第4話 温と情と不甲斐
あれから僕たちは森に入り、薬草を探した。
今日は昨日と違いゴブリンと遭遇しなかったため
比較的順調に採取できた。
「日も沈みそうだし、そろそろ帰ろう」
「うん」
僕らはギルドに戻り、報酬をもらう。
3つ取れたので銅貨12枚だ。
僕たちは宿に向かった。
その時だったーーー
「きゃあ!」
叫び声が聞こえた方をむくと、マリーが見るからに野蛮な男3人組に路地裏に連れ込まれていた。
僕は神崎さんの方を向くと、神崎さんはうなずいた。
僕たちはその後を追った。
空き地に繋がっているその路地には、必死に抵抗しているマリーとそれを強引に抑えている獣人の男が複数体いた。
(1、2、3体か)
僕たちは空箱の物陰に隠れた。
「んー!んー!」
「まさかこんなに簡単にエルフの女が手に入るとなぁ!」
「明日にはがっぽり儲けられる!」
「隣街のオークションに出せば金貨80枚は下らないぜ!」
どうやら彼女をさらいオークションに出すようだ。
「神崎さん、どうする?」
「……」
「か、神崎さん?」
神崎さんは見たことのない怒りの形相をしていた。
「あ、ごめん。じゃあ私が1人に火を放つから、それに気を取られている隙に助けられる?」
神崎さんはさっきまでの表情に戻っていた。
「わかった。じゃあ僕が飛び出すタイミングで頼むよ」
「うん」
「じゃあ行くよ…3、2、1、今だ!」
ボンっ!
「ぎゃあ!」
「誰だ」
「あの女だ!」
僕はマリーの元へ向かう。
「エルフがとられるぞ!」
「させねーよ!それは俺らのだ!」
3人のうちの1人が僕のもとに向かう。
ボンっ
そこに神崎さんが火を放った。
マリーに嵌められていた猿轡を取る。
「大丈夫?」
「こ、怖かったよぉ、お兄ちゃん…」
「きゃあ!!!!!!」
「神崎さん!!!」
いくら神崎さんが魔法を使えたとしても、相手は3人、多勢に無勢だ。
「おい、こいつを離して欲しかったらそいつをこっちに渡せ」
「それは出来ない」
「ならこいつがどうなるかわかるよな?」
「っ!!!!!!」
神崎さんの制服が切られて下着が露わになる。
(僕に力があれば…)
そんな時僕の前に光の粒子が集まり形を形成していく。
ギルドのテーブルの上に置いてあった剣があった
思い出した。
あれは日本刀だ。
僕の家は先祖が武家だったこともあり、家には日本刀が飾られていた。
刃の部分が105センチと、家にあったものより長いが、柄を握ると驚くほどに手に馴染む。
「その剣はどっから出した!」
そんな言葉を受けるが気には止めない。
僕は集中し居合の姿勢をとる。
ザシュッ
刀が一閃を走った。
刹那、一瞬、須臾…。
なんと表せばいいんだろうか。
それほどまでに素早い攻撃だった。
彼はいつもの彼ではないのではないかと思うくらい。
集中していて、心臓が掴まれるのかと思うくらい緊張した。
「てめぇ!」
私を掴んでいた獣人は手を離し、私は緊張と恐怖に崩れ落ちる。
そこからの記憶はほとんどない。
ぼんやりと覚えているのは彼が数的不利な状況をものともしない斬撃で、3人を斬り、そのあとマリーが駆け寄ってきて、彼はギルドに向かった。
数分後ギルドの受付嬢と数人の冒険者と思わしき人たちと、マリーのお母さんが来た。
マリーはお母さんに抱きつき、彼は身柄を引き渡した。
そして私に彼の上着を羽織らせ手を取り、宿に向かった。
「大丈夫?」
「うん、さっきよりは落ち着いた」
「ごめんなんだけどさ、一部屋しか取れなかったんだよね。僕は椅子で寝るから神崎さんはベッド使っていいよ」
彼はベットに私を座らせ、そう言った。
「温泉は下にあるから、入りに行こう」
「うん」
彼は私に着替えの服とタオルを渡す。
「えっ、これ……どうして?」
「あぁ、さっき宿とる時に買っておいた
あいつらそれなりに名の知れてるお尋ね者だったらしくて、懸賞金がもらえたから買っておいたんだ」
「そうなんだありがとう」
彼と別れ女湯に向かう。
今日はいろいろあった。
街につき、クエストをこなし、拐われた子を助け、彼にたすけられ…。
あの時の彼に恐怖を抱かなかったと言ったら嘘になる。
刀を持った瞬間、急に空気が変わった。
誰もが動きを戸惑うほどの緊張感が場を支配し、
冷や汗が流れた。
それからは一瞬だった。
何が起きたかも判断できないくらい。
私は湯を出た。
部屋に戻ると食事があった。
「下の食堂から持ってきたんだ」
「野菜取ってきたんだけど、苦手なものとかある?」
「特にない」
「そっか、よかった、じゃあいただきます!」
食事中はこれまでのことを整理したり彼の刀のことを聞いた。
「これからどうするの?」
「元の世界の戻り方を探そうと思う
こっちの世界に来れたんだ。帰ることだってできるでしょ!」
「うん、うん。そうだね……!」
食事も終わり就寝準備となった。
「ごめんね。男の僕と同じ部屋で寝ることになって」
「いや、全然…気にしないよ」
「そっか…」
「あのさ…今日の私のことなんだけど…」
「うん」
「実はね、私のお父さん、私やお母さんに暴力をふるってたの。だから…マリーちゃんが連れ去られているときお父さんを思い出しちゃって…」
神崎さんにそんな過去があったなんて……
「そっか……話してくれてありがとう、辛かったんだね」
彼女をうまく慰められない自分に腹が立つ。
彼が女性向けの雑誌を買うきっかけとなった日だった。
僕たちはまだ知らなかったんだ。
元の世界に帰るという行動がどれほど難しいかを
これから味わうことになる絶望を。
僕たちは乗り越えなくてはならない。