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ホワイト・ラピッド・ライトニング  作者: 天風 御伽
第二幕  MoonlessNight and Avenger
33/36

二章 10/   ――とある夜、三



 泣く子も眠る、丑の刻。

 月も雲に覆い隠され暗黒が支配した空間に、ある一人の男が佇んでいた。光を灯していない街灯に背を預けて何処いずこかを眺めていた。

 そこは、人気が全く無くなってしまった橋の上だ。橋といっても、車が通るような橋ではない。強いて言えば、公園の池を跨ぐひっそりとした橋だ。


 長身を包む黒いコートが、まるで闇に溶けているようだ。襟の間から見える首元には銀に光る飾りがあった。

 男は、人を待っていた。

 自らの願いを果たすために――大事なものを捨ててまで。


「やあ――待たせてしまったかな」

「ちっ。遅いぞ」


 声に次いで、闇の中から浮き出るように姿が現れた。赤みを帯びた茶髪も、気だるそうな瞳も、だらしなく歪められた口元も。全てが黒く染まっていて、当の男はそれを知らない。だが男にとって現れた人間の容貌などどうでもよかった。


「まずは、自己紹介からだね。よろしく、僕は朝威識々と呼ばれる者だ」

「朝威――か」


 鸚鵡返しに呟いて、その視線を識々から外す。


「手はずは?」

「大丈夫。明日、僕のとこのメンバーにも紹介するよ」

「……そうか」


 識々は男の横の欄干に凭れかかった。


「君も大変だねぇ。何があったのか僕は知らないけど、とんでもない覚悟だ。それ(、、)は。そうまでして、何を求めるんだい?」

「あんたには関係のない話だ」

「いいや、あるよ。だって、君にとって僕は雇い主のようなものだ。僕もそういう立場であるからには協力は惜しまない――けど、僕のモチベーションのためにも、ね。大事な話は、先にしておいて貰いたい」

「何度も言わせるな。朝威には関係ない」

「本当にそうかな」

「……どういう意味だ」

「僕なしで、君はこの町で求めているものを見つけられると思ってるの?」

「…………」


 識々の言葉には、口調とは裏腹に威圧的な重さが含まれていた。顔を、目を合わさずとも感じるそれを、男はなんと形容すればいいのか、言葉を見つけられない。ただ思ったのは、この男には何かある、という漠然とした感覚だけだった。


「……ああ」

「なに?」

「たとえ、お前がいなくとも、俺は()を探し出す。その邪魔をする奴は――誰であろうと、斬り払う。朝威、お前もだ。立ちはだかるな。ただ俺の前に道を用意してくれさえすればいい。それ以上は望まない。それが守れないようなら――斬る」

「……なるほど。過去は話したくはないと。まあいいけどね」


 識々は小さく笑って、欄干から身を離す。


「じゃあ、僕は帰るよ。また明日。……それと、君、結構恐いもの知らずだね。僕を斬った暁には、凶悪な番犬が地獄まで追ってくることになるよ。僕、割と要人なんだよ」


 現れたときと同じように、闇に溶け込むように姿が消えていく。それを男は目で追って、識々が完全に見えなくなるとそれをあてどなく彷徨わせた。


「……だからどうした」


 斬りたいものは、何が何でも斬る。

 そう悪態をついて、男は中空を眺め続けていた。



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