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第19話 我が道を行く

 ――――――――――――――――


 残り時間――9時間02分


 残りデストラップ――8個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――3名 


 ――――――――――――――――



 自転車を失ったスオウたちは坂道を自力で登り切ると、そこからさらに少し歩いていき、ようやく目的地である迷子センターまでたどり着いた。屋根の先が尖がった可愛らしいエンピツ形をした建物である。さっそく春元が先頭になって中に入っていく。


 入ってすぐの場所に、机とイスが雑然と置かれていた。壁際には棚がひとつだけあり、絵本やぬいぐるみが並んでいる。迷子になって泣いてしまっている子供たちをあやすためのものだろう。怪我をした入園者用の救急箱もしっかりと用意されていた。


 机の上に目的の機械を見つけた。園内放送の機材である。


「イツカちゃん、頼まれてくれるか?」


 春元がマイクを手に取り、イツカに差し出す。


「えっ? わたしですか?」


 イツカがびっくりしたのか訊き返す。


「オレのダミ声よりもイツカちゃんの声の方が、きっと安心すると思うからさ」


 春元の言い分は、確かに的を得ているとスオウは思った。いつデストラップが発生するのか分からない緊張状態に参加者はいるのだ。女性の声の方が安心感を生むはずである。


「イツカ、おれからも頼むよ」


 スオウもイツカにお願いした。


「イツカちゃんがやらないなら、アタシがやっても──」


 ハスキーな低音ボイスのヴァニラの意見は、もちろんなかったことにされた。


「分かりました。わたしがやってみます。ただ、どんな内容をしゃべればいいかは、春元さんが決めてください」


「ああ、分かった。おそらく、あのヒカリという男が中心になってチームを組んでいるだろうから、ヒカリが納得するような呼びかけをしないとな」


「でも、最初の毒入りクッキーの件があったから、あいつはおれたちのことを信用していないんじゃないですか?」


 スオウは懸念している点を口に出した。ヒカリとは毒入りクッキーの犯人探しの過程で意見が対立したのだ。園内放送を聞いたからといって、のこのこと姿を見せるとは考えにくかった。


「そのことだけどな、実は別の解答を見つけたかもしれないんだ」


「えっ? どういうことですか? だって、あれは『毒島櫻子』さんの名前が前兆っていうことで──」


「確かにあのときオレはそう言ったが、これまでのデストラップの前兆を思い返してみたら、別の可能性があるってことに気が付いたんだ。そのことを園内放送で言えば、ヒカリも納得してくれるんじゃないかと思ってな」


「それって今教えてもらえますか?」


「出来ればみんなが集まったところで言いたいんだけどな……。今ここで説明すると、仲間うちで口裏合わせをしたと取られかねないからな」


「そうですか……。分かりました。それならば、おれもそのときまで待ちますよ」


「悪いな。まあ、今言えることがひとつだけあるとしたら──あのとき、スオウ君とイツカちゃんは誰にクッキーを貰ったか覚えているかい? それが鍵になると思うんだ」


「誰からって急に言われても……」


「クッキーですか? わたし、誰に貰ったかな……?」


 春元の唐突な質問に対して、スオウとイツカはそろって首をかしげた。


「とにかく、今からオレが放送内容をメモ書きするから、イツカちゃんはそれを優しく説得力のある口調で放送してくれ」


 春元はイスに腰掛けると、机の上に置いてあったメモ用紙とボールペンを手に取り、さっそく原稿を書き始めた。


「えーと、おれにクッキーをくれたのは誰だったかな?」


 スオウは横目で春元の手先を見ながらも、頭の中では最初に集合したレストランホールでのことを思い出そうと記憶を巡らせていた。



 ――――――――――――――――



 交わす言葉もなくトボトボと園内の道を歩く4人の姿があった。慧登、ヒカリ、玲子、美佳の4人である。ヒカリだけは手にしたスマホを一心不乱にいじっている。


 炎の森と化した『ミニチュア王国』を後にした4人は、結局、目的地を決めることなく、園内の道なりに沿って歩き始めた。とりあえず、平岩が死んだ場所から少しでも離れたかったのである。


 慧登は隣を歩く玲子の様子が気掛かりでしょうがなかった。さきほどからまったく声を発していないのだ。幸代と平岩の件が相当ショックだったらしい。


「これがデス13ゲームの怖さなんだな……」


 知らず知らずの内に、慧登は口から呟きを漏らしていた。慧登とて、命を懸けたゲームであると分かった上でこのゲームに参加を決めたわけだが、ここまで強烈な『死』が発生するとは思ってもみなかった。今はショックを受けている玲子がすぐそばにいるお陰で、逆に冷静でいられたが、ひとりで行動していたら、あるいはこのゲームから逃げ出していたかもしれない。



 でもだからこそ、ここで負けるわけにはいかないんだ!



