首席と次席
本作は、長編ファンタジー『王域の軍師』の関連短編です。
エテルナ士官学校で出会った、首席レオン・アイゼンと次席エラスムス・ヴォイド。
二人の学生時代を描いた物語です。
本編未読の方でもお楽しみいただけるように書いています。
エテルナ士官学校の本館前、掲示板の周りには朝から人だかりができていた。
前期考査の成績順位が、貼り出されたのだ。
首席、レオン・アイゼン。
次席、エラスムス・ヴォイド。
人垣の後ろから、囁き声が聞こえてくる。
「また首席はアイゼンか」
「そりゃそうだろ。軍務局長の息子だぞ。教官だって点を甘くするさ」
「次席は……ああ、あいつか」
「近寄らない方がいいぞ。あいつの隣にいただけで、医務室送りになった奴がいるらしい」
エラスムスが一歩踏み出すと、目の前の人垣が、潮が引くように左右へ割れた。誰かが小さく息を呑み、誰かが肩を引く。目を合わせようとする者は一人もいない。
いつものことだった。
異能のことが知れ渡ってから、エラスムスの周りには、常に人一人分ほどの空白がある。最初の頃はそれなりに煩わしく思ったが、今では便利だとさえ思っている。おかげで掲示板の前まで、誰ともぶつからずに辿り着ける。
首席との総合点の差は、僅か三点だった。
前回は七点差だった。この調子なら、次は届くかもしれない。
不意に、背後の空気が変わった。
「アイゼン、おめでとう!」
「さすがだな。また首席か」
振り返ると、人垣がもう一度割れていた。今度は、愛想のいい笑顔と一緒に。
その間を、背筋の伸びた青年が歩いてくる。差し出される手を一つずつ握り返し、掛けられる言葉に丁寧に礼を返していく。祝いの言葉を口にする顔ぶれの中には、ついさっき「教官だって点を甘くする」と囁いていた学生の顔もあった。
エラスムスは、冷めた目でその光景を眺めた。
同じように割れる人垣でも、自分の周りの空白の方が、まだ正直だ。
青年は人の輪を抜けると、真っ直ぐこちらへ歩いてきた。
「君がエラスムスですね」
「そうですが」
「レオン・アイゼンです。よろしくお願いします」
青年は、ごく自然に右手を差し出した。
エラスムスは、その手を見下ろした。
この男は、自分の異能を知らないのだろうか。周りの学生たちが息を詰めてこちらを窺っているのが、視界の端に映る。だがレオン本人は、その視線にも足元の空白にも気付いていないかのように、手を差し出したまま待っている。
知らないのなら、そのうち誰かが教えるだろう。そうすれば、この手もすぐに引っ込められる。
エラスムスは、その手を握り返した。
「こちらこそ、首席」
レオンは穏やかに微笑んだ。周囲のざわめきなど、まるで耳に入っていない顔だった。
「……変わった人ですね」
思わず漏れた言葉にも、レオンは小さく首を傾げただけだった。
それが、首席に対するエラスムスの第一印象だった。
◇
十日後、救出演習の実地試験が行われた。
演習場の一角に、崩れた市街を模した区域が設けられている。半壊した壁、積み上がった瓦礫、入り組んだ狭い路地。その奥に、負傷者に見立てたダミー人形が横たえられていた。
試験官が、学生たちの前で条件を読み上げる。
「二人一組で、人形を救出地点まで運べ。人形は成人と同じ重さがある。一人で運べるとは思うな。経路には攻撃用の仕掛けを多数配置した。訓練用だが、当たれば痛いし、多少の怪我もする。人形を抱えている以上、全てを避けられるとも思うな。制限時間内に運び終えれば合格だ」
試験官は手元の板を閉じた。
「以上だ。組を作れ」
号令と同時に、学生たちが動き出した。顔見知り同士が声を掛け合い、次々と組ができあがっていく。
エラスムスの周りだけが、動かなかった。
エラスムスの異能は、自分が受けた損傷を、最も近くにいる人間へ転嫁する。転嫁された損傷は相手の身体へ直接届く。学生たちが身に着けている訓練用の胸当てなど、何の役にも立たない。
