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第15話 次の行動

 ――――――――――――――――


 残り時間――10時間47分


 残りデストラップ――10個


 残り生存者――11名     

  

 死亡者――2名 


 ――――――――――――――――



 仕掛け花火のデストラップを目前で回避して、気分が高揚していたところに、いきなり冷水を浴びせられた。


 幸代の死を報告する紫人からのメールである。


 スオウを含めて、その場にいた皆が一様に神妙な表情を浮かべる。


「幸代さんが……」


 イツカが誰に言うでもなくつぶやいた。


「外に出て行った参加者の中では、一番体力的にもきつそうに見えたから、心配はしていたんだけど……。やっぱり強引にでも止めるべきだったかもしれないな……」


 スオウは自らの判断ミスを悔やんだ。


「スオウ君、それは違うわよ。みんな自分の命を懸けてゲームに参加しているんだから、責任は自分でとらないと」


 ヴァニラの言葉は確かに正しかったが、今の状況では素直にうなずくことは出来なかった。


「とにかく、オレたちも外に出ることにしよう。閉園時間は過ぎたし、入園者もそろそろいなくなったみたいだからな」


 春元はドアから顔を出して、周囲の様子を注意深く見ている。


 イベント広場から聞こえていた大歓声は少し前から聞こえなくなっていた。花火大会が終わると同時に、入園者の民族大移動が始まったのだ。遊園地最後の日を惜しむ人々が多くいて、9時の閉園時間を過ぎてもまだ入園者の姿がチラホラと見受けられていたが、さすがにこの時間になると入園者の姿も見えなくなった。現在、園内にいるのはスオウたちゲーム参加者だけと思われた。


「そうだ。外に出る前に言っておくぞ。──いいか、ここからが本当のゲームの始まりだからな。他の入園者がいなくなったからには、どんどん大掛かりなデストラップが発動してくるぞ。気持ちを引き締めていかないと、次のデストラップでやられるのはオレたちの内の誰かになるかもしれないぞ!」


 春元は自分自身にも言い聞かせているかのようであった。


「ええ、分かっています。さっきのデストラップで十二分にこのゲームの怖さを思い知りましたから」


 スオウは仕掛け花火のデストラップを思い出して、背中に薄ら寒いものが流れ落ちるのを感じた。あのとき、ほんの一瞬でも早く外に出ていたら、紫人からのメールにはスオウの名前が載っていたかもしれないのだ。


「でも春元さん、外に出るといっても、これからどこに向かうんですか?」


「このレストランの目の前にあるイベント広場ならば、見通しが利くから安全だと思うが、実はもうひとつ案があるんだ」


 春元はこれからの行動について考えていたらしい。


「その案っていうのは名案なの? それとも迷うほうの迷案なの?」


 ヴァニラが冗談交じりに言って、場の空気を明るくする。


「それが文字通りの迷案なんだけどな……」


 一度言いよどんだ春元は自らの迷いを吹っ切るようにして、さらに言葉を続けた。


「──迷子センターに行くという考えもありかなって考えているんだ」


「迷子センターって、確かに迷案ですね。でも、なんで迷子センターなんですか?」


 イツカが不思議そうに尋ね返した。


「迷子センターならば、園内放送の機器があるはずだろう? それで他の参加者に呼びかけるのさ。もう一度みんなで集まって行動しようとな。これ以上犠牲者は増やしたくないからな」


「でも、他の参加者といっても──」


「イツカちゃんが不安に思うのも無理はないさ。一度バラバラになった参加者が、また集まるかどうかは未知数だからな。でも、二時間足らずでもう2人の犠牲者が出ている。外に出て行った連中だって、このゲームの怖さに気がついているはずだ。ここはお互い協力できることは協力していかないとな」


 春元の案は悪くないように思えた。スオウとて、これ以上の犠牲者は見たくなかった。例え相手が今日出会ったばかりの人だとしても、その思いに変わりはない。紫人も最初に言っていたが、このゲームにおいて、協力プレイは反則ではないのだ。


「でもそれって、またあの正体不明の3人と一緒になるってことよね?」


 ヴァニラが露骨に顔をしかめた。3人とは言うまでもなく、美佳、櫻子、白包院のことだろう。


「いや、少なくともあの喪服美女と包帯男の2人は呼びかけても来ないと思うけどな」


「えっ? どうしてそんなこと言えるのよ?」


「あの2人はレストランからひとりで出て行ったからな。はじめから集団で行動するつもりはなかったんだと思う」


「そういうことなら、アタシは迷子センター行きに賛成するわ」


「このマップで見ると、迷子センターは『アトラクション乗り場』の近くにありますね。ここからだとちょっと遠くになりそうかな」


 イツカがさっそくマップで場所のチェックを始める。


「ああ、実はそれが唯一の考えどころなんだよ。安全策をとってイベント広場で待機するか、それとも危険を冒してでもチームの人数を増やす作戦をとるか、難しい判断になるな」


