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レッドライン・クロスオーバー  作者: /黒
《第五話》『世界終幕、呪いの唄』
28/33

4.

「――イル。何をしている? 僕はそんな命令などしていない」

「もう――もう、いいデショウ!? 世界を滅ぼしたとしても、誰も……きっと奏瑪も満たされはしマセン!」

「当たり前だろう。その頃には、僕もまた消滅している。本当はもう少し早くから退場しているつもりだったが、もう少し、この世界の脚本とやらに参加してみたくなってね」

「――刑事サン。正直ワタシでも、この展開は想定外デス。しかし、いずれにせよ今のワタシには、奏瑪を説得できる余裕を持てマセン」


 イルは、炎の向こうからじとりと睨む狐のU生体を――愛月を視界に映す。先ほどの力の一端から、小田嶋はイルがあの少年を説得するために自分達を連れてきたのだと理解した。


「あの少女は、古い土着神。神デス。その大きな力は、並大抵の力では容易く消し飛ばされてしまいマス。即ち、ワタシしか今は対応できマセン」


 アレと張り合えるのは、恐らくこのアンドロイドだけなのだ。


「どんな手段でも構いマセン。非力なワタシの代わりに奏瑪を――世界の崩壊を、止めてあげてくだサイ」


 イルは両腕のスキンを剥して、臨戦態勢を取る。


「――愛月。あのポンコツも処分しろ」

「ん」


 ゆらり、と。狐の少女が残像を残す。

 今までのゆったりとしていた動作からは、想像もつかない程の速度。気味の悪い加速と共に愛月はイルに迫る。

 対するイル。攻撃を予測し、腕で身を庇い防御姿勢を取ろうとした。


《機能不全:右腕第二モーター》


 しかし、右腕は彼女の命じた通りに動かない。


 結果、愛月の横薙ぎ一回転、三本の尻尾で腕、腹、足を薙ぎ払う攻撃をまともに受けることとなった。


《sy撃ヲ感知/ダ‘ージ:中》


 イルは数十mをアスファルトの上で数度回転しながらバウンド。しかし、地面に膝をついて体勢を整え、勢いを殺す。

 イルは、機能不全の起こった右肘を一度殴りつける。先ほどのテーザーのダメージが、身体の一部に残っているのだ。


「奏瑪のじゃまをするなら、みんな、てき」

「くっ――」


 愛月は尻尾よりU原体――妖術で作った闇色の腕を蛇のように伸ばす。そしてそれらは、一斉に小田嶋へと襲い掛かり――、


《ハッキング完了/アクセル:ON》


 愛月に真横から、大型のバンが突っ込んだ。それは彼女を前面に張り付けたまま、付近の建物の壁に激突する。


「小田嶋サン――ッ!」

「――ああ」


 小田嶋はエプティを――多量の出血によって冷たくなってしまった女性刑事を、そっと、地面の上に横たえた。


「いい加減、目を覚ませよ霧仁 奏瑪――ッ」

「ちっ――愛月、何を手間取っている?」



 自動操縦バンが爆散。しかしそこから、大して傷を負った様子もない愛月がミサイルのように飛び出す。目指す先は小田嶋。奏瑪の怒りを体現するかのように、飛び掛かっていく。


「愛月サン! 命令を聞くことで、本当に奏瑪は満たされると思っているのデスカ!?」


 自らその間に割って入るイル。狐少女の横っ面を、跳躍からの回し蹴りによって蹴り飛ばしながら問いかける。

 10m以上吹き飛んだ愛月だが、尻尾からU原体で生成した腕を伸ばして地面を掴み、その勢いを殺す。そして体勢を整えると、周囲に炎の球を見渡す限り無数に形成し、自身の猛突に合わせて発射する。


