六回目の夏
洋は珍しく花火大会に梨奈を誘った。洋が人混みに自ら進んだ回数はまだ片手で数えることができた。
「綺麗だぞ。梨奈」
「ありがと。洋くん」
そこからもカップルとなんら遜色ない会話を紡いだ。間が途切れることなく二人の会話は弾んだ。
人は花火を見ようと、大勢か花火を見るために場所取りを行なっていて、慌てふためいている梨奈が人混みに流され、繋いでいた左手のおかげで洋も気がつけば河川敷を外れていた。
「怪我なかったか?浴衣、汚れてないか?」
「大丈夫だよ。どこも汚れてない。綺麗なままだよ」
心配する洋に、自然に笑いかけた。
「それよりどうする?ここから戻っても場所無さそうだったけど…」
「梨奈が嫌じゃなければここでもいいし、いつもの場所でも構わない」
「もうじき花火、始まっちゃうだろうし、このあたりで見る他ないかな…私は洋くんが隣にいたらそれでいいし」
「汚れないとこ行こうか」
二人は並んで歩いた。
「しかし、洋くんが人混みに連れて行ってくれたり、上手く物事運べないなんて珍しいね」
梨奈の言葉に洋は黙り込む。
「別に責める気はないよ。私は今年も誘ってくれて、とっても嬉しかったし、たまにこうなっちゃうのも洋くんとならいいかなって思ってる」
「梨奈。少し真面目な長話をしよう」
洋は梨奈と目を合わせて、大きく息を吸った。
「先ずそうだな、俺はお前が好きだ…お前が俺に告白した時、あれはなんだと思った。全く仕様がわからないのにどうしろという話だったんだが、お前が今まで隣にいて、俺は楽しかった。その間にも、器用なお前は俺が望む大和撫子になって、俺の心には踏み込まず、自分の人間味に含みを持たせて、本当に昔と変わったよ。お前の親には悪いことをしたがな。それでも俺はお前によって不幸になったんだ。俺も人間だから、あの時までみたいに友達も頼兎しかなく、あとは一人でずっと本を読んでるような、側から見て可哀想な生活を続けていられればここまで高望みはしなかったさ。お前という存在の所為でずっと隣に置いておきたいなんて思ったし、向上心も持てた。だから俺もお前の親には謝るが、お前も俺の親に謝れ。まあ母さんがどんな反応をして笑い飛ばすかは目に見えてるんだが、それでも行ってくれよ」
「うん。わかった」
「梨奈、俺と付き合ってくれ」
「…ごめんね」
「そうか」
洋は声色を変えないよう努めた。花火が一筋夜空に浮かんだ。
夜の河川敷の話でした