第10.5話:幕間
時は遡り、ここは人族の皇城ノイシュヴァンシュタイン城の召喚の間
目の前で茉央ちゃんを攫われた勇者3人は未だに口を半開きにして唖然としていた。
ー30分後ー
いち早く復活したのは翔だった。
「……な、なんだあの男はーーーー!」
「翔、落ち着きなさいな」
「そうだね。とりあえずは姫ちゃんは無事だろうし」
「なんで2人とも落ち着いていられるんだ? 姫ちゃんが攫われたんだぞ!」
3人が茉央の事について喧喧諤諤と言い合ってるとエリン皇女がしずしずと寄ってきた。
「みなさますみませんでした。魔族に攫われたとはいえ勇者様方のご友人に刃を向けてしまいまして……」
っち! 運良く仲間が助けに来やがって、あと一歩のところでこちら側が有利になるはずだったのに、キィーーーーくやしい!
「それに対しては分からなくはないけど。……いきなり討伐対象の魔王が目の前にいたら民と国を護るためにとりあえずは動くよな?」
「目の前で殺されて無いだけマシじゃない?」
「とにかく今はこれからの事を考えましょう。さしあたって今すぐ姫ちゃんのあとを追うか、ここでレベルを上げて強くなってから姫ちゃんのところに向かうか、あとは姫ちゃんと外交交渉する位でしょうか?」
「外交交渉って姫ちゃんとかなんでだ?」
「一応姫ちゃんは魔王として攫われたわけだけど、もし完全に魔王となっても前のままの姫ちゃんでいる可能性があるからよ」
「そっか。会話が可能なら交渉出来るし、姫ちゃんなら無理に戦う必要が無くなるよね? ……翔が余計な事さえしなければ」
「そうね。その事があったわね……」
「っな! なんで俺が余計な事をするんだよ」
「「…………」」
……そんな事も分からないなんて望みは無いわね。
……ダミだこりゃ〜。これは余計な事をしない様に監視をしなきゃならないかな? 後で桜に相談しよう、たぶん桜も同じ事を思ってるだろうし。
2人は翔をまるでゴミ虫を見るかの如く白い目で見つつ共にため息を吐いた。
「な、なにか言ってくれよ〜!」
「ご歓談中のところすみませんが勇者として我が皇王に合わせたいので、今から謁見の間にお越しいただいても構いませんか?」
「分かった」
「……分かりました」
「……分かったわ」
エリン皇女は従者に先ぶれを出し暫くして戻ってきた従者に確認を取ると、自らが先導となり翔達勇者一行を案内した、ついでに従者に窓の修理を依頼するのも忘れていない。
召喚の間から謁見の間にいたる長い廊下を通り、ときおりいくつもの曲がり角を曲がったりして、数十分掛けて目的の謁見の間にたどり着きました。
「扉デッカいな〜」
謁見の間の扉は優に数十メートルはありそうな程大きく、その扉の両脇には全身をフルプレートで覆った屈強な兵士がハルバートを持って佇んでいた。
「ここが皇王の居る謁見の間になります」
「けっこうかかったわね」
「すみません一応念のために少し遠回りさせていただきました」
暗殺対策でわざと遠回りした事を翔達には説明せず、エリン皇女は勇者達に詫びると扉の脇に佇む兵士に目配せをした。
「「エリン皇女殿下並びに勇者御一行おなーりー」」
扉の脇に佇む兵士の2人がエリン皇女の目配せに対しお互いに向き合い大声で中に居るであろう皇王に来場を報せた、すると大きな扉がゆっくりと内に開いていった。
ゴッゴッコッゴコココココ…………
「さあ行きましょう。マナーは私を真似ていただけたら大丈夫ですからね」
そういうなりエリン皇女は扉の中に向けて歩き出した、翔達3人は慌ててエリン皇女の後に付いて行った。
