2-3 騎士団と通りすがりの娘
険しい顔でシレーヌ達に声を掛けてきた男はおそらくこの中でも地位がある男なのだろう。大人しくシレーヌは話を聞こうと、ショックを受けているノアの背を叩いた。
「騎士団第二部隊所属、ゼー地区担当魔術部隊長のアーベル・ゼーベルクだ。詳しい話を聞いてもいいだろうか」
低く耳心地の良い声だ。
不思議と安寧を感じる落ち着いた声にシレーヌはゆっくりとした動作で首を縦に振る。
シレーヌとノアは座席に腰をかけ、対面にアーベル部隊長が座った。
「何故危険な真似をした。見た所子供だろう、命を落とす可能性があったんだぞ」
「……あー、あのまま放置してれば車両倒れる可能性があった。出来れば早めに首都に行きたかったんだ……それに、騎士団はそうそう動けなかっただろう」
後半の方は声を抑えて伝えれば、アーベルは目を見開いた。だが瞬時に表情を戻し話を続けてくる。
「君たちは私たちが騎士団だと気付いていたのか?」
「シレーヌがあそこの二人の顔知ってたんだよ。だからわかったとさ」
指でさすノアの手を無理やり下げ、シレーヌは頷く。今回騎士団だと気付けたのは偶然だ。
たまたま見知った顔があり、そこに周囲を警戒する親子がいたとなれば現場の状況は想像が着く。
「なるほど……少し遅くなったが礼をしよう。ありがとう。君たちの早急な対応で被害も最小限で収まった」
「いや、別に礼を言われるようなことはしていない。私は早く首都に向かいたかっただけだからな、勝手にやっただけだ」
あくまで勝手な判断だ。
アヴィスならば窓越しにカエルを燃やしただろう。
そんな高等技術を使えるわけのないシレーヌはあれが最善策だと思い、外へ出て勝手に凍結させた。そこに見返りを求める下心なんて一切なかった。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん」
重い空気を断ち切るように、子供が声を出す。後ろには母親が申し訳なさそうに立っていた。
「どうしたんだ?」
「カエルさん死んじゃったの……?」
「死んではいないよ、眠っているだけだ。氷が溶けたら目が覚める」
子供の表情が明るくなる。怖い思いをしただろうに、生死の確認をするあたり肝が据わっているのだろう。いや、子供とは得てしてそういうものだ。
シレーヌは顔をほころばせ、少女の頭に手を伸ばした。
「泣かなくて偉かったな」
「アリアもう六歳だもん!お姉ちゃんになるから泣かないもんね」
「はは、そうか。お姉ちゃんになるのか」
柔らかい茶髪を、穏やかな手付きで撫でるシレーヌの顔は鋭利さを感じる美人だからこそ見惚れてしまう美しさがあった。
少女はぽっと頬を紅く染め恥ずかしそうに俯いた。
一方で周囲にいた大人は、逆に身震いするような神聖さに息を飲み筋肉を硬直する。
ノアだけは、満足気に周囲の反応を見ていた。
何も珍しいことでは無い。
「流石だな」
平民といえど貴族出身の宮廷に幼い頃から通っていたシレーヌは、生まれながらの容姿だけでなく気品も兼ね備えていた。
そこら辺はリーゼや先生の指導の賜物だ。
貴族だと勘違いされることもしばしばあったが、それほどの風貌を持ち合わせているということなのだ。
ノアとしては契約者がそれほど美しいと評されることは満更でもない。
「……で、そこのおっさんたちぃ!?」
「騎士団の方々はどうしてこの列車に?当事者になったかもしれない身としては、聞いておく権利はあると思うが」
ノアは足の甲を踏みつけられ、呻き声を上げながら身体を丸めた。すっかり無表情に戻ったシレーヌも話を戻す。
「私から話そう」
上質なスーツに身を包んだ男が手を挙げ、近寄る。
一度だけ目が合っただけなのであまり印象がなかったが、髭を生やした優しげな風貌で、気の弱そうというより、穏やかな父親のようだ。




