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第11話 動物に会いに行く

 ――――――――――――――――


 残り時間――11時間44分


 残りデストラップ――12個


 残り生存者――12名     

  

 死亡者――1名 


 ――――――――――――――――



 スオウたち4人がレストランホールに留まることを決めた、ちょうど同じ頃──。


 外へと出て行ったヒカリたち6人は、イベント広場の隅で入り口ゲートのスタッフから貰ったマップを見ながら、今後の方針について話し合っていた。


 6人の頭上では、大きな音をあげながら花火が大輪の華をいくつも咲かせている。花火が夜空に広がるたびに、入園者の歓声がドッとあがる。


「クソっ! どこに行けば一番安全なんだよ! このマップじゃ、全然分からねえじゃんかよ!」


 ヒカリはイライラした様子で、今にも手にしたマップをグチャグチャに握り潰しそうな様子である。


「マップに答えがあったら、そもそもゲームにならねえよ。あーあ、コイツについてきたのは間違いだったかもしれないな」


 ヒカリに聞こえないように慧登がボソッとつぶやいた。


「──『ハローアニマルパーク』がいい」


 花火の轟音にかき消されそうな小さい声で発言したのは、意外にも美佳だった。


「お、お、おい、驚かすなよ! デストラップかと思ったぜ!」


 ヒカリが大袈裟なくらい体をビクッと震わせた。


「今まで黙っていたのが、いきなり口を開いたかと思ったら、『ハローアニマルパーク』ってなんだよ? それって動物園のことか? ていうか、なんでわざわざ動物園に行かなきゃならねえんだよ!」


「──動物……好きだから……」


「はあ? ふざけんなよ! 俺たちは命を懸けたゲームをやっている最中なんだぜ! 動物なんか見に行っていられるかよ! そもそも『ハローアニマルパーク』って、ここから一番遠いエリアにあるじゃんかよっ!」


「でも『ハローアニマルパーク』って、もしかしたらグッドアイデかもよ」


 マップで『ハローアニマルパーク』の位置を確認していた玲子が声をあげた。


「このマップの説明によると、『子供たちが動物と楽しく触れ合える広場となっております』って書かれているんだけど、死神もさすがに子供が大勢いるようなところで、デストラップは起こさないんじゃないの? 午後9時の閉園時間まで、この『ハローアニマルパーク』で過ごすのも、ひとつの手としてありでしょ?」


「ああ、それはいいかもしれないな。俺たち以外の入園者をデストラップに巻き込んで殺すなんてことは、さすがに死神もしないだろうからな。しかもそれが子供だとしたら尚のことないよな」


 慧登が当然のように玲子の意見に追随する。


「お、お、おう……そ、そ、そうだよな……。実は俺もそう考えていたところなんだよ。玲子ちゃんの意見に全面的に賛成するぜ」


 すぐに自分の意見を撤回する調子のいいヒカリだった。いつのまにか『玲子ちゃん』呼ばわりしている。


「行き先が決まったのならば、さっさと移動しようじゃないか。ここにもどんどん人が集まってきているようだしな。この雑踏の中でさっきみたいなデストラップが起こったら、わしらには防ぐ手立てはないぞ」


 平岩が次々にイベント広場に集まってくる人の群れの方に目を向ける。


 花火大会の花火は園内の中央に位置している池から打ち上げられており、イベント広場は絶好の花火観覧場所となっていたのである。すでに行き来するのも大変なくらいの混みようだった。平岩の言うとおり、もしもこの人混みの中でデストラップが起きたら、ヒカリたちには避けようがないだろう。


「オッケー。それじゃ、これ以上人が集まる前に移動を始めようぜ」


 ヒカリはマップをパンツの後ろポケットに捻じ込むと、当たり前のように玲子の隣に寄っていく。傍目には恋人同士のようにも見える感じで一緒に歩き出す。


「おいおい、あれが俺たちのリーダーかよ。なんともご立派なリーダー様だよな」


 2人の後ろ姿に文句を垂れながら付いていくのは慧登である。


 さらにその後方から、幸代と美佳が続き、最後尾には高齢の平岩がゆっくりとした足取りで続いた。



 ――――――――――――――――



 20分ほど園内を歩いて行くと、『ハローアニマルパーク』の前にたどり着いた。


「着いたのはいいけど、なんで誰もいねえんだよ! しかも動物もいねえじゃんかよ!」


 途端にヒカリが怒りを爆発させた。とりあえず何かに怒っておかないと我慢出来ない性質らしい。というよりも、ここまでくると、もはや病気といっても良かった。


 5人の前には『ハローアニマルパーク』と大きく書かれた門が設置されていた。長年の風雪による劣化の為か、あるいは閉園の為手入れがされていないのか、所々剥げてしまっている。ゲートの脇には、可愛らしいアニメチックな絵柄で描かれた動物たちの案内板が立てられていた。