人形を二人で運ぶ以上、最も近くにいるのは相棒だ。相棒は自分に当たった攻撃に加えて、エラスムスに当たるはずだった攻撃まで、その身で受けることになる。
「誰があいつと組むんだよ」
「自分の分だけでも大変なのに……」
空白の向こうから、ひそひそとした声が届く。
エラスムスは腕を組み、それを聞き流した。
予想どおりの反応だった。自分が彼らの立場でも、同じ判断をするだろう。損をすると分かっている相手と、好んで組む理由はない。合理的な判断だ。責める気にもならなかった。
問題は、試験の方だった。相手がいなければ、人形は運べない。いずれ最後に余った誰かと、試験官の指示で組まされることになるのだろう。その誰かは、今頃組み損ねた自分の不運を嘆いているに違いない。
「では、私が組みましょう」
空白の向こうから、穏やかな声がした。
レオンが人垣を抜け、こちらへ歩いてくる。
周囲が一斉にざわめいた。
「アイゼン! お前、そいつの異能を知っているのか!?」
「ええ。知っていますよ」
「だったら、どうして!」
レオンは、なぜそんなことを聞かれるのか分からないという顔で答えた。
「二人でなければ、負傷者を救出できないのでしょう?」
問い詰めた学生が、言葉に詰まる。
レオンはエラスムスへ向き直った。
「優秀な君と組めば、課題を達成できますね?」
エラスムスは眼鏡を押し上げた。
「可能でしょう。ですが、私が異能を使えば、貴方は二人分の損傷を受けることになりますよ」
「承知しています」
「……構わないのですか?」
「それで負傷者を救出できるなら、問題ありません」
気負った様子は、どこにもなかった。身を差し出す覚悟を語っているというより、試験の手順を確かめているような口ぶりだ。
エラスムスには、それが理解できなかった。
「私の異能を、恐ろしいとは思わないのですか?」
レオンは少しだけ考えた。
「危険な異能だとは思います」
そして、続けた。
「ですが、君は好きでその異能を選んだわけではないでしょう?」
エラスムスは、言葉に詰まった。
恐れられたことはある。避けられたことは数えきれない。だが、そんなことを言われたのは初めてだった。
「どんな異能を持っているかと、その人がどんな人間なのかは、別の話だと思います」
「……随分と甘い考えですね」
「そうかもしれません」
レオンはあっさりと頷いた。言い返しもせず、引き下がりもしない。
それが、妙に癇に障った。
この男は、分かったつもりになっているだけではないのか。二人分の損傷がどういうものか、知識として知っていることと、その身で受けることは違う。
一度、受けてみればいい。
そうすれば、この甘い考えも少しは改まるだろう。
そんな考えが頭をよぎり、エラスムスは小さく息を吐いた。今は試験が先だ。
◇
開始の笛が鳴った。
周りの組で、学生たちの瞳が淡く光り始めた。異能で瓦礫を持ち上げる者、風を起こして砂袋を払い落とす者。区域のあちこちで、異能を使った攻略が始まっている。
隣のレオンの瞳は、光らなかった。この場面で役に立つ異能ではないのだろう。エラスムスはそれ以上考えず、人形へ目を向けた。
二人は試験区域へ踏み込み、人形の傍らに膝をついた。レオンが肩の側を、エラスムスが脚の側を抱え、短い合図で持ち上げる。ずしりとした重みが、腕から腰へと伝わった。
「右の路地から入りましょう。正面の広場は見通しが良すぎます」
レオンの提案に、エラスムスは短く頷いた。
「同意します」
路地へ入ってすぐ、レオンが顎で前方を示した。
「三つ目の角の先、壁の上に何かあります」
エラスムスは目を凝らし、壁の上で揺れる丸太の動きを数えた。
「振り子式の打撃でしょう。……およそ六拍ごとです」
「では、次の振りに合わせて抜けます」
言葉は、少なくて済んだ。
レオンが前方の進路と仕掛けの位置を拾い、エラスムスがその仕掛けがいつ、どこへ動くかを読む。どちらかが口を開けば、もう一方は説明を求めずに動いた。
首席と組むのは悪くない、とエラスムスは思った。少なくとも、余計な確認に時間を取られずに済む。