 慧登は改めてそう自分を鼓舞した。勝って賞金を獲得するまで、絶対に死ぬわけにはいかない。さらに慧登には新しい目標が出来ていた。出来れば玲子と生き残って、一緒に勝利を掴みたいと思うようになっていたのだ。


 隣の玲子の顔色をそっと窺ってみた。さきほど比べて若干、血色が良くなったように見える。少しだけ安心した。


 そのとき──女性の声の園内放送が流れてきた。



『園内にいるゲーム参加者の皆さんにお願いがあります。ゲーム開始からまもなく4時間が経とうとしていますが、すでに3人の犠牲者が出ています。ここで一度全員再集合して、これ以上犠牲者を出さないように、作戦会議を開きませんか? わたしたち──春元、ヴァニラ、スオウ、イツカの4人は今、迷子センターにいます。もしも、わたしたちの考えに賛同してくれるようでしたら、迷子センターに来てください。わたしたちはここで30分だけ待ち続けます』



「──ねえ、行こうよ」


放送が終わるやいなや、小さな声で言ったのは、今まで黙っていた玲子だった。


「ねえ、行こうよ! もう迷子センターに行くしかないよっ!」


 さらに声を大きくして続けて言った。


「玲子さん……」


「だって行かないと……あたしたちも、平岩さんや幸代さんみたいに……」


 玲子は言いながらも、両腕で震える自分の体を抱きしめている。


「俺も玲子さんの意見に賛成だよ。このままじゃ、ただ殺されていくだけだからな。──お前はどうなんだ?」


 慧登はヒカリに意見を求めた。


「おい、もう忘れたのか? あの4人の中に、クッキーに毒を仕込んだ人間がいるかもしれないんだぜ」


 ヒカリはまだ最初のデストラップの件のことを忘れていないみたいだ。


「その件は、あの喪服女の仕業だっていうことになっただろう。お前だって、さっきあの喪服女にそう言ったはずじゃ──」


「あのときはそう言ったが、まだ確実にそうだと決まったわけじゃねえよ」


 ヒカリにしては珍しく玲子の意見に真っ向反対する姿勢を貫く。


「だけど、こうして4人で作戦も考えずに園内をウロウロしていても──」


「だったら、お前たち3人で勝手に行けばいいだろう」


 ヒカリが突き放すように言った。


「3人って……」


 ここでヒカリを残して行動するのは簡単だが、心情的にそういう訳にはいかない。


「なあ、考え直せよ。助かる可能性が高いのは、あの放送にあったみたいに参加者がまとまることなんだぜ。みんなが考えを出し合えば、なにか名案でも──」


 慧登がヒカリを説得していると、また園内放送が流れた。



『もしもまだ迷っているようでしたら、これだけは断言できます。一番最初のデストラップについての謎は解けた、と。ですから、わたしたちのことを信用してください。──それでは、あと20分だけここで待ちます』



「おい、今の放送を聞いたか? ちゃんと言ってたぜ。毒入りクッキーの謎は解けたって!」


 慧登はヒカリの肩に手をやり、ヒカリの体を揺すった。


「だから、その考え方が甘いんだよ! それがやつらのやり口かもしれないぜ? 集まったところで皆殺しとかな」


「皆殺しって……」


「それにもう俺には別の作戦があるからな。他人を頼る必要はなくなった」


 そう言って、ヒカリはスマホの画面にチラッと視線を向けた。


「えっ? 作戦ってなんのことだよ?」


「とにかく俺はここからひとりでいかせてもらうからな。あとは勝手にしろよ」


 ヒカリは慧登の手を振り払うと、迷子センターと逆方向にある『巨大迷宮』に向かって歩いて行く。


「おい、何様のつもりなんだよ! 最初にグループを作ったのはお前だろうが!」


 遠ざかって行くヒカリの背中からは何も応答はない。


「──そっちから犬の声が聞こえた」


 美佳が突然ボソッと声を発した。小さな声であったが、内容が内容なので、さすがにヒカリが足を止めた。


「けっ、クソッが」


 吐き捨てるように言ったが、『ケルベロス』の件を思い出したのか、進路変更をするヒカリ。『巨大迷宮』ではなく、『白鳥の湖』の方に向かって歩いていく。


「分かったよ。お前の勝手にすればいいさ。こっちもお前抜きでやらせてもらうからな!」


 慧登は振り返って、玲子と美佳の顔を順番に見つめた。


「よし、おれたちだけで迷子センターに行こう。それが一番の選択肢だと思うから」


 玲子が無言でうなずく。美佳はさっそく歩き出している。


「いや、だからさ……コミニュケーションぐらいはしっかり取ろうぜ」


 慧登は美佳の背中を見つめながら、やれやれと首を振るのだった。

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