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Film09.乙女心はうらはらに ―SAYAKA’S EYE―

(――ちょっと待って……)


 あたくしは封切られた後の手紙をぐっと握りしめ、怒りにわなわなと震えたわ。だって、他にどうしろというの? 封筒にはご丁寧にあたくしのフルネーム名前が書いてあったわ。そして、それを誰かに見られたのよっ!

 あたくしは、ちらり、とさゆりを見たわ。今にも泣き出しそうな、申し訳なさそうな顔であたくしを見つめている。泣きたいのはこっちだっていうのに!


(あぁ、なんてことなの――)


 ただでさえ、自分のこんな感情なんて信じられないものを内に抱えてるのに、その上さらに、誰かに知られたら……、それがイッペーの耳まで届いてしまったら……身の破滅。そうね、生きてられないわ。

 ぐらぐらとする頭を何とか無理に止め、あたくしは平静に戻るよう努めたわ。


「さゆり、あたくしは大丈夫だから」

「ご、ごめんね……さやちゃん」


 さゆりの肩をポンポンと叩き、あたくしはまだ三沢にひっついているクソ生意気な下級生を見る。その時、丁度視線がぶつかって――


(笑った――?)


 気のせいなのかしら。笑ったというか、何か嫌な表情だったわ。

 ……まさか、ちょっと神経が過敏になっているだけよ。

 …………でも、まさか。


「え…と、お嬢。大丈夫か?」

(――――)


 あたくしは赤く火照ろうとする肌をぐっと押さえたわ。ただでさえ、白い肌なんですもの、目立ってしまう。……まさか、三沢くんからお嬢とか言われる日が来ようとは! あたくしも、できることなら「ナオト」と呼びたいわっ!


「え、えぇ、大丈夫よ。そんな大したことは書いていないから」


 彼は拍子抜けして、そうなのか? と首を傾げたわ。さっきのあたくしの慌てように疑問を抱いたのかしら。


「……にしても、ひでーよな」


 イッペーがぼそっと言う。ふん、同情の相手がさゆりだってことはわかっていてよ。


「あぁ、人の手紙を盗み見るなんて最低だよな。こうも堂々と宛名と差出人が書いてあるのに」


 うっわー! 同情してもらっちゃったわ。……いえいえ、そんなに嬉しくなるほどのことでも―――あら?

 あたくしは様子がおかしいことに気づいたわ。そう、あの下級生の。

 何か、そわそわしてるというか、……いや、いつもそわそわして落ち着きがなくて、うざったいんだけど。無理に言うなら……脅えてる?

 向こうはあたくしの視線に気づいたのか、「本当にひどいですよねー、信じらんなーい」とぶりっこをして、ナオトに同調したわ。でも、ちらちらとこっちをうかがっている。


(こ……こいつは!)


 あたくしはピンときたわ。こいつが犯人だと。恋する乙女の第六感は並じゃなくってよ!


「えぇと、増山さん、という名前だったかしら。拾って下さって本当にありがとう」


 あたくしは「いつか化けの皮をはがしちゃる!」とか思いながらにっこりと笑う。向こうはすっかり安心したようで「いえ、あたしも拾っただけですから」と照れる様子を見せる。


「ごめんなさいね、せっかくのお昼休みを、こんなことに使わせてしまって。お昼は……まだなのかしら?」

「い……はい、まだですけど」

「それでは、自分の教室に戻って食べなくてはね。それじゃ」


にこにこ。


 明らかに相手は途方に暮れていた。帰りたくないようだ。きっとナオトともっとくっついていたいとか思ってんでしょ、このクソガキ!


にこにこ。


 あたくしはそんな感情をおくびにも出さず、微笑んだままで彼女を見つめた。


「……はい。それじゃ、失礼します」


 彼女が淋しげに去っていくのを見送りつつ、あたくしは心の中で歓声を上げた。


(勝った!)


 あたくしの、この気品あふれる様子に帰るようじゃぁ、そんなに目くじら立てるほどでもなかったかしらね。


「久々に見たな、お嬢の慇懃無礼スマイル」


 隣でぼそっと呟いたイッペーの頭をスパーン! と叩いてから、あたくしは、再び昼食の席に着いたわ。さゆりもそれについて来る。


「イッペー、今のは……」

「気をつけろよ、なおりん。なまじこんなきれいな容姿なだけに、あーやって邪気のない顔をすると、相手はそれに従うしかなくなってしまうという、非常に極悪な……」


 イッペーの口が途中で閉じたのは、あたくしの下敷きが何故かその頭に飛んでいったからよ。天罰ね。


「いい、説明はいいよ、イッペー」


 いやに疲れた顔をしたナオトに、あたくしは声をかける。ちょっと、緊張して。


「ナオト、少し忠告があるのだけど」

「……お嬢って、俺のこと、そんな風に呼んでたっけ?」

「いえ、名指しで呼んだのは、今が初めてよ?」

「ふーん」


 やったー! これからは『ナオト』って呼んでもいいのかしら?


「増山さんのことだけれど、断ったのなら、思いきり拒絶してもよろしいんじゃなくて?」


 あたくしは、内面の嬉しさを隠しながら一番にに言いたかったことを言う。彼は、しばらく考え込む様子を見せた。


「うーん、そうだな。十分拒絶はしてるはずだけど」

「そうだぜ、お嬢。初日なんて結構ひどいこと言ってたよ、なおりんの奴」

「……そう、じゃぁ、向こうがしつこいだけなのかしら?」


 あたくしは、少し思案する。あのぶりっこをどうにかしないと、邪魔で仕方がないって言うのに。


「今日みたいにお嬢がやってくれれば楽なんだけどな」


 不意に話しかけられて、心臓が大きく跳ね上がるのを感じる。


「いっそのこと、なおりんが用心棒としてお嬢を雇っちゃえばー? 慇懃無礼スマイルで撃退してくれるぜ?」


 あたくしはいっぺーをすかさず下敷きで殴りつけた。


(……それもいいかもしれないわ)


 でも、裏腹に、心の中はぐらぐらと揺れ始めていたわ。

 

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