だが、区域の中ほどを過ぎた辺りから、仕掛けの密度が一気に増した。
左右の壁から木杭が突き出し、足元の板が跳ね上がる。頭上からは砂袋が落ち、崩れた瓦礫が進路を塞ぐ。人形を抱えたままでは、身を捻ることすらままならない。
右から振り出された木杭が、レオンの肩を打った。
鈍い音がして、レオンの身体が大きく傾ぐ。だが、人形を支える腕は緩まなかった。
「大丈夫です。進みます」
顔をしかめたのは一瞬だけだった。レオンはすぐに体勢を立て直し、前へ足を運ぶ。
エラスムスは、その様子を冷静に眺めていた。首席が一撃を受けた。速度は落ちていない。進路にも支障はない。それだけのことだ。
次は、自分の番だった。
左手の壁で、留め具の外れる乾いた音がした。振り出される角度からして、狙いは自分の脇腹。人形の脚を抱えたこの体勢では、避けようがない。
普段なら、考えるまでもない場面だった。
異能を使えば、損傷は最も近くにいる人間――レオンへ移る。自分は無傷で済む。
レオンも、それを承知のうえで隣に立っているのだ。
木杭が迫る。
脳裏に、あの声が蘇った。
『ですが、君は好きでその異能を選んだわけではないでしょう?』
甘い。
あまりにも甘すぎる。
エラスムスは、異能を発動しようとした。
しかし、その瞬間。
なぜか、ためらった。
使えばいい。
それだけのことだ。いつもと同じように。迷う理由など、どこにもない。
それなのに、どうしても発動できなかった。自分が何に引き止められているのか、エラスムス自身にも分からない。
眼鏡の奥の瞳は、光らなかった。
木杭が、脇腹を打った。
息が詰まった。衝撃が肋の内側まで響き、視界の端が一瞬白む。膝が折れかけ、それでもエラスムスは、人形の脚を放さなかった。
鈍い痛みが、遅れて脇腹に広がっていく。
自分の身体で痛みを受けたのは、いつ以来だろう。
顔を上げると、人形の肩越しに、レオンがこちらを振り返っていた。その視線が、エラスムスの眼鏡の奥へ一瞬だけ留まる。
何か言われるかと思った。
だが、レオンは何も尋ねなかった。
「行けますか」
「……問題ありません」
「では、進みます」
レオンは前へ向き直り、再び人形の重みを引き受けた。
救出地点を示す旗が、瓦礫の向こうに見えてきた。
「残り三分!」
試験官の声が、区域の外から響く。
最後の通路は、それまでで最も狭かった。両側の壁から木杭が交互に突き出し、足元には跳ね上がる板がいくつも並んでいる。突き当たりには、崩れた壁が胸の高さまで積み上がっていた。
レオンが人形の肩を抱え直し、重心を低く保ったまま足元を確かめる。
「板は、左端を踏めば作動しないようです。杭の方は」
「右、左、右の順です。最後の右の後に、少し間が空きます。……三つ数えたら」
「お願いします」
「一、二……今です」
二人は同時に踏み出した。右の木杭がレオンの背中をかすめ、左の木杭が戻っていく。その僅かな隙間を、人形ごと抜ける。突き当たりの壁はレオンが先に乗り越え、エラスムスが下から人形を押し上げた。
旗の下に、人形をそっと横たえる。
ほとんど同時に、終了の笛が短く鳴った。制限時間内だった。
「やりましたね」
レオンが額の汗を拭いながら言った。打たれた肩の辺りで、制服の布地が薄く裂けている。
「ええ。予定より少々時間が掛かりましたが」
「十分な結果でしょう」
「首席と次席が組んだのですから、当然です」
レオンは穏やかに笑った。
エラスムスはその顔を一瞬見つめ、それから目を逸らした。
脇腹が、まだ鈍く痛む。
あの時、なぜ異能を使わなかったのか。その答えは見つからなかった。
◇
試験を終えた学生たちが、教官室の前で演習記録を受け取っていた。
記録用紙には、経過時間と被弾の回数が書き込まれている。レオンの欄には二回、エラスムスの欄には一回。
隣で用紙を覗き込んでいたレオンが、口を開いた。
「君は、異能を使いませんでしたね」
「ええ」
「理由を聞いても?」
