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blood cross  作者: 独楽
a heart
15/35

-013-



 わたし。


 彼。


 彼は言った。



『驚いたな。きみは言葉が理解できるのか』



 彼は答えた。



『心を知りたい? ならば物語を読むと良い。私の書斎にいくつか置いてあったはずだ』



 彼は謳った。



『……ふむ。考え方にもよるが、永遠の命が人間との差異……というのは、実のところ違う。きみと人間の違いなど、根本的に存在しない。きみのいう『心』とは、単なる経験から得た選択の集合体だ。言ってしまえば、鳥も魚も人間も生命である以上、心を持ち合わせている』



 そして彼は肯定した。



『ひとつ挙げるとするならば、人間は終わりを求める生き物ということだろうな。きみだって楽しみにしている小説が読みかけだったら、おちおち死ぬことだって出来ないだろう? だから、きみと人間に差異なんてものはない』



 わたしの存在を。



『ただ、きみは他の人間にはない『不死』という長所を持っている』



 人間として。



『それだけだ』



 認めてくれた。

 わたしは、その言葉に夢を見た。


 わたし。

 いいえ、私。


 私、リシェル・ア―カードは夢を見た。

 私はあなたを認めよう。



 『ラルラウア・ア―ハート・オースリーブ・ウィル・オールヴェル』。



 最初、その言葉の意味はわからなかった。

 もしかしたら意味なんてものは、初めからなかったのかもしれない。

 けれど、なんとなく音の響きが好きで――“わたし”は――彼女は、いつしかそれを自分のなかで、自分の名前として持つようになっていた。


 初めてラルラウアの眼を見たとき。

 怖いと思った。

 その理由が、いまになってわかった。


 “怪物”は――ラルラウアは、かつて生みの親に裏切られた。

 寄せ集められた人間の死体から造り出された彼女は、『完成された人間』――不死の存在として問題はなかった。問題があったとすれば、生みの親であるヴィクター・フランケンシュタインが、『人間』という定義付けされた存在を簡単にみていたことにある。

 大きな違いは『人間』という枠組みから遺脱する。

 多数にとって『不死』は、その中でもとりわけ大きな違いだった。


 十一月の物悲しい夜に生を受け、彼女の悲劇は始まった。

 おとぎ話で語られるような復讐劇は実はない。

 ……いいえ。あるにはあったけれど、そこまで大逸れた話でもなかった。

 ここであえてそれを語ろうとは思わない。


 というか、思えない。

 絶対に。


 だって――それは凌辱という名の正義で、排他という名の大義で、世界から嫌悪され、俗悪され、罵れ、怨まれ、憎まれ、忌まれ、厭がられ、毛嫌いされ、忌嫌われ、憎悪と厭忌と厭悪と唾棄と娼嫉に埋め尽くされた“環境”の中で生き続けることを強いられた、孤独な少女の悲痛の生涯の物語なのだから。


 なんで私がそれを垣間見れたのか――それはきっと、私が彼女の血を受けたからだろう。

 器として、彼女を受け入れたから。


 つまるところ。

 わたしが見た夢というのは、彼女の記憶。

 人間から受けてきた記録で、純粋な怪物の回帰録。


 喜劇とも思える、人間の醜さに追いやられた、悲劇の物語だった。




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