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レッドライン・クロスオーバー  作者: /黒
《第四話》『巡り巡る巡り模様』
18/33

1.

 喫茶店。小田嶋とエプティ、二人の刑事は、再びロアに呼び出されていた。おそらく、以前の「協力に応じるか否か」の答えを聞きに来るつもりなのは想像に難くない。

 連絡手段で聞けば済むことなのにわざわざ会合を望んでいるということは、何らかのモノの受け渡しか、あるいは場所の案内が行動に含まれるだろうと、エプティは予測する。


 相変わらずシックな雰囲気に落ち着かない小田嶋。約束の時間まであと3分程あるが、あの全身真っ白な少女は姿を現さない。


「しないんですか?」

「なんか、あんまり注文したいって気が起こらねぇ。お前こそ注文しないのか?」

「右に同じです」


 死んだ筈、存在しない筈の少女。それとかつて会合を組み、そして今もまた会うことになっているというこの状況。

 あまりにも、気味が悪かった。どうせ誰かが成りすましているのだろうとは思っても、二人は感じている気味の悪さをごまかし切ることはできない。


 しかしそれでもなお呼び出しに応じたのは、霧仁 奏瑪に関する情報があまりにも足りないからだった。

 彼女が霧仁 奏瑪の死んだ幼馴染の名――しかも仇名と言う個人しか知り得ない事項を名乗っている以上、何らかの情報を隠し持っている可能性が高い。そして協力に応じた場合、それを得られる可能性も出てくる。

 となれば。嫌でも顔を合わせる以外、選択肢はないのである。


「くすくす。小田嶋さん。エプティさん。ご機嫌はいかがでしょうか?」


 カランカランと、入口のドアに備え付けられたベルが鳴る。そうして入ってきたのは、二人の刑事を呼びだした件の少女だ。


「来やがったか」


 以前と全く同じ笑顔を顔に浮かべ、歩いてくるロア。足取りも全く同じで、歩数もひょっとしたら同じかもしれないと小田嶋は思う。


「店員さん、ブレンドを一つ」


 おしぼりと水を置きに来た店員にロアはそう告げて、刑事二人の対面に座る。


「くすくす。相変わらず小田嶋さんは、妙に固くなっておられますわね。いいんですよ、リラックスしていただいても」

「用件は何だ?」

「あら、最初は世間話から入ろうかと思いましたのに」

「悪いが、こっちも暇じゃないんでな」

「くすくす。それは残念です。では、早速本題から」


 ロアは机の上で、両手を組み合わせる。


「まずは、わたくしに協力していただけるか。その返答を、お聞かせ願えますか?」


 二人の予想の通り。ロアは以前の協力要請に対する可否を、やはり問いかけてきた。


「OKだ、協力しよう」


 だから小田嶋は、あらかじめ用意していた答えを口にする。


 先日起こった――小田嶋とエプティが訪ねたその直後に起こった、アイテール研究所の火災事件。原因は、所内の警備ロボットの暴走、および機器の誤作動、と言うモノだ。

 そう言った理由であるから、事件そのものは事故として扱われた。人の思惑による作為的な事柄でなく、何らかの理由で機械の故障が連鎖的に発生した。そう、検察の結果も出ている。


 しかし、事件は小田嶋達が去った直後に起こっている、これを偶然と片づけるには、今の状況からは難しい。直接話したアイテール博士が命を落としている、となればなおさらだ。


 そこから、一つの仮説をエプティが見出した。何者かが『ロア』と名乗る少女の存在に気が付き、探しているのかもしれない、と。そして、その何者かはおそらく自分達の追っている相手であるかもしれない、と。


 つまり霧仁 奏瑪が自分達と同じ推理を行い、そしてアイテール博士へと行きつき、何らかのやり取りの後に殺されたと、彼女は考えたのである。


 だが、それはあまりにも無茶苦茶な推理だと小田嶋は思った。厳重な警備を内外ともに敷く研究所を陥落させるなど、個人の力では到底不可能だからである。


 だが、そこで件の教団アジト爆破事件のことを思い出した。


 霧仁 奏瑪には、常識が通用しない。「如何なる難題をも解決する悪魔」が、どのような障壁であろうと突破しても、何らおかしくはない、と言う事を。


「くすくす。それは幸いですわ」


 と、ロアは笑う。そうしているうちに、彼女の注文したコーヒーが運ばれてくる。


「で、俺達は何をすりゃいい?」

「そう難しい顔をされなくともよろしいですわ。あなた方は、今まで通りお巡りさんのお仕事をしていてくださればいいのですから」

「星の逮捕か?」

「短絡過ぎです先輩。自分が警察官なのに」

「くすくす。息ぴったりですわね。ですが、小田嶋さんの言った通りですよ」

「捜査、ですか?」

「ええ。元々、わたくしはもう一度彼に会いたいがために協力をお願いしているのです。であるならば、わたくしもまた、捜査に協力をしなければ彼に近づくことは叶いません」


 そう言ってロアは、またもや、どこからともなく記録媒体を取り出した。


「そこには、とある情報が入っています。しかし、わたくしでは少々扱いの難しいもので。ですが、警官であるお二人ならばきっと使いこなしていただけるでしょう」

「扱いの難しい――?」

「なるべく、早めにお開けになってくださいね?」

「――何か急いでるのか?」

「生ものですので」

「お造りのパックかよ」


 ロアはくすくすと、小田嶋の返答に笑う。その仕草は、相変わらずとても上品で――かつ、薄気味悪かった。


「いずれにせよ、できればすぐに中の情報を見ていただき、行動してもらいたいのは確かですわ。彼に会うその時が、もう待ち切れなくて待ち切れなくて」


 そう語るロアの顔は、まるで想い人に焦がれる少女。頬を紅潮させ、愛の歌を紡ぐように、瞳はまさに夢を見ている。


「何が入っているのですか?」

「うん? 何ですか?」

「“記録媒体には”、何が入っているのですか?」


 エプティは不審な目で、ロアの持つ記録媒体を見つめている。


「んふふっ。まともに調べようと考えれば、奏瑪の情報の攪乱により、痕跡を探すのが困難である筈のデータですよ」

「勿体ぶらなくてもいいだろ。それとも、それに意味があんのか?」

「あら、つれないですわね。では、中身をお教えしましょう」


 そうわざとらしくしょげて見せたロアは、小田嶋へと記録媒体を差し出した。


「奏瑪のしもべたるアンドロイドやU生体の姿の映り込んだ、定点カメラの映像です」


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