扉の中に入ると奥の段差の上に頭に王冠を被った年の頃は30代後半と思わしきイケメンの人物が豪華な椅子に座っており、両脇には大臣と思わしき人物が数名それに近衛兵士と思わしき騎士数名が王様と思われる人物の両脇に佇んでいた。
「皇王様此度の謁見ありがたき幸せでございます」
エリン皇女は片膝をつき頭を垂れて皇王に挨拶をしたので、翔達3人は同じ様に片膝をつき頭を垂れた。
「おお〜エリンかその様な堅苦しい挨拶はせんでかまわん楽にするがよい」
「はい分かりましたお父様、皆様も楽になさってください」
皇王が言うとエリン皇女は立ち上がり翔達に向き直り楽にする様にと言った、皇王は勇者達が楽にしたのを確認し会話を始めた。
「さて。そちが勇者たちだな? 此度は我が国の都合での召喚及び魔族襲撃の不備についてまことにすまなかった」
皇王は言うなり頭を下げた。
「っちょ、ちょっと王様が簡単に頭を下げちゃったらヤバイでしょ!」
「皇王様、 王が簡単に頭を下げるとは何事ですか!!」
驚いた翔の言う通り大臣の1人が慌てて皇王に近づき小言を言っている様だった。
「かまわん、彼らに国の大事とはいえ迷惑を掛けた事には違いないのだからな。……名乗りが後になったがオレがこのオルガレイク皇国の皇王アッシュ=ガイウス=オルガレイクだ!」
うーん。前に姫ちゃんに貸してもらった異世界物の本だと大抵王様は腹黒かったり威圧的だったりするんですけど、この王様は今のところどれにも当てはまりませんねただ単に心根の優しい人なのかしら? ま、油断せずに気に留めておきましょう。
「さっそくだが召喚された君たちにこの世界の事は知らぬだろう? こちらのお願いを言う前に迷惑を掛けたお詫びとして暫くの間我が城に留まられてはいかがだろうか?」
「えっと〜。桜、茜どうする?」
「「…………」」
翔の問いかけをスルーして桜と茜はお互いにどうするか考えていたが、召喚されてさほど経ってないこともあり茜は考える事をあきらめて桜に任せる為に目配せした、目配せを受けた桜はどうするかを決める為に1日以上の猶予が必要だと判断した。
「無礼を承知で申し上げます。出来れば1日ほど回答への猶予をいただけないでしょうか?」
「そうか……いや君たちは召喚されて疲労が溜まっているだろう、とりあえず5日間ほど城に留まると良い、もし5日待たずに答えが出た場合はオレに教えて欲しい」
「分かりました。ご配慮に感謝します」
まさか5日も貰えるなんて……確かに少し身体がダルいですね心労が溜まってるようです。今後の事は後ほど3人で相談しましょう。
「ではエリンに客間に案内してもらうと良い頼むぞエリン」
「分かりましたわお父様」
そうだ! 良いことを思いついたぞエリンも喜ぶだろう。
「それと勇者たちよ出来たらエリンと仲良くしてくれ、エリンは姉が結婚して他国に嫁いで行ってしまい同年代の友人が居らんからな、君たちならエリンの良き友人になれるだろう」
な、何を言っているんですかお父様⁉︎ 嫌ですよ野蛮な異世界人なんかと友達になんてなりたくないです。
「お、お父様⁉︎ いきなり何をおっしゃるんですか?」
「僕なら問題無いですよ皇女様と知り合いになれるなんてついてるな」
「私はこちらに知り合いがいませんから、同年代の友人ができるのは願ったり叶ったりですね」
「わたしも構わないよ、エリンちゃん可愛いし」
「し、知りません! 失礼します」
エリン皇女は青くなったり赤くなったりめまぐるしく顔色が変わっていたが、はたと踵を返すと謁見の間を足早に去って行ってしまった、翔たちは苦笑すると客間に案内してもらうためにエリン皇女のあとを追って同じように足早に駆けて行った。




