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うちの剣士と聖女の恋愛スキルは絶望的です  作者: 久里
その②聖女のとある休日
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聖女「恋占い? 相性診断……!?」

 今日も今日とて、剣士様からの招集はなし。


 本日をもって、ついに七連休目に突入してしまいました。


 それにしても、前回、スライムを数十匹ほど討伐するだけのお仕事を終えてからもう一週間も経っているというのに、一向に依頼クエストが舞い込んでこないとは困ったものです。


 半年前、わたくしたちが、冒険者ギルドの指定した最高難易度ダンジョンを完全制覇してからというものの、ギルドに寄せられる依頼クエストの絶対数が明らかに減っているように思われます。恐らく、私たちがあの魔境の最奥に潜んでいた邪竜を討伐したことにより、それまで竜の加護を受けて凶暴化していた魔物群が一斉に弱体化してしまったことが原因でしょう。


 つまりは、世の中が平和になりすぎたということです。


 もちろん、平和であることは尊ばれるべきですし、何よりも素晴らしいことだと分かってはいるのですが、正直、魔物達(あなたがた)にはもう少し頑張っていただきたい。だって、依頼クエストがこないと、剣士様とお会いできな……こほん、聖女ヒーラーとしての腕がなまってしまいますもの。


 休日といってもただぐうたらしているというわけではなく、いつハードなお仕事が飛び込んできても万全の態勢で臨めるように魔術書を読みふけり、瞑想を欠かさないようにしてはいますが、自主鍛錬だけでは流石に限度というものがあります。ちなみに私は誰よりも仕事熱心というだけで、断じて、もう一週間も剣士様のお顔を見ていないなぁ、などと考えているわけではありません。

 

「ねえねえ! 最近、王都で話題を集めてる占い師のミーネさんって知ってる?」

「うん! この前お買い物をしていた時に、そのお店の脇を通ったけど、長蛇の列ができててすごかった~!! すっごい人気だよね」 


 書庫に向かおうと廊下の曲がり角を折れようとしたら、前方から、なにやらメイドたちのきゃぴきゃぴとした声が漏れ聞こえてきました。


 全く。占いごときにうつつを抜かすなど、思考がたるんでいる証拠ですわ。そもそも、未来とは自分の力で切り拓き、形作っていくもの。他人のでっちあげた根拠の欠片もない予想を信じるぐらいなら、魔術書の一冊でも読んでいた方がよっぽど有意義で――


「そうそう! なんといっても、ミーネさんの得意分野は恋占い! 特に、気になるお相手との相性診断の的中率が抜群なんだって!!」 


 ――!?


「それは……!! 行くしかないわね!?」

「今度の休日いこいこ! それで、気になる騎士様との相性占っちゃお!」

「やった! アドル様との相性、見てもらおうっと。わー、なんか緊張しちゃうなぁ。良い結果がでますように!」


 恋占い? 相性診断……!?


 ふっ。お二人とも、揃いも揃って、脳みそが桃色に染まりきっていますわね。お幸せなこと。


 私ほどの完璧な淑女ともなってしまうと、恋愛云々以前に、吊りあう素敵な殿方を探すことの方が大変なのです。まぁ、この私と並んでも一切見劣りのしない完全無欠の紳士はそもそもこの世に存在しませんので、多少の妥協は必至。そう割り切って考えると、剣士様は……まぁ、射程圏内に入っていなくもないといえますかね。もし、あのお方が、自分のお気持ちに正直になって私と付き合いたいとせがんでくるのであれば、仕方なくお付き合いすることもやぶさかではないでしょう。


「マノンお嬢様。メイドたちの会話がそんなに気になるのですか?」

「ル、ルチアっ!? いつから、そこにいたんですの!?」

「つい先程から。具体的には、マノンお嬢様が、壁に張り付いて彼女たちの会話を盗聴していたあたりからですが」


 いつ何時も冷静沈着な女騎士に冷めた瞳で見つめられて、喉がうっとすぼまったようになりました。この子の神出鬼没は今に始まったことではないけれど、とにかく心臓に悪いんですのよ。


「盗聴なんてしていませんわ。ただ、唐突に私が現れて、彼女たちを驚かせてしまっては申し訳ないと思ったので、すこし立ち止まっていただけです。全く、ルチアったら。そもそも、この私が、恋占いなどに興味があるわけがないでしょう?」

「なるほど。あるのですね」

「ちょっ!? あなたは、一体、何を聞いていたんですの!? さっき、興味なんてないと答えたばかりでしょう!」

「ええ。マノンお嬢様の焦り気味の発言は、すべて逆さまに受け取ればよいと心得ておりますので」

「いま、なにか仰いまして?」

「さて。空耳じゃないでしょうか」


 気のせいかしら。今、さらりと、とんでもないことを言われた気がするのですが。


「ところで、マノンお嬢様。本日も、招集はかからなかったご様子ですね。嘆かわしいことです」

「微塵もそう思っていないような顔で言われても複雑ですけれど……というか、何故、あなたがそのことを知っているんですの?」


 ルチアは全く感情の読めないビー玉のような瞳でじっと私を見つめながら、さらりと言い放ちました。


「ルドヴィーク様にお会いできなくて残念、とお嬢様のお顔に書いてあったものですから」


 ひゅん。


「マノンお嬢様。お言葉ですが、聖女が、咄嗟に回し蹴りを繰り出すのはいかがなものかと。相手が私でなかったら、瞬時に受け身をとれたかも分かりません」

「っっ~~! ルチアが突然ありえないことを言い出すからでしょう!?」

「それにしても、以前よりも、体術の腕をあげられたようで。お嬢様、この際、武闘家モンクに転職してみてはいかがでしょうか。今のお嬢様であれば、転職試験に合格するのも夢ではないかと」

「はああ!? あなたは、誇り高きルーセンハート家の長女にむかって何を言っているんですの!?」

「もちろん冗談ですよ。マノンお嬢様は、本当にからかい甲斐がありますね」

「……ルチアなんて、だいっきらいですわ!」

「はいはい。私は大好きですよ」


* 


 ルチアと別れて、辿り着いた書庫のドアを後ろ手に閉めた時、なんだかどっと疲れが襲ってきました。それもこれも、全部、あの能面女騎士のせい。あの子は真顔で笑えない冗談ばかり連発してくるから、性質が悪いんですのよ。


 さて。


 気を取り直して、今日という休日を、いかにして有意義に過ごすべきかでしたわね。


 何の気なしにここまで来てしまったけれど、昨日までの六日間で再読したかった魔術書は全て読み込んでしまったんですよね。王都まで足を運んでお買い物をするにしても、気になっていた武具屋のチェックは一通り終わってしまいましたし、ずっと欲しかったプライベート用のお洋服も購入済。いかんせん、休日が続きすぎているのです。 


「うーん……何をしようかしら?」


『そうそう! なんといっても、ミーネさんの得意分野は恋占い! 気になるお相手との相性診断の的中率がすごいんだって!!』 


 あっ……! 良いことを思いつきましたわ。


 暇つぶしがてら、ミーネだとかいう占い師の実力の程を測りにいくのです。


 剣士様が私に好意を抱いているのは火を見るよりも明らかなこと。つまり、占い結果を見るだけで、その占い師の実力は一目瞭然というわけです。


 ふふふ。そうと決まれば、早速、お出かけの準備をしなければ。


 王都で話題を集めているという怪しい恋の占い師が本物なのか否か、この私が直々に出向き確かめてあげますことよ!

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