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千尋編。「早乙女中学校の七不思議」3

Y先生。ご協力感謝でした。

 

「何ッで、モナリザの口の中にわざわざ紙があるわけ!? 喰われろってか、痛い痛い痛い痛い!」


「……あーあ。噛み付いてるね。彼のお尻に」

「やって、ますね。あ、あの、ホントにいいんでしょうか? 何時も通り脅かしたら、その、あの子達、死んじゃうかも」

 モナリザに追われながら、椿木は赤い紙を発見したみたい。

 校長先生と泣き女ちゃんは心配性だな。

 ぴたーっと二人の子供+椿木の奮闘を扉に張り付いて見守っていた。

 

 おっと。

 早速、一番目の七不思議の歌うモナリザをクリアしたよ。

 椿木が食べられそうになったところを子供二人が何とか札をひっぺがして、あとは一目散!

 ……七不思議に持たせた紙をとればいいのであって、悪霊退散してとって来いとは言って無いからね。


「じゃ、次はあたしですよ! えへへへ、思いきり泣いてきます」

 ……泣き女ちゃんは泣くだけだもんね。

「相当脅かしてね?」

「はい。この前みんなで見たDVDを参考にします」

 僕は泣き女ちゃんを見送ると椅子に座った老人の像。校長先生と一緒に椿木達を尾行する。


「ま、いつきちゃんと隆くん。子供二人じゃ危ないけど椿木がいるんだもん。必死だけど何とかするよ。ああ、何だよ。何だよ! あの中学一、二年生が好むような悪役の笑い方はー!!」

 けど、自分の言動を思い出して恥ずかしさに悶えていた。

 両手を顔で覆ってばたばだする。

 「うう。紅めええ。何が素敵な怪異だよ」

 怪異って言うのは人間を脅かす存在。

 とびっきり怖くて悪い方が魅力的だと唆された僕は、色々な本を読み漁り、「悪役」を研究したのだ。

 紅と八柳が持って来た漫画を見たのが少し間違ったらしい。

 うんと悪くて怖い強敵! って感じの悪なんだけど。


「はァ。鴉天狗さん。貴方はいつきくんと隆くんの友情をとり戻す為(・・・・・)の最後の壁です。では、泣き女さんに辿り着く前に若い子達を脅かしてきます。首を狩る校長先生がわたしですから」

 老人石像は園芸部の鎌をしっかり構えて見せた。

 そう。

 僕はただイタズラに子供達を脅かしたわけじゃない。気紛れで、この解り易い二人に火の粉を吹っかけたかったんだ。

 虐められて、必死に手探りでそれに立ち向かう子供と。

 それを見ることしか出来ずにいる自分の心に素直になれない不器用な子供と。


 正直、大人が見ればじれったいくらいだよ。

 だから、エゴのカタマリの大人達がちょっぴり手を貸してあげるってわけ。

 勿論、子供二人をお化けに支配された学校に放り込むわけない。僕の友達(・・)を、子供達の助っ人として呼んだのだ。


「……椿木。またちょっと大人になってた」

 椿木に逢ったのは僕が人間の小学校に通っていた頃。

 椿木もこうしてイタズラで好奇心で怪異に首を突っ込んだ結果、未熟な悪霊に憑りつかれて大変な目に遭ったんだ。

 椿木の悪霊を祓った時に、僕達の繋がりは消えた。

 悪霊を祓って欲しい依頼人と悪霊を祓った兄ぃと僕との関係は消える。消えたはずだった。

 平穏をとり戻して大人になった椿木に再び怪異との接触があるまでは。

「でも、あの優しさは変わってなかったんだね。えへへ」


 まァ、それは何時か語ろう。

 それよりも、

「ぼ、僕、……わたしだって悪役くらいはしっかりやるわよ、ここの七不議だもの。七不思議はただのお化けじゃないの。学校を闇で守る存在。それに子供を叱って壁を越えさせることが学校の存在意義でしょう?」

「その意気やよしと言って置きましょう」

 

