っていると知らしめた方が、守られるんじゃ……」
シリウスは、不意に言葉を途切れさせた。
「……いや、そうか。『闇』じゃ強すぎるのか」
王子が、首を傾げて問いかける。
「強いっていうのは、精霊として?」
「あぁ……『光』や『闇』の精霊持ちが少ないのは知ってるよね?」
王子と、私もうなずく。
「過去にもあまりいないし……」
2、300年に1人くらいだったっけ、と王子。
500年に2人から3人かな、とシリウス。
(ゲームでは千年に一人の設定だったっけ)と私。
「どちらも、現れるときは一人だけだ。そのことから『光』と『闇』の精霊は一つ……一体だけだと言われている」
「なるほど」
軽い相槌を打った王子を、シリウスはぎろっとにらむ。
「それがどういうことか分かる?殿下」
「……説明してくれる?」
「私からもお願いします」
シリウスは肩を落として、ふーっと息を吐いた。
「……僕の『水』や、殿下の『火』の精霊持ちは他にもいる。つまり他の精霊は、何体もいて、同じ精霊がずっと守護精霊になってるわけじゃない」
陛下と、殿下の『火』は別々の精霊だろ?と言われて、王子はうなずいた。
「陛下の精霊が見える時に、僕の精霊もそばにいるのを感じたよ」
「うん。父上と僕の場合もそうだ。そして精霊っていうのは、この世界に長く存在していればいるほど力が強い、という説がある」
私は思わず口を挟む。
「それはどなたかの研究ですか?」
「記述があるんだ。何代か前のご先祖様が、光の精霊持ちで、書き残したものが家に残ってる。だからこれは、その本からの受け売りなんだけど……」
「後で読ませてね」
「私もついでにお願い致します!」
「……家の外に持ち出し禁止だからなぁ。なんか手を考えるわ」
話を戻すよ、とシリウス。
「本には、光や闇の精霊は、この国ができた時から、それぞれ一体しかいないって書いてあるんだ」
「……それって」
「長ければ長いほど力が強い……のが本当なら、この国ができた時から存在していれば、強さは相当なものだろう?」
なるほど、そういうことか。
光と闇が無双なわけだ。
ここまで、お読みいただいて大変有難く思います!
書き始めて2カ月たちました…あまり進んでないのが気になりますが、これ以上テンポあげると自滅するんで、この調子でのったくら行くと思います(-_-;)
たまに思い出したら、読んでやってください<(_ _)>




