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千尋編。「早乙女中学校の七不思議」2

あらすじ。

これが鴉天狗・千尋ちゃんの七不思議としてのお仕事です。



鳴神「あれ? 俺の出番は終わりかよ」


? 「俺のターン来たァ!!」

  

 お客さんも来たことだし、ここで、早乙女中学校の七不思議達を紹介して置こう。


 さてさて、どれも曲者ぞろいの困ったちゃんだ。

 一、歌うモナリザ。

 

 彼女は美術室にあるモナリザの絵。

 午前零時を刻むと絵のモナリザが歌い始めるんだ。決して歌を訊きに美術館に踏み入ってはいけない。モナリザに食べられるから。

 彼女とは上手くコミュニケーションをとれたためしがないので、きっと、僕等にも危険なのだろう。



 お次は何処の学校にもあるトイレの怪談。

 二、トイレで泣き続ける少女。

 

 トイレの花子さん、は有名だよね。この学校のトイレの彼女はちょっと違う。何て言うか、「毛色」が 全く異なるのだ。

 だってこの子は怪異と言うより、西洋では「泣き女」と呼ばれる精霊、又は妖精なんだ。

 泣くのがお仕事な不思議な妖精。

 トイレで延々と彼女は泣き続ける。何時も目を真っ赤にしているけど生徒思いのいい子だよ。



 お次、

 三、首狩り校長先生。

 

 ……彼は学校を創設した老人の石像。深夜になると学校に忍び込んだ生徒がいないか徘徊し始める。見付かったら、鎌をぶんぶん振り回されて学校から出て行くまで追いかけられる。

 ただ、生徒のことが大好きだから、本当に首を狩ることは無い。

「くゥォォおおおおおのおおおおおお! 糞餓鬼がァあああああああ!! 神聖なる学び舎にこんな時間に忍び込むとは恥を知れェええええええ!! 首、首、首を差し出せェえええええ!!」

 と、こんなことを咆え散らしながら追いかけます。……怖いけどね。



 四、ずりずりさま。


 生徒が見るとそこは黒い闇がわだかまってるんだ。そして、その闇は廊下一杯を黒い闇で埋め尽くして、ずり、ずりと動き出す。だから、ずりずりさま。

 これの正体を確かめてはいけない。確かめれば、きっと後悔すると言われている怪談だ。

 ……これ、僕も興味本位で見ちゃったんだけど。……あんまり思い出したくないなァ。

 これを確かめた生徒は必ず気絶している。

 それを面白がってるから妖怪らしい妖怪だよ。


 五、さくらさん。

 

 正真正銘の悪霊。人を殺めることに快感を覚える亡霊。

 見た目は小さな少年だけど、心を傾けてはいけない。

 何故か、遭遇した人間は自殺する。



 さて、僕の番。

 六、図書室の紫色の瞳のお化け。


 お化け、ってざっくりしてるな。

 半分鴉天狗。半分人間の僕が六番目だよ。

「不思議なことに困ったらたまに相談に乗ってくれるの!」

 僕も学校に害のある怪異があると目障りだから、余所者の情報を知る為に生徒の相談にも乗ってます。縁があれば、きみも僕に相談してご覧よ?

 僕結構、術使うのも上手いんだから。分身したり、葉っぱを小物に変えたり、色々ね。


 

 七。早乙女中学校。


 ???

 

 これは、七不思議の中でも知ってるのは僕と、校長先生、それと泣き女ちゃんだけ。

 ほら、七不思議の七番目を知ってはいけない。が、学校の怪談でしょ?



 と、自己紹介が終わったばかりで何なんだけど。

 この夜の学校に生徒が来た。



「……いつき、いつき!」

 わたしは名前を呼ばれてふり返ります。

 大きい声を出さないで下さい。苦労してこの中学校に忍び込んだんですから。そんな目線を送ると、(たかし)は首を横に降ります。

 わたし達は早乙女小学校の六年生。

 同じクラスの隆とわたし。幼馴染みのわたし達ですが今はもう全く違う立場に居る存在です。

 虐められっ子と、ただそれを見るだけの人間。

 男のくせにわたし、とは変だと解っています。

 この学校の七不思議が本当だと囁かれているのも知ってます。

 けれど、わたしはこの肝試しを行わなければならないのです。

 

「見付かれば大事になるぞ。……宮部達だって、本気じゃないさ!! な?」

「帰って下さい、隆。わたしは怖くありません。それにこの肝試しをすれば、わたしのことをみんな、解ってくれます」


「……!!」

 

 自慢ではありませんがわたしは小さな頃から病弱でした。

 友達は隆だけ。

 暇潰しは本だけ。

 だから、ごく自然にわたしはいい成績をおさめることが出来ました。小テストがあれば満点。順位は一番上。

 ……でも、友達の少ないわたしです。

 がり勉だと罵られ、クラスで孤立するのは当たり前の流れでした。


「帰って隆。わたしは自分しか信じません。苦しい時、わたしを助けられるのは自分だけなのです」

「宮部達はお前をからかってるだけだ」

「不愉快です!」

「それに、この肝試しが成功しても約束を守るとは思えない」


「うるさいです。……なら、なら、わたしは他にどうすればいいと言うのですか!!」

 