エラスムスは少し考えた。
本当の理由は、自分でも分からない。分からないものを、話すつもりもなかった。
「必要ありませんでしたので」
「君なら、もっと楽に突破できたのでは?」
「結果は変わらなかったでしょう」
エラスムスは、平然と続けた。
「それに、首席の貴方が足を引っ張るようなことになっては困りますので」
皮肉のつもりだった。
だがレオンは、気にした様子もなく頷いた。
「そうですね。ありがとうございました」
「……何のお礼ですか?」
「君のおかげで、無事に救出できました」
エラスムスは、一瞬言葉に詰まった。
異能を使わなかったことへの礼ではない。この人は、演習の最中に自分が読んだ間合いや、伝えた拍のことを言っているのだ。異能の危険ではなく、次席としての判断を見ていた。
空白の向こうから自分を眺めていた学生たちとは、まるで違う。
「……変わった人ですね」
「またそれですか」
「何度でも言いますよ」
レオンが小さく笑う。
エラスムスは、なぜかその笑顔から視線を外した。
◇
その日の夕方、エラスムスが校舎を出ると、石段の下でレオンが待っていた。
演習の講評がまだ話し足りないと言うので、並んで校舎の壁沿いを歩く。西日が中庭の芝を斜めに照らし、二人の影を長く引き伸ばしていた。
ひとしきり講評を終えたところで、エラスムスは足を止めた。
「貴方は、本当に私の異能が恐ろしくないのですか?」
レオンは、演習の前と同じように答えた。
「危険だとは思っています」
「それでも、私と組んだ」
「ええ」
「理解できませんね」
レオンは少しの間、西日の方へ目を向けていた。
「アイゼンの息子だから首席になれた、と言われることもあります。でも、それで私の実力が決まるわけではありません」
掲示板の前で聞いた囁き声が、エラスムスの耳に蘇った。
レオンがこちらを向く。
「君は、私が父の力だけで首席になったと思いますか?」
「いいえ。貴方の実力は認めています」
考えるより先に、答えが口から出ていた。三点差の悔しさは、誰より自分がよく知っている。ただ、それだけのことだ。
レオンは微笑んだ。
「ありがとうございます。私も君の実力を認めていますよ」
エラスムスは、思わずレオンを見返した。
この人は、異能で相手を測らない。父の名で測られることを嫌うのと同じように、こちらの異能ではなく、こちら自身を見ている。
だからこそ、余計に理解できなかった。
「……私は、貴方の理想論が嫌いです」
「君とは意見が合いそうにありませんね」
「ええ。今後も一致することはないでしょう」
「ですが、君の能力は頼りにしていますよ」
エラスムスは一瞬黙り、視線を逸らした。
「……期待されましても困ります」
二人の考えは、少しも重ならなかった。
それでも、互いの力だけは、確かに認め合っていた。
◇
救出演習から、しばらく経ったある日のことだった。
昼下がりの中庭で、エラスムスは木陰の長椅子に腰掛け、書物を開いていた。異能の作用について記された古い研究書で、図書館から借り出してきたものだ。
少し離れた芝の上では、レオンが同級生たちと話していた。あの演習以来、エラスムスを遠巻きにする学生たちは相変わらずだったが、レオンの周りには、いつも誰かがいる。
エラスムスは頁をめくった。
そして、同じ行を何度も目で追っていることに気付いた。
視線が、いつの間にか書物を離れている。
レオンが笑っている。誰かの肩を叩き、何かを言い返す。名を呼ばれ、振り返る。そんな何でもない仕草を、気が付けば目で追っていた。
エラスムスは慌てて書物へ視線を戻した。
レオンは首席だ。自分にとっては、超えるべき競争相手でしかない。だから気になるのだろう。相手の癖や振る舞いを観察するのは、次の考査に向けて合理的なことだ。
そう結論づけて、頁の続きを読む。
数行も進まないうちに、またレオンを目で追っている自分がいた。
教官に呼ばれたのか、レオンが輪を離れて歩き出したところだった。その背中が遠ざかるのを待っていたように、残った学生たちが顔を寄せ合う。
