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妖怪さん  作者: 黄瀬ちゃん
二章
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妖怪の森

 私が初めて妖怪の森に辿り着いたのは、六つの時でありました。

 五つになるまで私は人間の村で暮らしていましたが、私が妖怪であると知れると人間は私をその村から追い出したのです。

 その頃の私は自分が妖怪とは知りませんでしたから、その時になって初めて自分が妖怪であることを知ったのです。

 私は村から追い出されて、行く当てもなくふらふらと各地を巡りました。

 妖怪として一人で生きていく力などありませんでしたから、多くの場合は人間のふりをしてなんとか生きていたのです。

 そして、妖怪が住むと言われる森の話を聞いたのでした。

 妖怪の森と言われるその森は山の麓にあり、その山には天狗が住み、森の妖怪を統べているというのです。

 事実、人間の言う通り山には天狗様が、森には多くの妖怪がいたのでした。

 私は人間の様な見た目をしていますから、初めて森に入ったときは、何度も妖怪達が脅かしにきました。しかし、私はそれを恐ろしいとは思えなかったのです。

 正直に言うと、この時私は人間の方が恐ろしくありました。人間の冷酷さは妖怪よりもよっぽど恐ろしいのです。

 森の妖怪達はちっとも恐れない私をつまらなそうに見ていましたが、私が妖怪だとわかると、妖怪たちは私を迎え入れてくれました。

 というのも、天狗様が山から下りて来られて、私を天邪鬼という妖怪だとみなに教えたのです。

 私は天邪鬼という妖怪なのか。と私はその時ひっそりと理解したのでした。

 そして、私は妖怪の森で暮らことになったのです。


「天邪鬼よ。お前は本物の阿呆だな」

 屋敷から森へと帰る道の途中で河童が言いました。

 阿呆とはなにか。河童の様な阿呆な者に言われる筋合い話ない。と私は思うのです。

「人間を脅かしに出かけたきり帰ってこないと思えば、人間に捕まっていたとは……」

 私は何も言い返せませんでした。

 私は一つ嘘をついたのです。

 屋敷に河童が来た時、私はひどく驚きました。

 私がしばらく帰ってこないので、河童は天狗様に助けを求めて私を探したのだそうです。そしてあの屋敷にいることを知り、何をしているのかと尋ねてきたのでした。

 河童は見るからに妖怪ですから、日の出ている内から人間のいる場所へ出て来る様なことはできないのです。なので、夜に人間が寝静まった頃合いを見て私の元を訪れたのでした。

 私はその姿をみた時、ヒヤりと背筋が凍るような思いだったのです。

 何か悪いことをしているのを見られたような。そんな気持ちになりました。

 人間に囚われて捕まっている。危うく鍋にされるところだったのだ。と咄嗟に嘘をつきました。

 そして、そのまま屋敷を抜け出して森へと帰ることにしたのです。

 丁度いい機会だと思いました。

 これ以上あそこにいても私に得られるものはないのです。

 森に帰って、人を脅かして、毎日を過ごす方がいいではないか。私は妖怪です。人を脅かさない妖怪などいません。

「天狗様が怒っていらしたぞ」

 河童の言葉に心臓が止まりそうになりました。

 天狗様は怒るとそれはそれは恐ろしいのです。妖怪すらも恐れる妖怪。それが天狗様なのです。

 一体、どれほど怒っていらっしゃるのだろうか。

 かつて、私と河童は人間が落としていった刀を振り回して遊んでいました。それを見た天狗様はひどくお怒りになったのです。

 あの時と同じくらいの怒りであれば、私はもう森へは帰りたくありません。

「それは諦めろ。お前を連れて行かなければ俺が怒られるのだ」

 河童は非情にもいいました。

 友を売るとは、妖怪の風上にもおけません。

 きっと、私が森で暮らし始めて間もない頃、河童の頭にある皿で食事をした時のことを未だに恨んでいるのです。

 ああ、なんと小さい妖怪であることか。

 森に近づくと、夜行性の動物たちの動く音と、木々が風に揺られる音が私に届きました。

 私はそれを聴いて、なんだか懐かしい様な思いになったのです。

 たかだか半月ほどだというのに、一年ほどこの場所から離れていたような、そんな風に感じるのでした。

 私たちは入口にいた塗壁に軽く挨拶をして森の中へと入ります。

 森の深くまで行くと、妖怪の住居があるのでした。

 河童などは川に住んでおりますが、私の様な妖怪は雨風を凌げるところがなければ生活できません。そういう妖怪のために、ここにはいくつもの家屋があるのです。

 私が以前使っていた家へと向かうと、河童がそれを止めました。

「その前に天狗様のところへ行かなければならない」

 それは嫌でした。どうしても天狗様には会いたくありませんでした。

 どうにかならないものでしょうか。私は逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。何か天狗様に会わずに済む方法はないのでしょうか。

「ええい。このまま天狗様に会わなければ、今以上に天狗様を怒らすことになるのだぞ」

 河童にしてはまともなことを言うのです。

 一体どうしたというのでしょうか。私と同じように不真面目な妖怪であるはずの河童が、こんなにもまともなことを言うのです。もしや病気ではないか。

 ふと私は河童の方を見ました。

 いつもと変わらない河童の姿でありましたが、その頭にある皿が渇いてきているのです。

 河童は皿が完全に渇いてしまうと、死んでしまうと言われています。なので、普段は川に住み、それを濡らしているのでした。

 考えてみれば、村まで降りてくればその間は水がありません。もちろん、多少の持ち運びはできますが、それも長くは持たないのです。

 つまり、それだけの危険を冒してでも私を迎えに来てくれたのでした。

 ああ、私はなんと素晴らしい友人を持ったのでしょうか。

 そう思えば、天狗様に会うのも恐ろしくはありませんでした。

 私たちは天狗様の待つ一本杉の元へ向かったのです。

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