第十一話 黄昏の決闘(血統):前篇
ヴァーリーリエは、低地ヴェストリア語で”睡蓮”という意味を持つ女性名詞である。
マグナブルクの州都ハイデルンより北北東に10ガル(1gal = 3km)ほど下った場所に、かつて”鹿角館”と呼ばれていたヴァーリーリエ城がある。歴代選帝侯たちが狩の合間の暖を取るために建てた猟館がその前身であり、今日のような形式になったのは美髭侯オットー2世の代からと伝わる。
四方を人工湖に囲まれた左右対称の四層の城館は薄桜色に塗られた外壁を持ち、その名が示す通り、群青に浮かぶ可憐な一輪の睡蓮を訪れた人に連想させる。
睡蓮の花言葉は予の生まれ故郷のそれとは大きく異なる。
「決心」「決別」の意味を持つ薄桃色の花が、春の木漏れ日の中で優雅に咲き、泡沫の流れと共に静かに水面を漂うその姿を見る時、予は一人の女性と過ごした日々のことを偲ばずにはおられぬのである。
睡蓮の城、それは他ならぬリエナ・アントーニア・ヴィ・ヴェストリア自身がこの地を訪れた時に命名したものであり、ゴルタ・ヴァーリーリエ(金色の睡蓮)は人々より”マグナブルクの猛女”と恐れられた彼女が、疾風の如く駆け抜けたその生涯を通して常に軍陣に飾った旗印であった。
後世の人々は言う。猛女の野望はこの地より始まったのだと。
しかしてその猛女のことを誰も正しく理解せず、そして、誰も深くは知らない。リエナ・アントーニア・ヴィ・ヴェストリアその人の、猛女と恐れられし彼女の本当の志が奈辺にありしか、ということを。
ゆえに予は、決して誰からも理解されることがなかった彼女の真の姿を、今ここに記さねばならぬ。故郷を遠く離れたこの地において、遺書や果たし状に添えられるこの睡蓮の花を見ながら。
この命尽き果てるまで語ろう。
金色の睡蓮はかく咲き誇り、かく戦えり……を
ラハイエル・ゴルタ・ヴァーリーリエ
(猛女との記憶 著者不詳)
何度も同じ場所をぐるぐると巡るような感覚だった。
尖閣の最上階へと続く長い螺旋階段は大人同士がようやくすれ違い出来る程度の幅しかない。マクシマスの馬体とほとんど同じか、すれすれの状態にも関わらず石の階段を駆け上がる速度は全く衰えを見せない。
馬は主に、主は自分の愛馬に、共に向って全幅の信頼を寄せていた。
「もうすぐ最上階だぞ!」
「ええ!見えてきた!」
木製の扉が二人に向ってどんどん近付いてくる。
「このまま押し通るぞ!!」
勢いそのままにマクシマスの前足が扉を蹴破った。
おかしい……
部屋に入った瞬間、リエナは眉間に皺を寄せる。そのリエナに続いてヨハン・グラハムも辺りをしきりに見回しながら困惑の表情を浮かべる。
そこに人影はまったくなかった。黄昏を浴びた無人の空間だけが二人の目の前に横たわる。
尖閣の最上階は展望室になっている。多角形の部屋の壁全てに背の高いガラス窓が入れられ、中央には円形のソファが置かれている。白い石の床全体がすでに橙色の光を部屋中に反射し、それがバックライトとなって天井に描かれた壁画に天然の朱色を添えていた。
リエナはグラハムからヴェンデンの娘が尖閣の屋根に登ったと聞いた瞬間、宝刀を持っているシエルに追捕の手が伸びたことを咄嗟に看破していた。とてもこの騒動を巻き起こしたシエル・フローラがすぐ近くにいるような緊迫した雰囲気がない。
もっとも、ここに来る道中で追っ手に一人も出会わなかった時点で既に気がかりだったが。
「ねえ、ヨハン……貴方はどうしてこの尖閣を選んだの?」
自分を振り返るリエナにグラハムも怪訝な表情を隠さなかった。
「どうしてって……今更何を言う。そりゃこっちの台詞だ。お前が右の方って言ったからに決まっているだろ?」
