千尋編。「早乙女中学校七不思議」4
「ねェねェ、さくらさんって知ってる?」
「……苛められて自殺した子供じゃなかったっけー」
「両親に虐待されて、学校で苛められて、色々なものを怨んでね。……学校で首を吊ったんだって」
「ええー。何それ。何処情報? あたし、死因初めて訊いたんだけど」
「生徒指導室だっけ。扉を開けて入った先生に笑いかけてたの」
……首を吊った状態で、死んだまま笑ってたの。
※
「ッしつこい!!」
初めは七不思議巡りにきた子供達を応援するつもりだったんだ。
仲直りをさせようと僕なりに。
でも、七不思議にはさくらがいて彼に協力を仰ぐことは大失敗だった。
さくらは見るも悍ましい本性を晒していた。
血が、真っ赤な血が穴と言う穴から噴き出している。真っ赤な姿で、僕を殴る。殴り付ける。
これが元人間の拳? 殴って、まるで車と車が正面衝突したような音が響き渡る。
何度も、何度も。
「ああ、憎い。憎い、憎い。羨ましい、恨めしい。遊びたい。話したい。壊したい、殺したい」
そんなことを仰向けの僕に跨り、拳を掲げ、ぶつぶつと呟くさくら。
体が痛い。動かない。
軽く金縛りにあってるみたい。
二、三分前までなら僕の理性もあったんだけど。
僕は目の前の死の気配に本気で応戦していた。
僕の首に手がかかる瞬間、翼を羽ばたかせ、大きく風を切って奴の後ろに移動する!
僕の繰り出す拳一発。
さくらは捩じれて飛んだ。
関節がぶっ壊れた人形みたいに曲がりくねって、目の前の壁にめり込んだ。
「……ひ、ひひ」
その時。
追撃をかけようとした僕の頭に拳骨が落ちた。
僕は、
ああ、僕は。
「は、はー、はー、はー」
乱れた呼吸の中でやっと我に返った。
拳骨の主は高校生姿の椿木。
椿木は僕の体を立たせると、目立った怪我を探すように体中を見詰めて来る。僕の方は反省だ。猛反省だ。
「ごめ、ん。椿木」
「あの二人は心配するなよ。何とかなったぜ、お人好し」
この高校生姿の椿木は、僕が化生の術の応用で今や立派に大人になった椿木を若く見せている。
七不思議達に追われ、教師を本業にする椿木の説教は効いただろう。
どうせ、見知らぬ大人が出て行って説教しても、煩わしいと思わせてしまう。だから椿木なのだ。
「でも」
僕は、お節介で子供二人を助けようとして。
結果が我を忘れて半分暴走状態である。大人の余計なお世話とはとても言えない。
「七不思議達に、椿木に協力して貰ったのに」
僕が情けなくて顔を上げられずにいると、ぎゅっと両手が握り締められた。
「な、泣き女ちゃん」
「……大丈夫。ほら」
泣き女ちゃん椿木を指差した。
いつきと隆が椿木の後ろから複雑そうに顔を覗かせていたのだ。
あんなに悪役だった僕がこんなことになるなんて、あー、もー情けない!!
「あ、あの」
「うん、ごめんね。今、恥ずかしくて死にそうなの。手短にお願い?」
僕は熱くて熱くて仕方のない頬を隠すといつきから視線を逸らした。
「お、お化けって怖いけど」
「その、優しいお化けもいるんですね! わたし、今日のこと一生忘れません。本当は人間を脅かさないといけないのに、その、……いらないお節介を焼いてくれて有難う! お化けさん!!」
言い募るいつきと隆を見ると僕は照れてしまった。
お化けは悪役なんだ。あんなに脅かしたのに懲りないと言うか。何と言うか。
気をとり直して、
「ふん。わたし『図書室のお化け』を含め、『歌うモナリザ』 『泣き女』 『首狩り校長』 『ずりずりさま』……。『怨霊のさくらさん』と 『知ってはいけない七番目』を除いたらしっかりクリアしたのね?」
あっと声を上げたのは隆だった。
「ずりずりさまは、その、遭っただけなんだけど」
「……『ずりずりさまの正体を見たものは気絶する』って、知ってる?」
僕は意地悪に笑って見せた。
僕の笑みに他の七不思議達はああ、と事を察したようだ。
肝試しはここで終わるのだ。なら飛びっきり怖がらせてやろう!!
「おいおい、何を企んでやがる」
「折角七不思議が揃ってるんだもの。ずりずりさまの中身、見せてあげようよ」
僕の声が引き金だった。
ずりずりさま。
真っ黒な闇を引き摺って歩く、その闇が。
校舎一杯に膨らんだ。
右も左も、上も下も! 七不思議達と三人がずりずりさんの中。
「な、何てことは無いですよ。目が慣れて来れば……」
いつきの強がる声に僕は同調する。恐怖を吹き込む為にね。
「そうそう。目が慣れて来れば。その闇が一体何で造られているのかがよくよく見えるはずよ?」
かさ。
かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさか。
いつきと隆は瞬時に凍り付いた。
この音を。彼等は知っているからだ。
一匹、二匹なら台所で見ることが出来る。
新聞紙を丸めたり、殺虫剤を片手に追いかけたりした経験ならあるだろうか?
「え」
その黒光りした、触角を持った虫。
この校舎は、今、彼等で満ちているのだ。
「じゃ、じゃあ、これ。ずりずりさんの正体ってつまり」
「ええ、そうなの。見るも悍ましい大量のゴキ、」
「「嫌ァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
そうして僕の声は二人の悲鳴にかき消された。
七不思議に相応しいのは矢張りいい笑顔じゃない。
こんな最高の悲鳴だ。
精神的攻撃抜群。