「あっ、入り口近くにレンタルサイクルがありますよ。これに乗っていけばいいんじゃないですか? 時間的にもかなり節約出来るし」


 スオウはマップ上に自転車マークを発見した。広い園内を巡る為の乗り物と思われた。


「そんな便利なものがあったのか! よし、自転車があるならば、オレひとりで迷子センターに行ってもいいな」


「ちょっと待ってください。春元さんひとりを行かせるわけにはいきませんよ!」


 スオウは慌てて止めた。


「行くならば4人で行きましょう。集まって行動した方がいいって、さっき春元さんが言ったばかりじゃないですか」


「そうですよ。ひとりじゃ危険過ぎます!」


 イツカも強い口調で引きとめる。


「今必要なのはひとりのヒーローじゃなくてチームワークでしょ!」


 ヴァニラが怒った顔で春元を睨んだ。傍目からも、春元のことを心底心配しているのが見て取れた。


「ああ、悪い悪い……。そうだったよな」


 春元が申し訳なさそうに頭を掻く。その様子を見て、ヴァニラが笑みを見せた。


「──よし。それじゃ、みんなで迷子センターに行くとするか!」


 春元が改めて号令を発する。


 こうしてスオウたち4人はゲーム最初にいたレストランから初めて外に出て、レンタルサイクルへと向かうことになった。


 果たして、その決断が吉と出るか凶と出るか分からないままに──。



 ――――――――――――――――



「おい、やめろよっ!」


 静かな園内に慧登の声が響き渡る。伸ばした右手でもって、今まさに櫻子に殴りかかろうとしていたヒカリの右腕をがっちりと掴む。櫻子の態度に不信感を抱いていたヒカリは我慢の限界に達したようで、櫻子に対して物理的な圧力をかけようとしたのである。それを慧登は慌てて止めに入ったところだ。


「――お前、そうやってまた良い子振るつもりか?」


 櫻子に向けていたヒカリの敵意が、そのまま慧登に向けられた。ヒカリの目はギラついており、一言でも失言したら本気で殴ってきそうな雰囲気だった。


「待てよ、誤解するな。この子は確かに怪しい──」


「だったら──」


「だけど、今は他にやるべきことがあるだろう?」


「はあ? やるべきこと?」


「俺たちとはぐれているのは幸代さんだけじゃないだろう?」


「あっ、そうだった。あのお爺ちゃんは大丈夫なのかな? 途中で別れてから、ずっと会っていないけど……」


 玲子が慧登の言いたかったことを先回りして言ってくれた。


「けっ、あのじいさんのことかよ」


 ヒカリがさも面倒くさそうに吐き捨てた。


「このまま平岩さんを見捨てるつもりなのか? この子のことは放っておいて、平岩さんを探しに行くぜ」


 慧登はヒカリの右腕を強引に引き寄せた。櫻子の行動や言動がおかしいことは、慧登も承知している。しかし、ここで櫻子を殴ったところで、状況が変わるとは思えなかった。だとしたら、今やるべきことは、これ以上犠牲者を出さないことだと結論付けたのである。


「…………」


ヒカリはそれでもまだ櫻子のことを睨みつけたままである。


「こんな状態になった幸代さんの前で、ひと騒動起こすつもりなのか?」


 慧登は敢えて死んでしまった幸代の名前を出して、ヒカリの行動を制した。


「ええい、クソがっ!」


 ヒカリが苦々しい表情で、お馴染みとなった単語を口にした。


「──いいか、次に俺にその澄ました顔を見せたら、そのときは絶対に容赦しないからな! 覚えておけよっ!」


 脅迫混じりの言葉を発して、ようやくヒカリが櫻子から視線を外した。自分の右腕を掴んでいた慧登の手を鬱陶しそうに払いのけると、今来た道をさっさと戻って行く。その後を、玲子がすぐに追いかけて行く。玲子は幸代の遺体から少しでも早く離れたかったのだろう。


「俺たちはこれで行かせてもらう。悪いけど、君とは一緒に行動出来そうにないんでね」


 慧登は櫻子に一応断りを入れた。


「ええ、始めから単独行動で行く予定でしたので、どうぞお構いなく」


「君はひとりで本当に平気なのか?」


「私は今までもずっとひとりでしたから。むしろ、ひとりでいる方が慣れています」


 能面染みた櫻子の顔に、初めて表情が浮き出た。何かを達観したような、あるいは悟りきったような、年齢に不釣合いの大人びた顔であった。しかし、その表情は一瞬で消えて、もとの感情のない能面に戻ってしまった。



 きっとこの子はこの子で、心の中にいろいろと抱えているんだろうな。



 慧登はそんな思いにとらわれた。しかし、今は他人のことよりも自分のことを考えるときである。


「それじゃ、俺はここで──」


 慧登が振り返ろうとしたとき、櫻子が声をかけてきた。


「あのお爺さんならば、さっき『ミニチュア王国』の方に歩いて行かれましたよ」


「えっ? 君は平岩さんに会ったのか?」


「いえ、遠くからチラッと後ろ姿をお見かけしただけです。そのすぐあとにこちらの遺体を発見したので、追いかけることはしませんでしたが」


「ああ、そういうことか」


「ええ、私、『生きている人間』には、まったく興味がありませんので」


「えっ? 今なんて言ったんだ?」


 櫻子が気になることをぽろっと口にしたので、慧登は慌てて訊き返したが、櫻子はもう振り向いて、その場から歩き出していた。あれほど執心していた幸代の遺体のことなど、きっぱり忘れたかのような態度である。


「──やっぱり君とは一緒に行動出来そうにないな」


 遠ざかって行く櫻子の後ろ姿を見つめながら、慧登は改めてそう実感するのだった。

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