「私が右って言ったの?」
「ああ、そうだ。だから、僕はこっちに来たんだ」
「ふーん……右、ねえ……」
リエナは天井に目を向けると、顎に手を当てて思案顔を作った。そんなリエナの横顔をグラハムはじっと見つめる。
どこか他人事のリエナのこの言葉に加え、僅かな時間の間に全体的に食い違う言動が入り混じることに、グラハムは少なからず戸惑いを感じていた。しかし、掛け値なく純粋に人を信じる彼の天性が発揮されるまでもなく、リエナを見るグラハムの目はどこまでの透き通っている。
ドーム型の天井の内側には森羅万象の唯一神とその御遣いである八百万の精霊たちの神話をモチーフにした荘厳な壁画が描かれていた。
天井を眺めていたリエナは突然、ハッとした表情を浮かべた。
天井には壁画に挟まれるように等間隔に配置された6つの天窓が設けられていたが、そのいずれもが閉められたままであることに気が付いたのだ。
「ねえちょっと!右ってどっちの右?」
リエナは再びグラハムを振り返る。人並みはずれた乗馬術の持ち主は寝癖の付いた頭を掻きながら訝しそうな視線を返してきた。
「お前は何を言ってるんだ?右と言えば右しかないだろ?木偶人形の破片をくらってバカになったのか?」
「バカはどっちよ!!貴方から見た右?それとも私から見た右?」
「え?ちょ、ちょっと待てくれ。右が二つあるのか?頭が痛くなってきた……ええっと、お前の右が僕の……」
残念なイケメンはリエナの詰問に思わずたじろぎ、しまいには燃え盛る赤毛の頭を抱える有様だった。リエナは大袈裟にため息を付くとひらりとマクシマスの背中を下りた。そして、中央に置かれているソファの上に立つと両手に腰を当てて馬上のグラハムを睨む。
「もう!そんなに難しいこと聞いてないでしょ!貴方、確かさっき下で” 私を迎えに行った”って言ったよね?」
「ああ、その通りだ。お前が中庭の方にいるとフロイライン・エニグマから聞いたからな。走っていくよりマクシマスで行った方が断然早いだろ?まさかお前が異変に気が付いて途中まで戻って来ているとは思わなかったがな」
「そう!その時よ!私と会った時、貴方は何を見た?」
「お前の顔だ」
ガクッと体勢をリエナは崩す。足元の悪いソファのせいで足を踏み外しかけたこともあるが、大半は別の理由によるものだった。
「い、いや……そっちじゃなくって……風景的なものよ!」
「ああ、それなら中庭の前の噴水だ」
「はい!よくできました!じゃあ次の質問よ」
「まだあるのか……」
グラハムはうんざりしていた。既に知恵熱が出そうになっていた。
「この質問は重要よ?貴方だけじゃなくて私が答えを導くためにもね」
「なぜこんなことをする必要がある?ここじゃなければさっさと反対側に……」
「お黙りなさい!!」
「は、はい!」
リエナの一喝でグラハムの背筋がピンと伸びる。
「貴方さっきネルの同業者がいるかもしれないって言ったじゃないの」
「ああ、確かに言ったぞ?」
「私たちの凡ミスならまだ救いがあるけど、万が一に私たちが隔離されてたとしたらどうするの?結局、向こうに行っても同じ目に遭うだけじゃない?ネルのいう通り三等導師の仕事だとしたら、今の私たちはどっちにも解釈できるんだから、まず可能性を一つずつ潰すべきよ」
「え?ちょっとなに言っているか、まるでわからんのだが?」
今にもオーバーヒートを起こしそうなグラハムの顔を見たリエナは固有結界の話を省略することにした。
「難しく考えないでよ、ヨハン。じゃあ単刀直入に聞くわ。貴方が私を見た時、私はどっちを向いていたの?貴方と同じ方向?それとも……」
