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レッドライン・クロスオーバー  作者: /黒
《第一話》『UとOが交わる世界』
3/33

2.

「失礼したね。うちのアホ二人が」

「「もうしわけありませんでした」」


 深々と、紅麻の前で頭を下げるメイドと狐少女。ちなみに、自発的に言い争いをやめたわけではなく、霧仁 秦瑪のため息と呼びかけですぐさま青い顔になり、このようになった次第である。


「ひとまず、そこに用意してある椅子に座るといいよ」


 木製の丸テーブル。その上には、メイドの用意した紅茶とお茶菓子が置かれていた。椅子に座れば、奏瑪の姿が正面に来る。少年は、同じテーブルに付く様子はないようだ。


 首に巻かれた赤が、まるでその場に縫い止めているかのようでもある。


「薄汚れたトレンチコート。白髪交じりながらそれなりに整えられた髪。まるでドラマから飛び出して来たかのような刑事だね」

「本物として、イメージを崩さずに済んだことに安堵しますよ」

「そもそも最初から、固定の印象など持ってはいないよ。それで? わざわざこの僕を探し当て、訪ねてきたからには――相応の理由があるのだろう?」


 紅麻は彼に連絡を取ることにかなり労を要した。見つからなければ目的を果たせないために、必死になって探したわけだが。自身の持つ手がかりを辿り、足を使い、勘を頼ることでようやくここまでたどり着くことが出来た。


 この、「如何なる難題をも解決する悪魔」の力を借りるために。


「勿論。もはや噂に聞くあなたの力を頼らざるを得ないと踏んだからこそ、こうして苦労の末、訪ねて来た次第であります」

「念入りに足跡を消したつもりだったのだけどね。本来なら僕自身の安全確保のために消えてもらうところだが。折角訪ねてくれたんだ、安易にそうしてしまうのも申し訳ない」


 奏瑪は、首元の赤いリボンを指でなぞり、背もたれに背中を預けた。


「聞こうか。その案件とは?」

「カルト教団、『救済機関リ・アクティヴィティ』の壊滅にございます」

 紅麻がそう告げると、少年は「ほう」という様子で口をすぼめた。


 救済機関リ・アクティヴィティ。この世界が、二種類のモノを根源としていると言う真理、「二源世界論」が世の中で発表されてより設立された宗教組織である。


 この世界の全て――空間から時間、物質、概念、事象と言った、あらゆる認識可能なモノは、「U原体」、または「O原体」と名称づけられたモノによって構成されている。


 例えば、同じ物質の一片でも、それが単一で出来ているとは限らない。「O原体」か。はたまた「U原体」か。あるいは、双方が絡み合って出来ているのか。その存在を、二種類のモノが割合も不定で形作っている。


 そしてそれは、生命体の能力にも大きくかかわっている。その内「U原体」が身体の物質を構成する割合が多いほど、「U技術」への適性、および本来の物理法則を越えそれを操る力を持つ傾向がある。

 その技術は過去の時代において、いわゆる「魔法」や「呪術」などと呼ばれた技術、あるいは特異な身体能力で、全てこの世界の自然法則に干渉する手段である。


 また、「U原体」を身体の構成に多く含みながら文明を持った種の中には、エルフやドワーフ等の「亜人種」も存在する。その中にはU技術を扱える者だったり、あるいは生体構造を越えた圧倒的な身体能力を持つなど、そのどれもが超常的何かを有しているのだ。


 二つの要素が、世界を形創る。「二源世界論」は、発表、証明より100年弱程経つが、未だ研究が続けられている分野である。


 そしてリ・アクティヴィティは、そう言った「U原体」の割合の高い生命体「U生体」、およびそれが割合を多く占めている物質を否定する教団である。


「U原体」そのモノを「悪魔の力」とし、それが存在しないクリーンな世界へと浄化する、己達がそんな世界へと移り住むと言う目的を掲げているのだ。


 その組織規模はかなり大きく、国内限定ではあるが、信者の数は2万人を超える。

 さらに彼らは、活動までもが暴力的になりつつあった。テロ同然の爆破事件を既に数件起こしており、U生体が勤務するビルの爆破事件、百人余りの犠牲者が出た事件は、世間の記憶に新しい。

 しかも、表向きはU生体、亜人種との共存を謳っている政治家や資産家でさえ、実は裏で資金提供を行っている噂までもがある。


 今や救済機関リ・アクティヴィティは。強大なテロリスト集団と化し始めていた。


「僕なんかに頼らずとも、警察は動いているのだろう? 警察庁の紅麻サン?」

「頼らざるを得ない、と言ったでしょう。動いているだけで、解決に至っていないのは世間の様子を見ていただいた通り。そして、そのような事態となっているのは、警察の上層部にも、一部教団員がいるためと言われています」

「検挙や摘発も、うまく妨害されている、というわけだ。そして、表ではそれなりに権限がある人物が教団に所属していることもあって、なかなか立ち行かない、と。やれやれ、汚職の温床っぷりは、それこそまるでドラマのようだ」


 体重は後ろにかけたまま、ひじ掛けに肘を置いて頬杖を突く奏瑪。紅麻を見つめる瞳は、極北の地の風よりも冷たい。


「分かった。君のその依頼、聞き届けてあげよう」


 そうして奏瑪は。獲物を見つけた鮫のごとく、ニタリと笑った。紅麻は、そんな彼の様子に知恵をつけた狼と対峙した気分を覚えた。


「彼には、預けているモノもある事だしね」


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