 弱者を弄んで、自分を慰める人達がいます。

 暴力、陰口、悪口、標的の持ち物を隠し、標的の机に罵詈雑言を刻み、標的が苦しみ、嘆くのを贄とする悪魔達です。

 その悪魔に比べれば亡霊がなんだと言うのでしょうか。


「これ以上わたしに構うなら帰って下さい。……今夜の為に練りに練った計画、学校の警備員に見付かるわけにはいかないから」

 校舎の合い鍵。この中学に通う人にお金を積み、作って貰ったものです。

 それほど今回の肝試しは価値があると思う。

 

 わたしは早速合鍵を使い、校舎の中へ。


「!!?」

 わたしは一歩、校舎の中に入ると、ぶわっと鳥肌を逆立てるような感覚に襲われます。それは横の隆も同じのようで。


「この、調べた早乙女中学校の七不思議。これを順々に巡って行けばいいんですね」

「……でも、六番目しかないんだろ?」

 

 一階の廊下を歩いていた、その時、


「へェ。……貴方達、七不思議巡りに来たの?」

 

 真っ黒な美しい人が、鴉の羽根を散らし、舞い降りて来たのです。

 隆は人に逢って安堵したようですが、違います(・・・・)。直感しました。人じゃない(・・・・)、と。


「貴方は、お化けなのですか?」

 わたしの言葉に初めて、隆が驚きました。


「お化け? そうねェ、貴方達の言うところの七不思議の六番目よ?」

「……。図書室の」

「そう図書室の紫色の瞳のお化け。わたしって一番七不思議の中じゃ、優しいのよ? 何しろ生徒の怪奇な相談に乗ってあげるくらいだもの。貴方達。わたしが七不思議巡り、付き合ってあげましょうか?」


「え?」

「夜の学校ってわくわくするわ。そろそろ来るわね」

 わたし達は彼女の提案に口をぱくぱくさせていると、おどろおどろしい怨嗟の声が廊下に響きます。これって警備員には聞こえないのでしょうか?

「聞こえないわァ。……貴方達の知る早乙女中学校とここ(・・)は別ものよ。同じ場所にあるけれど、もう人間の目なんて届かない」


「そ、それは……、」


「ああ、言って置くけど引き返しても無駄。悲鳴を上げても無駄。……くすくすくすくすくす! ねェ知ってる? 学校って魔界なの。沢山の子供の思念が渦巻く魔界なの! 貴方達が怖がって、彷徨って、苦しんで。それで昼間の生徒達は命の危険も無くのうのうと虐めだの、勉強だのしてられるのよ?」


 彼女は美しい顔をうんと歪ませて、その紫色の瞳でわたし達を覗いて来ます。


「ねェ優しいお化けって何? 害の無い七不思議ってなァにィ!? ……精々六番目まで辿り着くのね」

 彼女は右手に持ったのは宮部の用意した「肝試し達成」と書かれた紙の入っている封筒でした。その封筒をしげしげと眺めると彼女は何もかも見透かしたように声を上げました。


「ふふ、『早乙女中学校で肝試しして七不思議を巡って来い』 『がり勉のお前のことをバカにするのは止めてやるよ』って言われたんでしょ?」

 

「ど、どうして?」

 ああ、きっと。このお化けの紫の瞳は心を見透かしてしまうのです。

 わたしは、虐める人間に認めて欲しかった。わたしだけの力で立ち向かいたかった。

 

 ……どうして、こうなったんでしょうか。

 

「あっはっははははははは! いいわ。ちょっと退屈してたの。七不思議達を巡って六番目のわたしの元までいらっしゃいな。そうすれば無事にこの学校から帰してあげる」


 彼女はわたしの肝試しを行ったと言う証の封筒を散り散りに破り捨ててしまいます。そして、とびっきり楽しそうに言いました。


 どうして、こうなったんでしょうか。

 わたしはただ一生懸命なだけだったのに。


 七不思議六番目だと言う彼女は六枚の木の葉をとり出すと、さもふざけた様子で、

「ちちんぷいぷーい」

 魔法使いのように笑いました。するとどうでしょう。

 葉っぱは六枚の赤い紙に変わり、それぞれ一番目、二、三、四、五、六、と数字が描かれています。

「これはそれぞれの七不思議に持たせて置くわ。ちゃあんと奪って来なさい。七不思議巡りの証として」


 それは、わたし達の勇気の証だとでも言うのでしょうか。

「い、いつき」

 

 隆は青ざめてます。

 隆、きみは何時もそんな顔でわたしが虐められてるのを見ているだけでしたね。


「……解りました」


 その時です。

 


「んじゃ、俺も混ぜろ!!」

 

 

 真っ黒な闇を斬り裂くような凛とした声が上がったのは。

 声の方角を見ると、恐らく高校生くらいの年齢のお兄さんが立っていました。


「……お前は」


「久しぶりだな。図書室の鴉天狗! 俺は猩々院(・・・)猩々院(しょうじょういん) 椿木だ。とっとと始めようぜ、茶番をよ」


 

 何故でしょうか。

 わたしにはこの人が、酷く頼もしく見えたのです。

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