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blood cross  作者: 独楽
a mind
25/35

-006-



 ……と、いうわけで。

 いま俺は大変遺憾ながらも、流行のアールヌーボーに喧嘩を売るような黒を基調とした厳粛なAラインドレス――胸元はコサージュとフリルでボリュームを出しつつ、腰元からタイトに続く丈の短いスカート――男なら即座に憤死出来るレベルのそれを身にまとい、彼女の部屋で、彼女の化粧台の鏡の前で、そして俺の憧れの彼女の隣で、変態のように女装姿を晒している。

 なんていう罰ゲームだ。


「うん。とてもよく似合ってる。サイズもぴったりね。可愛いわ」


 俺の気恥しさも露知らず、リシェルさんは胸の前に手を重ねて微笑む。

 フッ……可愛いのはあなたのほうですよ……なんて言えたら素敵だろうが、俺にそんな度胸はないし、女装した変態に褒められて喜ぶ女子はいないとも判断して、重く口を噤む。

 それと、万人が思うだろう『しかし、なぜ女装なのか』という疑問にお答えすると、その理由は実に単純で、パーティに招待されたのがリシェルさんとラルラウアだったから――だから、そこに男が入り込んでしまえば不自然ということになってしまう。

 つまり、俺は新米メイドである、ラウラウアの代わりってことなのだ。

 人生ってのは本当なにが起こるか分かったもんじゃない。パーティに潜入するためとはいえ、まさか女装するハメになるとは……シャーロック・ホームズじゃあるまいし。


「…………」


 あー……なんだろう、これ。

 足、めっちゃスースーする。

 不安になる解放感と女装という背徳監で変な気分だ。

 ふと視線をあげる。

 鏡の向こう側の俺が、すごく可哀想な目でこちらを見ていた。


「…………」


 やめろ。

 そんな目で俺を見るんじゃねえ。


「可愛い……でしょうか? 俺としては気持ち悪い以外の何物でもないのですけれども……特にこの生足具合が」

「それがいいんじゃない。クリノリンつかってスタイルを隠すより、いっそスカートを短くして曝け出すほうが好感触よ」

「はあ……」


 曝け出すってか、出ちゃダメなものまで出ちゃいそうなのですが。

 俺はガックリと肩を落とした。

 リシェルさんが用意してくれた衣装を『こんな格好』呼ばわりするのは気が引けたが……けれど俺だってまだガキとはいえ、もう独り立ちしている男だ。

 一緒にパーティに行くっていう夢のようなお誘い――信じられるか? 俺、パーティに誘われたんだぜ――というか、普通に考えればあり得ないお誘いに心を躍らせたのは認めよう。

 それでも、まさかこんな格好を好きな人に晒すなんて……あんまりだった。


「……あら。もしかしてアランは、私のセンスが気に入らなかったりするのかしら?」

「い、いえ! そんなつもりはありませんが……あの、やっぱり十六歳男児として信じられないくらい恥ずかしいものが……」

「そうかしら。こんなに可愛いのに……」


 物惜しそうなリシェルさんの目が俺を見る。

 ……むう。

 と俺は唸る。


「そうだ。可愛いぞ、アラン」


 うるせえ。

 執事さん、てめーは黙ってろ。



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