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うちの剣士と聖女の恋愛スキルは絶望的です  作者: 久里
その⑥あらゆる意味でドキドキが止まらない
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【恋する少女の届かぬ懺悔*前編】

「はぁ」


 ため息を吐くと幸せが逃げるというけれど、こんなのため息をつかずにいられるわけがない。


 今日は午後の授業がお休みだったので、気分転換に学校の敷地を抜け出て、繁華街の方まで足を伸ばしてみた。でも、一向に気分が晴れる気配はない。むしろ、客を店に呼び込む威勢の良い声や、楽しそうな笑い声が絶えず飛び交っているのを耳にするたびに、どんどん心が沈んでいく。


「ルドの馬鹿」


 思わず口をついて出てしまった悪態は、街の喧騒にすぐにかき消された。


 折角、五年間も恋い焦がれ続けてきた彼と再会できたのに、その後、次の約束ができなかったどころか行方も連絡先すらもくらまして逃げられてしまっただなんて、こんなに酷い話があるだろうか。


 これがルドじゃなくてどうでもいい他の男だったら、一生、口をきかないレベルの重罪。

 

 でも……やっぱり、格好良かったな。


 思いきって抱きついた時、ルドの顔、真っ赤になってた。きっと、成長した私にドキドキしてくれたんだ。思い出しただけで、頬がゆるんでしまう。


「すごく嬉しかったのに……。どうして、逃げちゃうの?」


 やっぱり、久しぶりの再会で、早々に求婚したのがまずかったのかな? そうはいっても、どうしようもなかったんだもん。五年前から格好良かったけど、大人びてさらに格好良くなってたルドが悪いもん。


 たしかにちょっと焦りすぎてしまったかもしれないけど、あんな風に逃げることないじゃない。


「うー……次に見つけた時には、抱きつくどころじゃすませないからね」


 そうはいっても、その次は、いつくるんだろう。


 正直、不安でしかない。


 昨日のガールズトークではつい強がってしまったけれど、実際は、口で言っているほど自信があるわけじゃない。昨日は特に、いつも私の話だけまともに聞いてくれようとしないノノカとサラに、ルドはちゃんと実在の人物で、私はその人に全力で恋をしてるんだって分かってほしかったからムキになってしまった。流石に、あの有名な剣聖ルドヴィークさんのことだよ、と二人に明かしてしまうのは躊躇われて、英雄さんということにしているけれど。


「……でも、実際、かなり絶望的だよね」


 連絡先も分からないだなんて、どうやって会えばいいんだろう。


 この広い世界で、約束もなしに偶然再び彼と出くわす確率は、まさに奇跡に等しい。もしかして、次の再会は、また五年後? いや、五年後にもう一度会えたなら、むしろ、ラッキーな方だろう。


 しかも。

 その時には、ルドはもう……今、好きな人と、結婚している?


 頭の中が、真っ暗な絶望で埋め尽くされていく。


 鬱々としながらぼんやりと歩いていたら、いつの間にか、噴水広場に辿り着いていた。そのある一角がちょっとした人だかりになっているのが目に飛び込んできて、なぜだか、妙に胸が高鳴った。


 第六感のようなものに導かれるままに人波をかきわけるようにして、足を進める。


 皆が遠巻きに眺めている視線の先には――つい先程まで、私が会いたくて仕方なかったその人と、すごく綺麗な女の人が、頭を寄せ合ってベンチに腰掛けている姿があった。


 呼吸を止めて、見入ってしまった。

 彼は眠っていて、隣の可憐な美人さんは随分とかまってほしそうにしている。


 傍から見たら、仲の良い恋人同士そのものにしか見えなくて、足が震えてしまった。悔しくなってしまうぐらい、二人はお似合いだった。

 

 何よりも一番ショックだったのは、彼女に寄りかかって眠りながら浮かべていたルドの表情が、見たこともないほど幸せそうだったことだ。


『好きな人が、いるの?』

『ちがっっ! そういうわけじゃないけどっ』


 その安らかな寝顔を見ているだけで、言われなくても分かってしまった。

 あれが、ルドの好きな人なのだ。すごく綺麗で、可愛い人。


 彼の幸福で満ち足りているような顔に心が真っ黒に塗りつぶされて、激しく嫉妬した。


 あっという間に二人以外のことが全く視界に入らなくなって、激情に背中を押されるようにして、足を踏み出していた。


 あの二人が既に想いを通わせているのなら、私のしようとしていることは最低最悪だ。そうでなくても、ルドがあの人を好きだと思っているのならば、こんなの私のエゴでしかないのかもしれない。


 でも。

 今を逃したら、もう二度と彼と会えなくなってしまうかもしれない。


 何にもしないで指をくわえながら純粋に二人の幸せを願えるほど、私は大人じゃなかった。

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