 ウサギ、ヤギ、羊、アルパカ、カピバラ、レッサーパンダ──。


 しかし、肝心の動物たちの姿はというと、なぜかどこにも見当たらなかった。動物だけではない。入園者の姿もまったく見当たらない。


 その理由は明白だった。


「一ヶ月前にここが閉園したときに、動物たちは別の動物園に移送されたみたいね」


 玲子が案内板に貼られている用紙を詰まらなそうに見つめる。


「動物が何もいないんじゃ、誰も見に来るわけないよな。しかも園内の一番奥にあるんだから、尚のことな」


 慧登は的確な意見を述べた。


「お前、ちゃんと事前に確認しておけよな!」


 ヒカリの怒りの矛先は当然の如く、『ハローアニマルパーク』を希望した美佳に向けられた。


「……すいません……」


 か細い声で謝る美佳。


「まあ、ここまで来ちゃったんだから、中にでも入らない?」


 玲子は動物がいないことなど少しも気に止めていない様子である。


「玲子ちゃん、中に入っても動物はいないんだぜ。それとも誰もいない動物園で、俺と二人きりでロマンスを語るのかい?」


 内心のいやらしさが、顔に笑みとして浮かんでいるヒカリ。もっとも、本人はそのことに気が付いていないみたいだが。


「だって、ここでこうして突っ立っていてもしょうがないでしょ? 中にはベンチぐらいはあるだろうしさ。そこで花火でも見ながら過ごしたらいいんじゃない? 誰もいないってことは、逆にいったら特等席ってことでしょ?」


「なるほど。さすが玲子ちゃん、グッドアイデアじゃん! そうだな、誰もいない方がかえってゆっくり出来るよな。なんだったら、花火大会の様子を生配信してもいいしな。──じゃあ、そういうことで中に入ろうぜ。」


 ヒカリが意気揚々とした足取りで中に入って行こうとするのを、慧登が呼び止めた。


「ちょっと待てよ。あの平岩のじーさんがまだ来てないみたいだぜ?」


「はあ? なんでいねえんだよ! 動物もいねえし、じーさんもいねえし、このチームはどうなってんだよ!」


「あの……平岩さんなら、歩くのがしんどいみたいで……休憩をとりながら来るそうです……。すいません、報告が遅れてしまって……」


 ヒカリの荒い語気に押されたのか、幸代が小さな声で説明した。幸代も年齢的にここまで歩くのが大変だったのか、その表情に覇気が感じられない。


「あのな、そういう大事なことは、次からはもっと早くに言ってくれよな。──それじゃ、慧登とか言ったか、お前はここでじーさんを待ってろよ。俺と玲子ちゃんは先に中に入っているからよ」


 ヒカリが自分に都合良く話を進めて行く。


「はあ? なんで俺が待たなきゃならないんだよ? お前こそリーダーを気取るなら、ここで待ってろよ」


「俺はリーダーになった覚えはないし、あのじーさんの体力じゃ、いつまで待てばいいか分かったもんじゃないだろうが!」


「だったら、みんなで待って──」


「あ、あ、あの……そういうことならば、私がここで平岩さんを待っていますから……。私の報告が遅れたことが原因でもあるわけですから……」


 幸代の決断に、2人の男はそろってうれしそうに笑顔を浮かべた。ヒカリと同様に、慧登も玲子から離れたくなかったのだ。そしてこの先何があったとしても、ヒカリと玲子を2人きりにさせるつもりは絶対になかった。慧登の頭の中では、デストラップの脅威よりも、ヒカリと玲子の関係の方が重要だったのである。


 2人の男が互いに牽制し合いながら、美女に付いて中に入って行く。


 その後ろから、まるで始めからそこにいなかったかのように気配を消したままの美佳が静かに続いた。


 そして、入り口にひとり残ることになった幸代は、なぜかホッとしたような表情を浮かべると、門に静かに寄りかかるのだった。



 ――――――――――――――――



 歩くのに疲れた平岩は園内を走る巡回バスの停留所を見つけると、そこでバスを待つことにした。さすがに60過ぎの老体には、『ハローアニマルパーク』までの距離は遠すぎる。


 15分ほど待っていると、ゆっくりとしたスピードで巡回バスがやってきた。


「これが最終バスになりますが、よろしいですか?」


 平岩がバスに乗り込むと、運転手が親切に教えてくれた。


「ああ、構わないよ。この先にある動物園で孫が待っているんでね」


 ついいつものくせで、見栄をはって孫がいるかのようにウソをついてしまう平岩だった。


 座席に向かう平岩の背中に、運転手がまた親切に声をかけてくれた。


「あれ? 確かあの動物園には、もう動物はいないと思いますが……。それに最近、あの辺に野良──」


 懸念した風な運転手の声は、残念ながら歩き疲れていた平岩の耳には届くことはなかった。

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