5.
「依頼は申請通り、完遂させておいたよ紅麻さん。後で確認するといい」
奏瑪に呼ばれ、前回同様書斎へと案内された紅麻は、カルト教団「救済機関リ・アクティヴィティ」が潰されたと言う話を聞かされる。
「とても規模の大きい組織の筈なのですが、それをこのような短時間に――」
「どんな強固な壁も小さな穴から崩れるように、隙さえ見つければ簡単なものだよ」
何のことは無い、と言った様子で語る奏瑪。そんな彼の首回りでは、腕を巻き、頭をこすりつけている狐の少女が。だが、狐のそんな様子は、彼には完全に蚊帳の外であるようだった。
「それにしても、彼らは“アレ”をどこにやったんだろうね」
「“アレ”、ですか――?」
「ああ、一応教祖とかかわったことがあって、一つくれてやったモノがあったんだけどね。僕の計算通りなら、とっくに彼らの理念は達成されていたハズなんだよ。全く、この僕が直々にAE化合体を生成、分離できる小道具をくれてやったと言うのにね」
「は、はぁ――?」
「まあ、今の君には関係の無い話だ。君に対しての不満点は一切ないよ」
奏瑪は、椅子のひじ掛けに頬杖を突く。まるで、孤独な王者のように。
「イル。紅麻さんを、お見送りしてあげてくれ」
「かしこまりマシタ。では、紅麻様こちらヘ。少しの間、じっとしていてクダサイ」
イルの言葉に、紅麻は立ち上がる。示された場所は出口ではなく、部屋の中央だった。
「ああ、記憶操作はいいよ」
「えっ、よろしいのデスカ?」
しかし、アンドロイドの行動を奏瑪は制す。
「ああ。おそらく必要はないだろう」
「記憶操作? 何のお話ですか?」
「君にもかかわりのない事さ。それでは紅麻氏。また会う時の無いことを」
紅麻はその言葉に疑問を覚えつつも、メイドに先導され、書斎を後にした。
短い廊下を過ぎ。二、三の部屋の扉を通りすぎ。対した時間も経過することなく、来た時と同じく玄関にたどり着く。
「それでは紅麻様、ごきげんヨウ」
メイドにそう挨拶をかけられ、霧仁宅を紅麻は後にする。灰色の空、降りしきる雨。今日もまた天気が悪い。そんな悪天候の真っただ中、紅麻は口を開く。
「指定されたシークエンスの完了を確認。“紅麻 林雄”を停止します」
紅麻がそう呟くと、灰色トレンチコートのその姿が、徐々に薄れてゆく。
それはまるで、空気の中に溶けてゆく飴のよう。白いで薄れゆき、空間の中へと混ざり消えてゆく。
程なくして、“紅麻 林雄”は消滅した。誰にも、その現象を知覚されることなく。