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レッドライン・クロスオーバー  作者: /黒
《第三話》『アンドロイドの行きつきし袋小路』
13/33

1.

 麗らかな日差しの降り注ぐ中、二階のベランダで洗濯物を干すメイドが一人。否、一機。そのアンドロイドは、人間よりも人間のように優しい微笑みで陽の光の中仕事を行っていた。


 長い銀髪のそのライフサポートアンドロイドは、久しぶりに全身に感じる日光に、清々しい気分を覚える。

 この辺りの地区は普段から雲が多く、日が陰ることが多い。土地の形状や文明社会の生む公害もろもろの関係上風が滞留しやすく、結果、良好な天候となる空が少ないのである。

 なので、こう言った満点の晴れ、と言うのは貴重だった。彼女はこの機を逃すまいと、このようにして洗濯物を干している次第である。


「まあ、ヒサシ等でこのように囲っておかないと、コウギョウガスなどの付着で奏瑪がケンコウを害してしまいますがネ」


 誰ともなしにそう言って、全て干し終えたアンドロイド――イルは、室内に戻る。


 取り立てて空気が汚れているわけではないが、彼女の主たる霧仁 奏瑪はどうにも身体の弱い少年だった。そのため、些細な事であっても気を付ける必要があるのだ。


「さて、ワタシは奏瑪に言い渡されたシゴトへと出かけることといたしマショウ」


 奏瑪の昼食は既に作りおいてあるため、準備は万端。後は本人がもう少し早く起きてくれればよいのだが。主の生活をサポートし、そして命令には基本絶対服従のアンドロイドには、その我儘を受け入れる他ない。


 奏瑪に言い渡された仕事。それは、『ロア』と名乗る者の調査だ。


 その名についての本来の情報自体は、イルは把握している。その仇名は本来、「稗田ひえだ すみれ」と言う一人の人間の少女へと与えられたモノである。


 そして、その少女は彼にとっては全ての事の始まりでもあった。


 彼女がいたから、奏瑪は研究者としての道を歩むこととなり、そしてAE化現象を発見するに至った。もし彼女の存在が無ければ、この世の法則そのモノにかかわる程の発見をすることは、決して無かっただろう。


 だが、代わりに平穏から奏瑪は追い出されることとなった。あの事件自体が無くば、今や彼は世界的にも有名な科学者として名を馳せていた事だろう。

 この発見をしてしまわなければ、奏瑪は歪むことなく幸せに暮らしていたに違いないと、イルは推測する。


「それでは、行ってまいりマス」


 イルは玄関にてそう声をかけるが、返事は返ってこない。当然だろう。奏瑪は眠っており、そして愛月もまた眠りこけている。しかしイルはそれに苦笑するだけで、扉に鍵をかけて家を後にした。


 奏瑪が何故、調査命令を下したか。イルにとって、想像は難くない。


 過去に因縁めいた関わりを持つ人間の名を、エルフの依頼者が「紹介された」と口にした。偶然同じ名前、と言ってしまうには、少々出来過ぎた状況で。つまるところ、その調査に関してはイル自身も賛成している。


 だが、手がかりがあまりにもなさ過ぎた。いかに奏瑪の手によって、今の時代からしてみればオーバーテクノロジーじみた改造を行われたイルでも、エスパーみたいな能力を発揮できるでも無し。基本はマシーンであるため、その勝手に変化はない。


 だが、奏瑪はいつもそんな無理難題を普段からイルに投げつけていた。それは信頼か、はたまた道具故か。出会った当初よりはるかに荒い使い方と冷徹さを持つ少年は、メイドロボットにまるで容赦がない。


「さて、先ずは――ネットワーク上からデータを漁るべきでしょうか」


 このご時世、無線の回線と言うのは、それこそいくらでもひっかけられる。イルは調査先の予測を立て、歩きながらもネットワーク回線へと自身の頭脳を繋げた。そうしながら、最寄りのバス停へと足を進める。


 全ては、主たる霧仁 奏瑪の平穏のために。それを守るのが、ライフサポートアンドロイドたる自身の役目。


 ようやく落ち着いてきたのだ。これ以上、何人たりと。その生活を脅かすことは許さない。許されないのだ。


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