「あっ!!そうか!!よしわかった!!お前とは向かい合っていた!!ということはお前から見て右側なら、僕から見て左側ってことか!!」
「そういうこと!!つまり私たちは現場とは全く逆の尖閣に登った間抜けである確率が高いってわけね!!」
「なるほど!確かに間抜けだな!はっはっは!だが、そこに気が付くとはお前天さ……」
「もう!!バカ言わないでよ!!天才どころか私たちはこの上ないおバカさんってことよ!!くぅ!!恥かしいったらないわ!!」
リエナは裸足のまま地団駄を踏む。
「なら引き返すだけだ!乗れ!」
「却下!それじゃ余計遠回り!屋根伝いに向こう側に行った方が早いわよ!」
「だがそれだとマクシマスで走れんぞ……」
「ちょっとは馬から離れなさい!!」
その瞬間、まるで狙い済ましたように反対側の尖閣の方が騒がしくなる。若い男女の声色だった。近衛兵たちと使用人たちのそれとすぐに分かる。
「な、なに!?何があったの!!」
リエナは慌ててソファの背もたれに上がるがまったく天窓に届かない。ならばと背もたれの上からジャンプするが、それでもなお1m以上も窓枠とは開きがあった。
とてもではないが梯子でもなければ窓枠にすら手をかけることが出来ない。
「まさか……あの娘……」
「滅多なこと言わないの!贖罪の礼までとって助命嘆願するほどの根性を持ってる子よ?死ぬつもりなんて最初っからないわよ!」
「え?そうなのか?どうしてそう言い切れる?」
「あの子の目的は徹頭徹尾、自分から全てを奪った大公家に対する怨恨を晴らすことじゃないの?だとしたら復讐の目的を遂げるまで絶対に死にたくないって思うわ!なにが何でも生き延びてやるって思うに決まってるわよ!」
「僕はそうは思わないな。曲がりなりにも大帝アレクサンデル一世の帝国創業を助けた譜代十二諸侯の一角を占める名門の出自で、あの”一角の白騎士”ベルトルト・ヴェンデンの末裔だぞ?復讐は分かる気がするが、それが叶わないとなれば生き残るより名誉の死を選ぶのが貴族の道だろ。這い蹲ってでも生き延びて、しかもちまちまと付狙うなんてそんな女々しい発想をするとは思えん」
「本っっ当に!!清々しいほど男視点の発想ね!!女々しいに決まってるでしょ!!あっちもこっちも女なんだから!!」
「あ、なるほど……そういえばそうだな……」
馬上のグラハムは感心したように頷いた。
「それにしてもあの子!一体どうやってここを登ったのかしら!」
向こう側の尖閣もほぼ同じ構造の筈だ。リエナとほとんど変わらない背丈のシエルが自力で屋根の上に登ったとは到底思えなかった。まったく”恐ろしいほどの偶然”に偶然が重なったとでも言うのだろうか。
妙な胸騒ぎがした。
「うーん……もう!!あとちょっとなのに!!」
「いや、全然ちょっとじゃないだろ……お前は変なところで見栄を張るなあ……しょうがない。ちょっと待ってろ」
グラハムはため息をつきながら馬から下りると、まるで柳の葉に飛びつくカエルのようにソファの上でぴょんぴょんと飛び跳ねているリエナにズカズカと近付いていく。そしておもむろに後ろからリエナのスカートを瀟洒に捲る。
おまわりさんこいつです、と言われかねない行為も何故か芸術的な絵画の構図に見えた。
「ひゃっ!ちょ!ちょっと!何やってんのよ!」
たちまちリエナの顔は真っ赤になるが、グラハムは全く意に介さない、いや、それどころかむしろ彼は無駄に颯爽と爽やかに、暖簾でも潜るかのような優雅さでリエナのスカートの中に頭を突っ込む。
「きゃああああ!!へ、変態!!バカ!!バカ!!バカ!!」
スカートの前に出来た膨らみに向ってリエナは絶叫しながら両の拳を交互に振り下ろす。