「いいよな、親の七光りは」
「教官まで、わざわざ呼びに来るんだもんな」
笑い声に混じった囁きが、風に乗って木陰まで届いた。
レオンは、振り返らなかった。
ただ、中庭の端で一人になったその横顔が、一瞬だけ、ひどく寂しげに見えた。回廊の向こうから別の学生に呼ばれると、レオンはまた、いつもの穏やかな顔で振り返った。
誰も気付かなかっただろう。
ずっと見ていた自分以外は。
人の輪の真ん中にいながら、この人もまた、一人なのか。
「……馬鹿馬鹿しい」
エラスムスは吐き捨てるように呟き、書物を閉じた。
眼鏡を押し上げ、足早にその場を後にする。中庭の笑い声が背後へ遠ざかっていくのを、聞かないようにしながら。
◇
時が流れ、卒業式の日が来た。
最終成績は、首席レオン・アイゼン、次席エラスムス・ヴォイド。
二人の順位は、一度も入れ替わることがなかった。僅かな差は、最後まで埋まらなかったのだ。
式を終えた校庭で、レオンは今日も人の輪の中心にいた。
「アイゼン、卒業おめでとう!」
「軍務局長にも、どうかよろしく伝えてくれ」
「配属が決まったら、口を利いてくれよな」
レオンは一人ひとりに丁寧に礼を返していた。だが、掛けられる言葉のほとんどは、レオンではなく、その後ろにいる父へ向けられたものだった。
やがて輪がほどけ、レオンが一人になる。エラスムスは、その背中へ声を掛けた。
「おめでとうございます、首席」
「次席にそう呼ばれても、然程嬉しくありません」
「それは残念ですね」
いつもどおりのやり取りだった。
レオンが尋ねる。
「君は、これからどうするんですか?」
「研究を続けます。私は軍人より研究者に向いていますので」
「君らしいですね」
「貴方は?」
「父のような軍人になりたいと思っています」
エラスムスは、少し意外に思った。
「父親の名前で判断されるのが嫌なのでは?」
「ええ。ですが、幼い頃に憧れた父の姿まで否定するつもりはありません」
レオンは校門の方へ目を向けた。
「目の前の人を守れる軍人になりたいんです。父の息子としてではなく、私自身の力で」
エラスムスは眼鏡を直した。
「相変わらず、理想論がお好きですね」
「君も相変わらずですね」
二人は、小さく笑った。
それ以上、言葉は続かなかった。レオンは軽く会釈をすると、校門の方へ歩き出した。
エラスムスは、その背中を見送った。
ふと、救出演習の日のことを思い出す。
誰も、自分と組みたがらなかった。空白の向こうで、誰もが自分を避けていた。それなのに、あの人だけは、何のためらいもなく隣へ立った。
気が付けば、遠ざかっていくその後ろ姿を、いつまでも眺めている自分がいた。
「……首席」
思わず、呼び止めていた。
レオンが振り返る。
「何でしょう?」
エラスムスは一瞬、言葉を探した。
「貴方の理想が、いつまで続くのか楽しみにしていますよ」
レオンは穏やかに答えた。
「では、見届けてください」
そう言って、再び歩き出す。
エラスムスは、その背中を見つめていた。
やがて眼鏡を押し上げ、自分も歩き出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、レオンとエラスムスの士官学校時代を描いてみました。
考え方も価値観も違う二人ですが、互いの実力だけは誰よりも認め合っていたのかもしれません。
二人の関係をどのように感じたか、ぜひ感想で聞かせていただけると嬉しいです。
本作は、長編ファンタジー『王域の軍師』の関連短編です。
本編では、成長した彼らが生きる世界と、その中で繰り広げられる物語を描いています。
ご興味を持っていただけた方は、ぜひ本編もお楽しみください。
▼『王域の軍師』本編はこちら
王域の軍師 ー世界はまだ、私に嘘をついているー
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