 僕は精一杯胸を張るのだった。

 さァ、夜はこれからだよ。



「こ、怖い怖い。ああれ、何だよ。何だよ!」

「ひ、引っ張らないで下さいよ、隆。もう、文字通り足を引っ張らないで下さい! この肝試し、試されるべきはわたしですよ。なのに一番隆が怖がるって…、」

「お、俺、ダメなんだよ。お化けとか幽霊とか。な、なのに、マジじゃん! あ、あ、あの絵、歌って、噛み付いて来た」


 歌うモナリザの紙を奪ったわたし達は廊下を走っていました。すると、緊張が解けたのか隆が泣きごとを漏らします。正直、わたしだって心臓が破裂しそうです。

 怖くて怖くて、前に進めません。けれど、わたしより隆が一番脅えているのと、

「じゃあ、来るんじゃねェよバーカ」

 このモナリザにお尻を噛み付かれた中学生。猩々院 椿木さんの存在が大きいのです。

「椿木さん。椿木さんも、その、七不思議を探りに?」

「俺? 俺は、……あ、ああ。そんなもんかな。本当は入るなって注意したい側だぜ。俺は。けど、お前達を見ると他人ごとじゃなくてな」

「?」

「ここの七不思議巡りしたら、虐めが無くなるのか? ほら。あのお化けの女の子が言ってたじゃん」


 わたしは恐怖から急に現実に引き戻されたように俯きます。

 あの、わたしをとり巻くクラスの空気。視線、悪口。

「無くなります。わたしは虐められているだけじゃ、嫌です。無力なのは嫌です。一人は嫌です。一人に比べれば、こんな七不思議巡りの一つ、二つ!!」

「そっかァ」

「……あ、あのさ、」

 隆がそんな空気に耐えきれずになったのか、声を挟もうとした時、



「首よこせェェ」

 怨嗟に満ちた声が廊下の向こうから響いて来たのです。首を欲しがる七不思議は一つだけだと思います。

「あ、あれ? これって三番目じゃなかったっけ?」

 段々と近付いてくる声に椿木さんは顔を青くし、わたし達も一緒に逃げ腰になりました。

「この怪異が支配する時間にィ、神聖な学び舎で何をやってる糞餓鬼共がァァ。首、首、首。お前等の、三人分の首を綺麗に狩ってくれるから、そこに並べェェえええええええ!!」


「「「い、嫌ァァ!!」」」

 声の方角を見ると驚きです。

 なんと言うことでしょう! 老人の石像が豪華な椅子に座ったままの体勢で器用に鎌を振り回してとんでもないスピードで迫って来るじゃありませんか。


「紙! 紙は!?」

 そ、そうです。七不思議達から紙を奪うのがわたし達が学校を出られる課題でした。

 しかし、老人の額に赤い紙を見付けて目眩を覚えます。

「おい! 石像に近寄れってか!!?」


 ぜ、絶対無理。



「じゃあ、そう言うことなの。ずりずりさま。この紙持って、沢山脅かしてあげて。……あ、でも、彼等は男の子だから、ずりずりさまの正体を見てもあんまり驚かないかも」


 僕はずりずりさまを見付けると事情を説明してその闇のカタマリに、お願い! と手を合わせる。

「千尋。また人間を救おうとしてる?」

 濁ったような、くぐもった声が笑ったような気がする。


 あう。ずりずりさまは性格が悪い。ここで頷けば断られるかも知れない。

 僕は勿体ぶるように間を開けると、


「いいえー?今をときめく、教師にして、術師(・・・・・・・)の名を知らしめた猩々院 椿木に恩を売る為よ」

 