「いた!いた!いた!おい!うつけ!それは僕の頭だぞ!モグラかなにかと勘違いしているのか!」
「は、はあ!?問題はそこなの!?そんなこと分かってるわよ!!私が聞きたいのは、なんで貴方の頭がこんなところから出てくるのかってことよ!!」
「つくづく面倒臭い女だなお前は……僕が肩車をしてやろうって言ってるんだ。人の厚意はありがたく受けるものだぞ?」
スカートの中で声がする以上、説得力は皆無だった。
「そうならそうって先に言ってよ!!厚意はありがたいけど行為自体はかなり問題だわ!!」
狙いを十分定めてリエナはスカートの中の紳士の後頭部を平手で叩く。
「イタタタ!!だ、だから頭はやめろ!!僕の頭がバカになったらどうするんだ!!」
「一体、何の心配してるわけ?これ以上バカにならないわよ!」
「たくっ……なんて奴だ……」
「それって凄く今の私のためにある台詞だと思うんだけど……それとも、こんなことで怒る私の方が非常識なのかしら?ヨハン、貴方といると時々自分に自信がなくなるわ……」
「そうか、なら僕の方が正しいってことだ(キリッ」
「うん、もういい。本当にごめんなさい。私が悪かった」
「分かればいい!ほら!これで見えるだろ!」
スカートの中から自信に満ち溢れたくぐもった声が聞こえる。リエナのため息もスカートがフィルターになって紳士の耳には届いていない様子だった。
全くふらつくことなくグラハムはリエナを肩に乗せたままソファに上がる。リエナはようやく尖閣の天窓から上体を出した。
簡単にやってのけているが、グラハムが並の膂力の持ち主ではないことを伺わせる。
リエナは外の様子を見た途端、はあっとため息を一つつき、窓枠に手を置いて片手で頬杖をついた。
「ええ、よく見える……本当に見え過ぎるくらいに、ね……こんな光景見たくもなかったわ……」
本館の屋根を眼下にして、向こう側の尖閣の屋根が見える。そのすぐ上を体長3mはあろうかという大型の飛竜が滞空している姿があった。
さきほどのざわめきが飛竜の登場によるものであることは明白だった。
シエル・フローラがいる左側の塔の周囲に渦の人だかりが出来ていたが、いきなり現れた飛竜にヴァーリーリエ城は蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。
「砲兵は何をやっている!早く大砲を運んで来い!」
「バカ言うな!!竜が近すぎる!!城からだと仰角が取れない!!」
眼下から慌てふためく近衛の少年士官たちの声がする。それを聞きながらリエナは何度目かのため息をついた。
「仰角以前にどうして誰も飛竜とシエルが近すぎることを心配しないのかしら……どうせお城に穴を開けて元も子もなくなるってのがオチよ。まあ、それは置いといて……」
リエナは視線を向こう側の尖閣に戻す。この騒動を巻き起こした渦中の人である筈のシエルの顔からは完全に血の気が失せていた。その様子は遠目に見ても手に取るように分かる。
「これってやっぱりピンチよね……どう考えても……」
明らかに自分の頭上を旋回している飛竜に怯えている。その姿からはとても首尾よく宝剣を手に入れた暁に飛竜で逃亡を図る、という用意周到な手はずが事前にあったようには見えない。
いや、それどころか飛竜が巻き起こす激しい風に晒されて、必死の形相で屋根にかじりついていた。
もはや、それは生に対する強烈な執念以外の何ものにも見えなかった。
そうよね……ここで死んだら元も子もなくなるよね……分かるわ……シエル、貴女の気持ちが……
本館を挟んで左右の尖塔に分かれた二人の少女の視線が交錯する。いきなりシエルと目が合ったリエナはぎょっとする。シエルのダークブラウンの瞳は何かをしきりに訴えていた。
