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レッドライン・クロスオーバー  作者: /黒
《第四話》『巡り巡る巡り模様』
23/33

6.

「まだ顔を合わせたことも無いヤツの日記を見るのは、ちょいとばかし妙な気分だな」


 記録媒体に格納されていたのは、一人の少年の苦悩だった。幼馴染を蘇らせるために奔走し、しかし失敗してしまう。そんな悲劇。


「アイテール博士の話と、だいたい合致するな。ロアが死んだから、霧仁 奏瑪がこのU思考媒体とやらを作り出し、しかし失敗した」

「ここで終わっていますが。――日記は。その後、博士より研究員としての話を持ち掛けられたのでしょう」


 日記を読んでみたはいいものの、明確な手がかりを得られず小田嶋もエプティも黙りこくってしまった。


 居場所と確信しつつやってきても本人はおらず、代わりに埋まっていたモノは『ロア』と呼ばれる少女と思わしき白骨と、日記だけ。

 他に何か見当たる様子は無い。小田嶋も特殊な臭いを嗅ぎ取れず、エプティもこの白骨遺体以外のU原体を感じ取ることが出来ずにいた。


 ここには、何も無かった。少なくとも、期待していた人物が出入りしている様子は全くない。床にうっすら積もった埃が、それを証明している。カメラ映像から確認できる場所は、別の場所だったのかかと、小田嶋は眉間に皺を寄せた。


 そんな、次にどうすべきかを考えている。そんな時だった。


「――っ!? 先輩ッ!」

「な、」


 何だ。そう言いかけたところで、エプティ――ではなく、掘った穴から飛び出した小田嶋が、彼女へと飛び掛かる。


 エプティの立っていた場所を、銃弾が掠めた。


「先輩ッ!」

「っ、ち――、」


 エプティを押し倒して伏せていた小田嶋は、すぐさま彼女を抱き立ってその場を離れる。

 立て続けに鳴り響く銃声3発。その狙いは正確で、しかし女性刑事を抱えた獣人刑事は走り抜け、一発も貰うことなく建物内の物陰に隠れることに成功した。


「先輩、異様なU原体反応と、謎の性質特性が――っ」

「何モンだッ!」


《目標への予測距離:7・2m/攻撃続行》


 相手は応えない。代わりに、床を貫きかねない程力強い足音。忍ぶ様子も無く、まっすぐに物陰へと向かってくる。


「こんにゃろォッ!」


 足音を頼りに、小田嶋は物陰から飛び出すのと同時に右フックをかけた。

 その腕は、彼よりも小柄な相手に受け止められた。


 片手で小田嶋の拳を止めたのは、長い銀髪のメイドだった。


「お前は――ッ」


《敵性勢力:2/攻撃続行中》


 そのメイドは、リ・アクティヴィティ事件の映像で、霧仁 奏瑪と共にいたメイドだった。彼女は青い瞳でじっと獣人刑事を見つめている。


「霧仁 奏瑪に言われてやってきたのか? 平和的な解決をしに来たわけじゃなさそうだが」

「…………」


 そのメイドは、返事の代わりに受け止めた小田嶋の拳を力任せに握る。その華奢な身体から繰り出される力はすさまじく、ぐにゃりと小田嶋の右腕の骨格が歪んだ。


「っ、この――ッ!」


 小田嶋は加減をやめ、メイドに捕まれたまま相手を持ち上げた。

 そのまま振り上げ、床にたたきつける。


《衝撃確認/ダメージ:無》


「っ!」


 腐った床の木片が弾け、宙に舞う。しかしメイドは手を離さない。それどころか、もう一方の手にある拳銃を、小田嶋へと向けている。


「先輩ッ!」


 銃口が火を噴く直前、エプティが自らの力を物陰から行使。念動力で、銃を持つ腕の動きを妨害する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


 小田嶋は掴まれたまま、壁に、床に、床下の土に、土台にと言った様子でメイドを叩きつける。獣人だから、と言うだけではない力でぶつけられた器物は、次々と周囲を残骸の山へと変えて行った。


《分析:右腕・金属性物質/機械式の義手であると推測》


 小田嶋が何度目か壁にぶつけたところで、ようやくメイドは引きはがされた。そのままクレーン車にでも放り投げられたかのように、大きな物音を立てながら家の中を転がり、ぶつかったテーブルを粉砕する。


「大丈夫ですか!?」

「義手だから大して痛くねぇけど、中指と薬指が動かねぇ」


 自分の腕ではないことに少し負快感を覚えていた右手だが、小田嶋は今回ばかりは生身でないことを感謝した。そうでなければ激痛で動けなくなっていてもおかしくはない。


「だが、逆に丁度いいぜ。こいつに、霧仁 奏瑪の居場所を吐いてもらう」

「――アナタ方こそ、事の真相を述べていただきマス。ここにいると言う事は、嗅ぎまわっているのはアナタ方デショウ?」


 起き上がったメイドは、額の敗れた皮膚から金属光沢を覗かせ、冷徹な表情でそう言った。


「その割には、最初から殺す気満々だったじゃねぇか――ッ!」

「急所は外していマシタ。死にはしませんガ?」


 メイドはテーブルの足をエプティへと投げつける。対するエプティはそれを念動力でそのまま返すが、そこにメイドの姿はない。


「大人しく吐いていただければ、痛い目を見ずとも済みマスヨ?」


 俊足で小田嶋へと迫ったメイドは、その握った拳をまっすぐたたきつける。

 対する小田嶋は、それを右腕で防御。しかし、細身に見合わぬ強烈なパワーが義手を歪ませ、衝撃波そのまま貫き獣人刑事の大柄な身体を吹き飛ばした。


「ぐあっ!」


 後方にあった台所のシンク部分へと、その背中は叩きつけられる。すぐに動きを再開できない小田嶋。しかしメイドはそれを見届けた後、拳銃を彼へではなく、エプティへ数発発砲する。