 椿木は教師になって生徒の危機に遭遇した。

 僕と兄ぃにすでに逢って感性を持ち合わせた椿木は霊能力を開眼してしまったのだ。


「……ふん、解った。子供二人、死ぬほど脅かす」

「有難う」

「でも、あれだ。さくらは絶対に手を貸さない」

 ああー。

 ずりずりさまが珍しく協力してくれると思ったら、その名前を出されちゃった。

 さくらさん。七不思議の中の正真正銘の怨霊。

「だよねー。解ってる。彼であれば椿木を含めて子供二人なんか容易く手にかけるものね」

「でも、お前はさくらにも紙を用意した」


「はは。僕があの虐めに悩んでいる憐れな子供をとり殺せばいいわけだね?」

 細い声と一緒にぬうっと、青白い少年の顔だけが闇夜に浮かんだ。

 人間だったら失神してるんじゃないかな。わざわざ目玉を飛び出させて、悪趣味な血で顔面を真っ赤に染めていた。

 彼は噂の主、怨霊のさくらさん。


「ううん。きみは出なくていいの」

「……?」

「だって、きみ。本当に生きてるものを憎んでる。椿木だって、いつきだって、隆だって散々いたぶって自殺させちゃえって思ってる」

「当たり前だよ」

 

 怨霊らしいよ、本当に。

「……」「……」

 ずりずりさまは()を察したらしく僕達から距離をとった。

「わたしってね? 色々な術を使えるの。分身したり、葉っぱを小物に変えたり、……わたしがさくら、君の形に化けることも出来るんだよー? だから、きみを動けなくして(・・・・・・・・・)から分身して、きみに化けて紙を渡せばいいのさ」


 さくらさんはぎちぎちぎちィっと歯を見せて笑った。

「霊力勝負。怨念対決と行きたいけれど、今日は趣向を変えようよ」

 僕がぼっきぼっき指を鳴らすと、同じくさくらさんもその小柄な体で準備体操を始めた。

「人間らしくって言うのはどうかな?」

「人間? ……くすくすくす、虐め対決?」


 いやいや。そんな低俗で陰湿なものじゃない。

「人間の全身全霊を使った、渾身の殴り合い(・・・・)さ」



「凄い。椿木さん。ワックスをぶちまけて石像を滑らせたんですね」

 わたしは二枚目の紙を握り締めると、興奮していました。

 わたしの目の先に壁に衝突して転んでしまった老人の像。見事、老人の像の額から紙を頂けたのです。

 この椿木って人は本当に凄い。もうダメだって言う時に必ずわたし達を助けてくれるんです。


「逃げるぜ」

「はい!」


「ったく、何で俺がこんな子供の面倒を……」

「す、すみません」

「全くだ。お前、本当に喚くだけだな。いつきは虐められてるって言ってたけど。お前どうせ見てるだけだろ?」

 隆は図星を突かれ、情けなく下を向きました。

「お前もお前だ。虐めが辛いのも解る。けど、命を投げ出すほどか! ……虐めは辛ェよ。けど、体を壊して学校って社会にいられなくなって気が付いた。虐めて虐められてを繰り返すクラスが、とるに足らねェ小さな世界のだったって。そいつは大人になって、改めてそれを認識した。学校なんてな、辞めちまったって、何だっていい。逃げても卑怯じゃねェ。大勢で弱った一人を苛める向こうが卑怯だろう!? 大人になれ。全体に目を向けろ。生きたもん勝ちだ。世界は見る方角を変えれば違う……って、俺の友人にそんな人間もいた。

 まァ、それも一つの考え方だって覚えておいても損は無いぜ」


「は、はい」

「……!!」

「ノンフィクションだ」

「何が!?」

「おっと。泣き女を見に行かなくちゃな。トイレだったけか」

 

 泣き女の出現場所は何階は決まってません。

 必ず、女子トイレの右から二番目に出るらしいのですが。ならば一階から確かめようと決まった時でした。


「ぐ、げェ、げほげほげほ!!」

 真っ青な顔をした隆が急にお腹を抑えて咳き込み出したのです。

「う、うう」

「隆……? 顔色が。い、いえ。凄い汗じゃないですか。凄い熱じゃないですか。な、なんで」

 なんで。

 来た時は何ともなかったように見えたのに……?