その瞳に宿る強い情念にリエナは名状しがたい高揚を掻き立てられる。
それだけ大公家、いや、この私が恨まれているってことなのよね……たぶん……
やや穿った見方かもしれない。リエナにはその意識はあった。だが、今のリエナにはシエルの必死さがどこか自分に向けられる敵愾心のように思えなくもなかったのである。
そしてそれは恐らくヴェンデンの民草たちが根深く抱いているであろう怨嗟の炎のようにも感じるのだった。
「いい顔してるじゃない、あの子……絶対、何かをやり遂げてやるって強い意思を感じる目だわ……」
「誰がだ?」
スカートの中から紳士の声がする。
「さあ、ね……貴方もいい加減にそこから出てきたらどうなのよ?」
「それもそうだな……よし!がはっ!!」
グラハムの手がスカートの裾にかかった気配を感じたリエナは、踵を正確にグラハムの鳩尾にめり込ませた。
一方のシエル・フローラは抜き身の宝刀を握ったまま、自分の方に視線を送ってくるリエナ・アントーニアに必死に訴えかけていた。
助けてください、と……
どちらかというと哀願に近かった。
「うう、こんな時にどうして飛竜なんかが迷い込んでくるのよぅ……不幸すぎるよぅ……怖いよぅ……死にたくないよぅ……お父様ぁ……お母様ぁ……」
リエナが感じ取ったとおり、シエルは今、確かに生きようと必死だった。しかし、殺意に関しては徹頭徹尾持ち合わせたことはなく、その点だけには大いに誤解があった。
もっとも、外山ショウが体験した部分が完全に欠落した断片情報しか持たない今のリエナにそれを看破しろというのも酷な話ではあったが。
その時だった。自分の上空をゆっくりと旋回していた飛竜から甲高い男の声が聞こえてきた。
「ヴェンデン伯ヨアヒムの娘よ。その手に持っている一角獣の宝刀をこちらに渡して貰おうか?くふふふ。お前から全てを奪いつくした憎きあの猛女に一太刀も浴びせられぬままこんなところで朽ち果てたくあるまい?くふふふ」
「だ、誰!?あなたは何者なんですかぁ!」
シエルの声はほとんど涙声だった。
「くふふふ。どうせ死んじゃうお前には特別に我輩の名前を教えてあげようじゃないか。我輩の名はギョーム。お前が手に入れたその宝剣を受け取りに来たものさ。くふふふ」
不自然な抑揚を付けてシエルを見下ろすギョームと名乗るその男は顔まですっぽりと黒いフードで多い隠しており、飛竜の背中に備え付けられている大人四人が入れそうなゴンドラの中にいた。
200mはゆうに離れているにも拘らずギョームとシエルの会話はクリアにリエナに聞こえていた。リエナは内心驚いたが、それ以上に緊迫していく自体の方が今は圧倒的に気がかりだった。
そして何よりもギョームが身に纏っているあの黒いローブには見覚えがあった。沸々と血が滾っていく。
「そうか……そういうことか……最初からあの宝刀だけが目的だったってわけね……」
シエルと謎の男ギョームのやり取りをじっと凝視するリエナは忌々しそうに呟いていた。
悪竜め……ついに馬脚を現したわね……何が目的かは知らないけれど、最初から帝国諸侯譜代十二家に伝わる家宝を狙ってたんだ……
ということは……
今度は尖塔の屋根に何とかしがみ付いているシエルの方にリエナは目を向けた。
「可哀想に……あの子、きっとあのインチキ魔法使いに教唆されたか、煽られたか、どっちにしてもヴェンデン伯を想う一途な気持ちに付け込まれて利用されちゃったみたいね」
女の気持ちを踏み躙るなんて絶対に許さないんだから!!悪竜!!
リエナの瞳が怒りに燃えていた。
許さないわよ、悪竜……ぜったいに……