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レッドライン・クロスオーバー  作者: /黒
《第三話》『アンドロイドの行きつきし袋小路』
14/33

2.

「思いませんか?」

「『ロア』のことか? いや、怪しさ満点だとは俺も――」

「それもそれ、ですが」


 ロアと名乗る少女と対面した翌朝、小田嶋とエプティは、その件についての話し合いを署で行っていた。壁の隅で、他の多忙そうな署員達には聞かれない程度の声の高さで。


「じゃあなんだっていうんだよ?」

「吼えないでください。解析結果が出ました。本物です」

「あの記憶媒体だな。映像は俺も見せてもらった」


 今それは、小田嶋の胸ポケットに入っている。一応、他の刑事にも知らせていない大切な物品だ。


「思いませんか?」

「――だから主語をだな」

「“おかしいとは”思いませんか?」


 エプティは何故か苛立った様子で、小田嶋を睨んでいる。いかにもじれったそうに、腕を組み人差し指の先をせわしなく動かしながら。


「おいおい、お前が自分一人で勝手に納得し過ぎなんだっての。俺はお前みたいに頭脳労働向きじゃねぇんだって」

「ありません。“そうでは”ありません」


 エプティは一度呆れたようにため息をつき、口を開く。


「監視カメラなど置いてはありませんでした。あの教祖の部屋に」

「――マジ?」


 渡された映像は、教祖・愛葉 親太朗の部屋のモノ。内容はまさに殺害の瞬間を映したものである。しかし、映像機器の類など一切置いてなく、事実集中管理室にもその部屋にアクセスすることはできない。


「何を見ていたんですか」

「いや、だってだな――当日の映像が漏れなく消されてるって、聞いたからだな、」

「丸投げし過ぎです」


 後輩に怒られて、しゅん、と小さくなる小田嶋。全くもって仰る通りなので、返す言葉がなかった。


「それはそれとして、昨日あの後、何人かに尾行されてたな。今はいねぇみてぇだが」

「感知していました。気がつかれていたのですね。“先輩も”」

「ニオイすら消してなかったからな」


 喫茶店を出てすぐ後、二人は何者かにつけられていた。それも、複数の人物に。


「状況から考えると――まあ、相手は決まってくるな」

「ロアに関連した集団、ですね。見張るためでしょうか。“勝手な行動を”」

「それもあるだろうが、少しでも多く情報を集めたいから、と言うのもあるかもしれねぇ。店を出た後のこちらの会話を、その一つまで聞き逃したくなかったんだろ」


 もっとも、だからと言って何のお喋りをしないわけにもいかなかった。大抵あのような会合の後にその相手の話をしない、と言う事は特殊な状況でもない限りあり得ないためだ。尾行に気が付いていない体を装うには他に方法が無かった。


 しかしどうしたモノか。小田嶋は考える。コーラを呷り、これからどう捜査するのかを。


 映像は、作られたモノではないことが確定している。そこには一体のメイドをそばに仕えさせた少年が、女性と少女、それから教祖の頭を次々に銃で撃ち抜く様が記録されていた。

 その少年こそが、ロアの言う「霧仁 奏瑪」なのだろう。三人を容赦なく撃ち殺すどころか、恐怖に慄き絶望に染まる様子を楽しむ顔まで、しっかりと映り込んでいた。


 しかし、その部屋にカメラの類は無かったのだとエプティは言う。まるで意味が解らなかった。この映像は、存在しえない本物なのである。


 尾行の一件もあるが、ますますロアと言う女の不気味さが増した。加えて、あの少女からは人工的な何かのニオイを、小田嶋は物理的に嗅ぎ取っていた。生き物から発せられる者とは異なる、ケミカルな香りを。

 何者なのかは、疑問が尽きない。しかし、壊滅事件に関しては、エプティの推測が半ば当たっていることが、あの疑惑の映像によって奇妙にも証明された。少なくとも、救済機関リ・アクティヴィティ壊滅事件の主犯は、この少年で間違いは無いようだ。


「――まあ、だったら直接乗り込んで向こうの情報も頂くとするか」

「え――?」


 顎に手をやり、そう呟く小田嶋。エプティは、意外そうに呆けた声を上げる。


「まず、ロアには他にも仲間がいる。この時点で、一つの仮説が浮かぶ」

「個人的な理由では、ない――?」


 小田嶋は頷いた。ロアが霧仁 奏瑪を探している理由に、決して個人的ではない何らかの理由があることが、複数人に尾行されているという事実にて浮上したのである。


「一つの集団が、何らかの理由で霧仁 奏瑪を探している。それも、わざわざ個人的に俺達を頼ってだ。しかも他の警官に内密にする形で」

「容易に想像できますね。“我々警官の情報の横流しをアテにしている、と言う事が”」

「こっから考えられる事は限られてくる。霧仁 奏瑪を探したい、という意思は変わらねぇが、それが組織的な理由の元に発生している、と言う事だ。んで、霧仁 奏瑪を追う集団と言えば、誰だかわかるか?」

「研究を奪い取った研究者、ですね。霧仁 奏瑪は逃げている。ならば追う者がいると言う事になります。となればそれが自然でしょう。しかし、それに関しても彼女の情報ですよ?」

「だが、でっち上げたにしては妙にリアリティと言うか、嘘臭くない明確さがある」


 これが嘘であれば、それはもっと”それらしい”話だろう。間違っても、文明社会における新たな光の、真なる発明者の話ではないに違いない。


「考えてもみろ。そもそも、俺達が当初の目的にしているのは何だ?」

「真犯人の、検挙――?」

「その通りだ。にもかかわらず、こっちは隠しごとをされているかもしれねぇ。そのせいでこっちだけが霧仁 奏瑪の足跡を追えねぇかもしれない。だがそれは、こちらが向こうの裏に控える存在を知らないという前提で成り立つ」

「――つまり、仰りたいことは?」

「俺はアンフェアな勝負は好きじゃねぇってこった」


 小田嶋はそう言って、牙を剥き出しにしてニヤリと笑った。


「アイテールとか言う研究者に会いに行くぞ」


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