-006-
……と、いうわけで。
いま俺は大変遺憾ながらも、流行のアールヌーボーに喧嘩を売るような黒を基調とした厳粛なAラインドレス――胸元はコサージュとフリルでボリュームを出しつつ、腰元からタイトに続く丈の短いスカート――男なら即座に憤死出来るレベルのそれを身にまとい、彼女の部屋で、彼女の化粧台の鏡の前で、そして俺の憧れの彼女の隣で、変態のように女装姿を晒している。
なんていう罰ゲームだ。
「うん。とてもよく似合ってる。サイズもぴったりね。可愛いわ」
俺の気恥しさも露知らず、リシェルさんは胸の前に手を重ねて微笑む。
フッ……可愛いのはあなたのほうですよ……なんて言えたら素敵だろうが、俺にそんな度胸はないし、女装した変態に褒められて喜ぶ女子はいないとも判断して、重く口を噤む。
それと、万人が思うだろう『しかし、なぜ女装なのか』という疑問にお答えすると、その理由は実に単純で、パーティに招待されたのがリシェルさんとラルラウアだったから――だから、そこに男が入り込んでしまえば不自然ということになってしまう。
つまり、俺は新米メイドである、ラウラウアの代わりってことなのだ。
人生ってのは本当なにが起こるか分かったもんじゃない。パーティに潜入するためとはいえ、まさか女装するハメになるとは……シャーロック・ホームズじゃあるまいし。
「…………」
あー……なんだろう、これ。
足、めっちゃスースーする。
不安になる解放感と女装という背徳監で変な気分だ。
ふと視線をあげる。
鏡の向こう側の俺が、すごく可哀想な目でこちらを見ていた。
「…………」
やめろ。
そんな目で俺を見るんじゃねえ。
「可愛い……でしょうか? 俺としては気持ち悪い以外の何物でもないのですけれども……特にこの生足具合が」
「それがいいんじゃない。クリノリンつかってスタイルを隠すより、いっそスカートを短くして曝け出すほうが好感触よ」
「はあ……」
曝け出すってか、出ちゃダメなものまで出ちゃいそうなのですが。
俺はガックリと肩を落とした。
リシェルさんが用意してくれた衣装を『こんな格好』呼ばわりするのは気が引けたが……けれど俺だってまだガキとはいえ、もう独り立ちしている男だ。
一緒にパーティに行くっていう夢のようなお誘い――信じられるか? 俺、パーティに誘われたんだぜ――というか、普通に考えればあり得ないお誘いに心を躍らせたのは認めよう。
それでも、まさかこんな格好を好きな人に晒すなんて……あんまりだった。
「……あら。もしかしてアランは、私のセンスが気に入らなかったりするのかしら?」
「い、いえ! そんなつもりはありませんが……あの、やっぱり十六歳男児として信じられないくらい恥ずかしいものが……」
「そうかしら。こんなに可愛いのに……」
物惜しそうなリシェルさんの目が俺を見る。
……むう。
と俺は唸る。
「そうだ。可愛いぞ、アラン」
うるせえ。
執事さん、てめーは黙ってろ。