「っ、」


 エプティは弾丸を念動力で防御。その間に、メイドは女性刑事へと無駄無く素早い動きで接近する。


《アルケミーM103:残弾数0》《分析:U技術・念動力タイプ/能力レベル:6/反応速度:0.3》


「かはっ!」


 メイドは拳銃を捨て、もう一方の手でエプティの首根っこを捕えた。


「っ、おらァッ!!」

「――っ!」


 いち早く体勢を立て直した小田嶋が、ぶつかった際、脇に飛び出して来た排水管を引きちぎってイルへと投擲。体重自体は人間と変わらないアンドロイドは、直撃を受けてコンマ秒単位姿勢を崩してしまう。


《対象の運動能力を再計算――……完了》


 イルのマイクロプロセッサが、瞬間的に相手の戦闘能力を再分析する。そして一拍も無い一瞬の電流の走りから、即座に対応方法を導き出した。


「うおっ!?」


 メイドは首を掴んだまま小田嶋へとエプティを投げる。その間に頸椎を握り潰すことはできたが、生かしておかねば情報を引き出せない。


 小田嶋はエプティの背中を受け止める。だがその間に、メイドは速足で接近。女性刑事の身体ごと、獣人刑事の身体を蹴り飛ばそうと試みた。


「――っ、っ、」


 しかし、それは叶うことなく、エプティの念動力によってメイドは後方へと吹き飛ばされる。アンドロイドの頭の中で、再計算が行われる。先ほどよりも幾分早い反応で対応されたためだ。


 その勢いのまま壁を貫通し、一回転してうつ伏せに倒れるメイド。だが、何も無かったかのごとく、彼女は平気な顔をしたまま立ち上がった。


「この――ッ!」


 小田嶋は即座に拳銃を抜き、メイドへと数発発砲。しかし、金属同士がかち合うことによる火花がガツガツ起きるだけで、怯みすらせずアンドロイドは歩き迫ってくる。


「おいおい、こいつ本当にライフサポートアンドロイドかよ!?」

「ですが、終わり、です」


 しかし、拳銃を使いきったアンドロイドに対し、距離を取れた意味は大きかった。接近をする間に、エプティは念動力でメイドの動きを固めることに成功する。


「う、くっ、く、ぐぅ――ッ」


 エプティは歯を食いしばり、メイドの関節のモーターのパワーに拮抗する。操れるU原体の量が多い程、念動力は強くなり、そしてエプティは高等レベルの力を持つ。

 だが、それであっても動きを止めておく程度が限界だった。この型のアンドロイドどころか、最新のウォリアーアンドロイドをもメイドのパワーは上回っている。


「――よし、そのまま、そのまま押さえていろ、エプティ」


 このままずっと拮抗させることは難しい。小田嶋はそう判断し、アンドロイドをどうにかして停止させようと、エプティをその場に立たせて自分は隣接する――、


 その時、どこからともなく飛んできた何かが、カツンとイルの背中に突き刺さった。


「エプティッ!」

「な――ッ!?」


 小田嶋は直感的に取って返し、エプティを庇った。その直後、建物の中で強い光が弾ける。


《高@電流感知;レベr9》《警告^本$“耐電/:能 凌駕する電流‘$知》《機¥障害:極大》


 小田嶋が振り返ると、ライフサポートアンドロイドの全身にスパークが走っていた。それは先ほどどこからか発射されたフック付きのワイヤーから流されているのだと理解する。


 感電によって緩慢な動作となりながら、メイドはその方向を振り返った。


 そこには、この場の誰も顔を知らない男が一人立っていた。その腕には、後方に長い線の繋がったテーザーが抱えられている。


「指定されたシークエンスの完了を確認。『ヴァン・クレンウィンケル』を停止します」


 男は無表情にそう述べると、空気へと溶け行くかのようにその姿は消えていった。


「な、何だったんだ、あいつ――」


 男が消え、テーザーが地面に落ちる。それと同時に、流れていた電流も止んだ。

 ――閃光の後にそこに残されたのは、全身のスキンが酷く焼けただれたまま立ち続けるメイドだった。


「…………」


 何が起こったのかわからない。が、分からないながらも、刑事二人はアンドロイドが再び動き出す可能性を鑑み、警戒を続ける。

 世間に存在するアンドロイドをはるかに凌駕する性能のメイド型ロボット。その性能は、確実に二人の想像の上を行っている。


 ――が、その予想に反し。アンドロイドはゆっくりと後方へ倒れ込んだ。


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