「わたしには、それだけしかない」

「――っ、」


《武装選択右:射程300プラズマビームガン》


 愛月が周囲に纏っていた火球のつぶてが、連続して放たれる。イルは右腕をAEビームガン――ではなくプラズマビームガンへとモードチェンジし、撃ち落としていく。


《武装選択左:プラズマビームカッター》


 左手は、刃渡り80cmのプラズマビームカッターへと変形。目の前に迫った愛月に対して、横薙ぎに振るわれる。


「奏瑪はわたしのすべて。わたしは奏瑪のいちぶもおなじ。だから、わたしはいわれたとおりにするの」


 しかしビームカッターは結界によって阻まれる。その身体の寸前で作られたU原体の壁は、容易く溶断できるほど脆くはない。それこそ、AEビームカッター程ででもなければ。


「アナタは、アナタでしょうガァッ!」

《攻撃継続/対象:愛月》


 右手のプラズマガンの出力を最大に。重装甲の戦車を破壊する火力のそれを、至近からイルは結界へとぶつけようと試みる。


《機能不全:回路の断裂による命令の伝達障害》

「っ、ク、」


 しかし、銃口からスパークが走るだけで何も起こらない。

 だが愛月はそれに構うことなく、そんな右手を左腕で払いのけてしまう。それだけでなく、イルの左手も、右腕で打ち払ってしまった。


 万歳のポーズをさせられたアンドロイドの目の前で、U生体はその寸前に迫る。


「――ッ!」

「ちがう。わたしは奏瑪。奏瑪はわたし。てあしが、もちぬしのおもいどおりにうごかない。そんなことなんて、ない」


 頭突き。接近して、愛月はイルの超硬質的な頭へと、その小さなおでこをかちあわせた。


《衝g^“lp@‘知 ダメー-#:*^中 稼働状況:異状無し》


 斜め上部から衝撃を受けたイルは、またもやアスファルト上でバウンドしながら吹き飛ばされる。その打撃力は強烈で、一瞬イルの視覚や回路にノイズが走った。


「そんなモノ、ただの思考放棄でしかないではないデスカッ!」


「霧仁 奏瑪、てめぇはあいつらを見て何とも思わねぇのかよ。あんたのためを両方とも思っているのに、対立しあっているあいつらを」


 体勢を立て直したイルが、周囲の乗用車を愛月へと突っ込ませる様子を横目に、小田嶋は一歩前へと踏み出した。


「思わない。何も。そんな心も、当に摩耗し尽くした。そんなに気に入らないなら、この場で僕を殺せばいい。どうせ、気まぐれでこの状況を眺めていただけだ」

「殺しゃしねぇ。代わりに、しこたまぶん殴る。殴ってでも、分からせてやる。そんでもって、この唐突に始まった世界の終わりを止めさせる」


 歩き出した小田嶋に気がついた愛月が、近づけさせまいと火球を放つ。しかしイルが、それを横からプラズマ弾で撃ち落とす。


「英雄にでも目覚めたかい? だが、それを知覚する者は誰もいない。英雄も、英雄にならないままに全てが終わる」

「んなモンに興味はねえ。俺は警官だ。警官ってのはな、ただ犯罪者捕まえるだけが能じゃねぇんだよ」


 歩き寄る小田嶋に、奏瑪は何も対応しない。ただただ、冷たい視線を投げかけるだけ。


 そんな視線が交錯する中。俊敏な動作で迫った愛月は、三本の触手とその爪で獣人刑事を引き裂こうと襲い掛かる。


「犯罪者ってのは、必ずしも悪党ってわけじゃねぇ。時にはいろんなモンかかえて、そんな道に走らざるを得なくなって、そして罪を犯すヤツもいる。警官がそいつらを捕まえるのは、そいつがただ悪さしたからってだけじゃねぇ」


 愛月へと、イルの投げた車のフレームが激突する。

 だがそれは狐の少女に当たった瞬間、火花を上げて弾け消滅する。


 イルはそれに顔をしかめつつも、追撃をかけにビームカッターを構えつつ接近する。


「そいつを、せめて少しでもいいから、人の世に戻してやる。人として外れざるを得なくなったそいつを、元の輪の中に戻してやる。止めてやること。それが、警官の役目ってヤツだ」


 小田嶋は、奏瑪の前で立ち止まった。身長差は、30cm近い。


「何を言うかと思えば、馬鹿馬鹿しい。僕は最初から、そんな輪からつま弾かれている。ならば、警官だと言う君には何もすることなんてできやしない」

「――いや、出来る。俺の力なんざ大したもんじゃねぇが、切っ掛けくらいは、与えてやることは……出来るッ!」

「――っ、」


 小田嶋は――大きな左手を伸ばす。

 奏瑪は、伸びてくる手に本能的に身体をこわばらせた。


「――見ろ」


 だが、痛みはない。ただ、頭を掴まれただけ。


「っ、――?」


 何を、とは問わなかった。頭を掴まれ、押し出された奏瑪は、見開いた際にそれを目にしたからだ。


 桃色の和服が泥にまみれ、無表情のまま苛立った気配を帯びるU生体、愛月。

 ところどころスキンは破れ、右腕に至ってはもげ落ちたアンドロイド、イル。


 奏瑪が目を閉じるでなく開いたのは、今更他者には屈さないという意志の表れ。そのつもりだった。だが、開かれた眼は全く別のものを映し出す。


「本当に、何も思わないって、言うのか?」

「――っ、…………」


 今までならば、互いにこのような争いはしないであろう二人。その筈なのに、今は戦いをやめる様子は無かった。

 それはきっと、どちらかが動かなくなるまで続くかもしれない。そう思わせる差し合い。


 優勢なのは愛月で、それはイルがAE化合体武装を使わず、加えてダメージを負っているため。だがその変わりに、狐の少女の行動を抑制する動きで翻弄し続ける。


「――思わない。思わない。思うわけが、ない」

「あいつらは、両方ともお前が大好きなんだろうよ」


 小田嶋は、諫めるでなく、説得でもなく。ただただ、思ったことを馬鹿正直に、口に出す。


「U生体の嬢ちゃん――いや、古い土着神とか言ったか? あいつは無表情で、苦痛も何もかも顔には一切出す様子がねぇ」

「――彼女は封印の間に多くを欠落した。当たり前だ」

「アンドロイドのメイドさんは――一見、感情豊かに見える。その辺の人間とは比べ物にならんくらい。機械にもかかわらず」

「――彼女のCPUは人間の脳と遜色ない。当たり前だ」

「けど、どっちもお前のことを大好きだって想いが、俺にさえ伝わってくるんだ。それくらいの想いがあって。けどよ、滅茶苦茶お前のことを大切に思ってるのに、だからこそ、あれだけ傷つけあうことになっちまってる」

「……………」

「もう一度聞くぞ。本当に、何も思わないのか?」


 小田嶋の声は穏やかだ。相棒を殺され、しかし、その相手に語り掛ける。

 何故なら、殺したのはこの少年ではないからだ。言うなれば、世の中の歪みが、綻びが。エプティと言う一人の刑事の命を奪ったからだ。


「――彼女らはこの僕の手駒だ。道具だ。僕のために動くことは当然なんだよ。どうしてそれに、今更何かを覚える必要がある?」

「てめぇ、それでも――ッ」

「そして、もはや手遅れだ」


 奏瑪は、全てを諦めたように。そう、呟く。


「人は光の安心よりも、闇の不安さに心を蝕まれやすい。その結果が今であり、そして――全てを、手遅れにしたんだ」

「――何が言いたい?」


 奏瑪は、遠くで膨張を続けるAE化合体へと視線をやった。


「アレを止める術は――無いってことだ」


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