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偽装恋人

作者: 白石結衣

偽装恋人がいる。


彼は大変格好良く家柄も良く成績も教師受けも良い。そんな彼は男女問わず本人の意思も関係なく色恋沙汰に巻き込まれる。彼には思い人がいるらしい。慎み深く儚げで、少し抜けたところのある彼女を、影ながらではなく表立って支えたいと思い続けてはや数年。温められた恋心は、私のような平凡女子に偽装恋人を依頼するまでになってしまったらしい。

正直面倒くさい。何故なら私は色恋に全く興味がなく、人気絶頂の彼の恋人役という危険極まりない任務など荷が重すぎる。しかも完全な彼得。私の利益など一切ない。かと思いきやおもむろに取り出された数冊の書物。なんと!入手困難と言われる数々の愛すべき本たちが彼の手に。悩む時間すら惜しいと、すぐさま首を縦に振ったのでした。



「なつーかえろー」

「語尾を伸ばすな」

「駅前のクレープ食べにいこうよ」

「あの辺りは甘ったるい匂いがするから嫌だ」

「じゃあガレットのお店にしよう!」

「む。それならいいだろう」

「やった!いこいこ」

「手に触れるな」

「それじゃ手繋げないじゃん」

「では寒いことだし手袋をしよう」

「そんなのいーよ。ほら、ポケットの中で繋げば暖かいし」


偽装恋人を恋人と公表してから、彼は私をよく連れ出す。デートというものをして、周囲に印象付ける思惑らしい。友人曰く溺愛っぷりが半端ないらしいので、彼には天性の演技力まで備わっているようだ。

ところで彼の思い人が気になるところであり、あまりに偽装恋人にかまけているように感じたので聞いてみた。


「なつは心配しなくて大丈夫。予想以上に順調だから」

「そうかそれは良かった。私のことは偽装だと、ちゃんと分かっているんだろう?」

「んーと、まぁそうだね。分かってはいるかな」

「曖昧な言葉を使うな」

「うん分かった分かった」


私ごときが心配することではなかったようだ。彼は持てる全てをして彼女を捕らえるべく努力しているのだろう。



「あなたみたいな地味な女が遥くんの彼女なんて相応しくないのよ!別れなさい」


突然ですが巷で噂の「呼び出し」です。

遥くんとは私の偽装恋人の名前である。恋人だと公表したときから、彼はこの事態を想定していた。ゆえに対処もバッチリである。


「あーもしもし?こちら校舎裏です、どうぞー」

 ガピー

『すぐ行く』

 ガピー

「おい!無線らしい会話をしろ!」

 ガピー

『愛してるよ、どうぞ』

 ガピー

「意味不明なことを言うな!」



「お待たせ。で、俺の彼女になんの用?」

「無線の意味がない…」

「無線とかお遊び要素のあるものじゃないと使ってくれないだろう?」

「うぅ…むせん…むねん…」

「なつの駄洒落レアだね!おーいなつ聞いてる?聞いてないか。ちょうどいいや。ねぇ、俺の大事な大事な彼女にさ、手出す意味分かってる?やっとこうして手に入れたのに邪魔するなんて許されるわけないよね。ここにいる全員の顔は覚えたからすみやかに報復するのでよろしく。分かったら帰れ今すぐ」

「よし次は催涙スプレーにしよう!」

「さ、なつ帰るよ」


いつの間にか呼び出しと言う名の放課後の集いは終わったらしい。催涙スプレーは経費で落ちるのか?そんなことを考えながらアイスを食べて帰った。



「偽装彼氏さんや。偽装を始めてはや数年。高校どころか大学卒業間近ですがまだ続けるのかい?君ともあろう人がどれだけ時間をかけるつもりなのか是非その計画表を私にも見せてほしい」

「なつ、実はもう手にいれたも同然なんだけど、セックスに自信が持てなくて踏み切れないんだ。どうしたらいいかな?」

「自信を付ければいいだろう」

「なつ、協力してくれる?」

「断る」

「これな~んだ?」

「そっそれは入手不可能と言われた幻のっ…!」

「なつは可愛いなぁ」

「仕方ない協力しよう。しかし経験のない私で役に立つのだろうか?」

「もちろん。なつがそこにいるだけでみなぎってくるよ!」

「では好きにするがいい。初めてなので優しくしておくれ」



「あんあん」

「なつなつなつ可愛い可愛い愛してる。ふふ、ゴムなんていらない早く孕んで」



「なつー、これにおしっこかけて?」

「うぅ気持ち悪い…」

「はやくはやくー。終わったらゆっくり休めるからねー」

「うぅ…よくわからないが分かった。語尾は伸ばすな。うぅ…」



「なつ、明日は結婚式だよ」

「おぉおめでとう」

「やだなー他人事みたいに」

「え!?」



りんごーん♪


「なつ、一生幸せにする」

「君も子どもが出来たばかりに可哀想なやつだ」

「そんなことない。可愛いなつと一生一緒なんてこんな幸せはないよ!」

「価値観の相違だな」

「さぁ新居へ行こう!なんでも揃ってるからなつはもう外に出る必要なんてないからね。なつの好きそうな本もたくさん買って書斎に並べてあるよ」

「なにっ!あれはあるのかあの絶版のっ…!」

「あるある。さぁ帰ろうね」


私には偽装恋人がいたはずだ。それがいつの間にか正真正銘、名実共に夫になっていた。

なんという摩訶不思議な世の中。



終わり

誤字等ご容赦ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは………好きな人のために絶版の本を手に入れた奴が凄いと言うべきか……鈍感とかいうレベルではない主人公が凄いと言うべきか……。と考えてしまいました笑
[一言] ギャグ性もあるしストーリーも面白いです!! 何回も繰り返し読んでしまいます。 ほんっとに、なんか私のツボです。
2014/06/19 20:10 退会済み
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