 椿木さんは隆の前に片膝を付き、


「お前、人より感性が強いんだ。学校にある毒気って言うか瘴気にあてられちまったんだよ」

 隆の額を触ると首を傾げました。


「何で学校の中に入ったんだよ。お前なら本物(・・)の勢揃いしたこの校舎、夜の時間帯に入り口に立っただけで気分が悪くなると思うんだが」


「それは!」

「それは?」

「……」 「……」


「罪滅ぼしに」

 隆は不気味に静まり返った校舎の中で諦めたように言ったのです。

「え?」


「俺、いつきが虐められるの見てたんだ。知ってたんだ。……けど何もしなかった。だからさ、いつきが学校に来るって訊いた時に思ったよ。せめて横に居ようってさ」

 隆の言葉に椿木さんは呆れたように息を吐いて、

「ここの七不思議本物だぜ?」

「こ、殺されても今度はいつきを一人に出来ねえよ」

「……馬鹿じゃないですか」

 気付いたらわたしは、泣いていました。


「じゃあ、一人にしないで下さいよ。あの悪魔達の中で一人にしないで下さいよ……。せめて、貴方だけは近くにいて下さい。わたしを見棄てて、遠ざけて、う、うう」

「いつき」

「ああ、ああああああああああん!!」

 

 隆に縋って泣いていました。一度弱音を吐き出したら止まりません。

「何だよ」

「え?」

「辛かったんじゃねえかよ。何時も何時もすました顔で虐めなんか平気って面してよ!」


 隆はわたしの服を乱暴に掴むと急に不機嫌な声を上げます。

「ええ!?」

「俺に言えよ!! お、幼馴染みじゃん。全然、平気じゃないじゃん。辛かったんじゃん! ……ちょ、ちょっとくれェは守ってられるかもしれねェ。|俺に助けてって言えよ(・・・・・・・・)!!」


 わたしは、

 隆に、助けてって、言ったことがありませんでした。

 一生懸命、殻に籠って、一人で戦って。馬鹿みたいです。


 人は一人で戦うなんて、出来ませんから。


「くく、ひひひ、終わったかしらァァ?」


 その時、白い腕がぬるりとわたしの首に巻き付きました。

「え? あ、ああ!? 嫌だ……!!」

「お前!」

 隆の名前を呼ぶのと同時でした。隆はわたしの絡み付く手の持ち主になりふり構わず飛びかかったのです。

 しかし、それは向こうも完全に想定外だったようで、

「きゃん!!」

 隆のタックルを受けて彼女が尻餅を付きました。

 ふり返るとそのお化け(?)の全貌が見えます。正直、綺麗な子でした。蒼い髪とアンティークドールを思わせる洋服の子でした。


「こ、こんばんは。七不思議の二番目、泣き女の、……花ちゃん、です」

「あ、どうも。いつきと申します」

 挨拶をされて変な空気がわたし達をとり巻きました。


「な、泣こうと思ったんですよ。でも、貴方の方が悲しそうに泣く、から。ふふ、わたしの泣き声なんて届かないじゃないですか」

「へ?」

 泣き女さんは首をぷるぷるとふるとわたしに、紙を握らせて来ます。

「……あ、二番の赤い紙!」

 いいんでしょうか。貰っちゃって。何だか、拍子抜けするくらいいい子なんですけど。

「それじゃ、わたしはこれで。次はずるずるさまの番だから…、」

 

 その時、泣き女さんの言葉を阻み、校舎が大きく軋んだのでした。

 

「きゃああ!!」

 泣き女さんも驚きました。

 そこで、どうしてわたしに抱き付いて来るんでしょうか!?

「これは、ちょっと参った」

 みしみしと学校が鳴る中でずり、ずりと大きな闇が近付いてきます。

「お前、ずるずるさまか! 何だよこれ。こんなの計画に無いぞ」

 夜に慣れた目でも見通せないほど真っ暗な闇が横で止まるのを見ると、椿木さんはこんこんと壁と叩きました。

 計画って何でしょうか?


「ああ。計画外だろうな。……千尋とさくらが喧嘩して、もう手が付けられなくなった。学校、壊れるかも」

「はい!?」


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